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転生した勇者は、どこまでも営業マンだった  作者: 鶴嶌大晩
第2章 魔王様の別荘問題
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第2章 第9話 魔法使い・カウィズ

「ちょ、ちょっと待ってよ・・・。どうして・・・?」


魔法使いカウィズは小躍りをしている村の人々が放った言葉に、耳を疑った。


『人間と魔族が和平を結んだ』・『勇者が平和の仲介人となった』・『魔王は人間との平和的共存を望んでいる』


「だって勇者はワタシの誘いを断って・・・。いやワタシだけじゃなくて戦士や格闘家も仲間にせず・・・」


だから勇者レザは簡単に魔族に殺されると思っていた。たった1人で魔王のところに行けないとも思っていた。なのに、なのにどうして。


「ど、どうしてお父様やお母様は喜んでるの・・・?ワタシ、魔王を倒して勇者の妻になるっていう期待を裏切っちゃったんだよ・・・?」


彼女は魔王を倒すという目的だけを見据え、必死の思いで生きてきたのだ。





魔法使いのカウィズも転生した女性だった。前世の名は錐川穂那美すいかわほなみという。


貧しい家に生まれた彼女は非常に成績優秀で、将来は人の役に立ちたいと医学部を目指しながら浪人を続けていた。


家計は苦しかったものの、親族を含めた周囲の大人は皆が心優しく穂那美に様々な言葉をかけてサポートしていたのだが、しかし彼女にとってそれらはまるで真綿で首を締めるようなプレッシャーになってしまっていた。


それに既に有意義なキャンパスライフを送っていた中学や高校の友人達からも、頻繁に様子を窺う連絡が穂那美のスマホには届いていた。そしてそこに躍る文字というのは、まさに本心からくる応援の気持ちが常に綴られていた。


しかし真面目な穂那美にとってはそれも「家族や友達の期待をこれ以上に裏切ってはいけない」と強く思ってしまうような材料になってしまし、さらにその精神は追い込まれていく。


変化が無い中で予備校に通い、授業を受け、帰宅する。


夜間に耳をすませば、薄暗い部屋で両親が貯金について話している。


耐えかねた穂那美は幾度となく「医学部受験はもう諦める」と言っても、両親は「医者になりたいという立派な夢を叶えて欲しい」と返答し、優しく背中を押してくれた。


しかし20歳を超えてしばらくして同級生達も次の人生のステップに到達していくと彼女の焦りはさらに強くなっていく。


そしてそんなある日。彼女は命を落としてしまう。


原因はストレスを発散するために常習化していた膨大な量の飲酒。


予備校に通い、受験勉強を続けていた真面目な彼女。しかし頭の中にこびりつく不安感・プレッシャー・罪悪感を払いのけるためには、親の目を盗んでは自室で酒を流し込み続けるしかなかったのだ。


つまり錐川穂那美の体は、もう既にボロボロになっていた。


こうして翌日に大事な模試を控えていた中。


床にもう隠しきれなくなった酒の空き缶が何個も転がる中、彼女は部屋のイスに座りながらその生涯を終えてしまったのである。





そして彼女は転生した。


魔王を倒す選ばれし魔法使いカウィズとして。多くの魔族を葬った伝説の魔法使いの子孫として。


カウィズはこの世界にて生まれてからずっと『打倒魔王』を目標とされた教育を受けてきた。育ってきた地域がこの世界の中でもトップクラスに魔族への嫌悪が強いという環境の影響もあったが、真面目だった彼女はその教えを忠実に守り、様々な魔術を身につけてきたのだ。


さらに彼女は周囲の大人から「西の国には勇者が鍛錬をしているらしい。お前はいつかその男の仲間になり、魔王を倒し、妻になって欲しい」と期待をかけられ続けていた。


その結果としてカウィズは。


「せっかく転生できたのに、ここでも周りからの期待を裏切るだなんて絶対にダメだ。今度こそは成果を上げなければ」


と思うようになっていった。


カウィズは来る日も来る日も自分自身を追い込むように魔術の鍛錬に励む。それはまさに血が滲むような努力であり、時に鬼気迫ると言っても差し支えないようなものであった。


そして今から1年前。ようやく自身が暮らしていた村の近くに勇者レザが訪問してきた。


そこで彼女は意を決して、レザに声をかけたのだが。


『あ、あの・・・。ワタシは魔法使いです・・・。と、共に魔族を倒すために冒険をしませんか・・・?』


『お気持ちは嬉しいのですが、今回はお断り申し上げます。大変申し訳ございません』


彼女の夢は見るも無残に散っていった。


その後聞いた話によれば、このレザという勇者はカウィズに限らず有名な若き戦士や格闘家からの誘いも断っていたらしい。


そのため見かねた村の大人達からも「どうもあの勇者は変人らしい。どうせ道中で魔族に敗れるから気にするな」と言われていた。


ところが世界は変わってしまった。


何と勇者は単独で魔王と魔王妃を懐柔し、和平会議まで設けて戦争を終わらせてしまったのだ。


それを聞いた村の人々は途端に手のひらを返して喜んでいた。それからしばらくするとカウィズが暮らしていた地域にも魔族が移住してきたのだが、今では魔族に嫌悪感を抱いていたはずの村人達は自然に共存できてしまっている。


しかしカウィズだけは、前時代に取り残されてしまった。


こちらの世界に転生してから彼女は、『魔王を倒すこと』を目的に生きてきたのだから。『自分と共に冒険した勇者と結ばれること』を期待され続けたのだから。


そこでカウィズはこう考えた。


「魔王を倒してもう一度勇者と会うことができれば、結婚できるかもしれない」

「そうすればこちらの世界の両親は期待を裏切らなかったワタシのことを褒めてくれるかもしれない」


だから彼女は周囲が心配しないようにと、村人全員が持つ自身に関する記憶を、一旦全て奪う魔法を使った後に世界の放浪を始めたのだ。


そしてその道中に拠点として、この『赤い城』を見つけて占拠したのである。





「こ、これが・・・ワタシについての話よ・・・。だからワタシは魔王を倒さないと・・・。せめてこの異世界では周りの期待に応えないと・・・」


大きな特徴であるピンク色の長い髪にお似合いの、本来は可愛らしいはずのカウィズの顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまっていた。

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