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転生した勇者は、どこまでも営業マンだった  作者: 鶴嶌大晩
第2章 魔王様の別荘問題
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第2章 第8話 魔法使いの叫び

「不埒!下品!子供には見せられぬ!おいこら勇者とそこの女!父が遺した城の中で助平な雰囲気になるな!」


 ゴヴァは『赤い城』どころかこの世界中に響き渡るほどの怒号を上げ、その憤りを表す。


 しかしそれも当然。なぜならレザは必死にここまで来たゴヴァのことを尻目に、若い女性と対面で密着をしている最中だったからだ。


「ここは!吾輩の父が!人間の友ができたときに使えと!遺してくれたものなんだぞ!」


 するとゴヴァに気づいたレザが、顔を近づけているカウィズから顔を背けながら大声で助けを求める。


「あ!魔王様!いいところに来ました!助けてください!この方が魔法使いのカウィズさんです!」


 同時に女性の方もゴヴァに気づいて叫ぶ。


「あ!魔王!いいところに来た!ここで死んで!ワタシは勇者の妻になるカウィズだから!」


「死ぬかバカ!」


 怒りのあまりこれまで見たことないほどのオーラを醸し出して目を光らせているゴヴァ。


 だが瞬時に両手をかざして強い風を放出するとレザの膝の上にいた若い女性──カウィズを吹き飛ばして、レザに固く縛りつけられているロープも鋭い魔力で一刀両断した。


「助かりました!魔王様!」


「他人の父が遺した建物の中でお楽しみだったようだな、勇者!この変態め!吾輩に近づくな!」


「心外な!どう見ても楽しんでないでしょう!目が腐ってるんですか!?」


 ゴヴァの抱えている誤解を解こうと弁明しながら駆け寄ったレザだが、その様子を見たカウィズは体勢を整え、唇を噛みしめながらこう呟いた。


「魔王め……ワタシの恋路の邪魔をする気ね……。ここでこのチャンスをみすみす逃すわけにはいかない……。かくなる上は、殺す!」


「殺されるかアホ!」


 するとゴヴァはそこまで広くない部屋の中で強力な魔力を自身の肉体にまとわせたのだが、周囲を巻き込むほどの威力を放つそれのせいで室内の装飾がボロボロになっていってしまった。


 そしてその様子を見たカウィズは魔王のことを睨むと今度は憎たらしそうに声を漏らす。


「き、汚かった部屋をせっかくここまで可愛く仕上げたのに!やはり魔王、悪の親玉ね!」


「魔法使いのカウィズめ!ここは吾輩の父が遺したものだとさっきから言っておるだろう!勝手に可愛らしくリノベーションをするな!不法侵入だぞ!」


「くそう!中古物件のリノベーションにはどうしても関心の方が勝つ!」


「お前は黙ってろ勇者!」

 

 すると互いに魔力を溜めながら睨み合うゴヴァとカウィズ。だがさすがにレザがこのままではいけないと感じ両者の間に立って大声を上げた。


「ちょ、ちょっと待って下さい魔王様!カウィズ様!こんなところで争いになってはいけません!」


「しかし変態!いや勇者!」


「変態は心外です!ただここで人間のことを手にかけたら今の平和は終わるかもしれませんよ!そうなったら最も悲しむのはシルヴェ様でしょう!?」


 声が枯れるほどのレザの懸命な訴えを聞いたゴヴァは……悔しそうな表情を浮かべながらも、渋々といった雰囲気で静かに魔力を沈める。


「し、仕方がない。お前の言う通りだ勇者。それにここは父が遺してくれた貴重な城。それを吾輩の魔力で壊すわけにはいかない」


「ダ、ダーリンが言うなら一旦やめるわ。だけど相手は魔王だし、早く倒さないと」


「カウィズ様はいい加減、私のことをダーリン呼びしないでください。ここはひとまず状況を整理しましょう」


◇◇◇


 ということで。


 この『赤い城』の一室には勇者レザ・魔王ゴヴァ・魔法使いカウィズが揃ってピンク色のテーブルにつき、何故こういうことになったのか話し合いをすることになった。


「まずカウィズ様。あなたはどうしてこの城に住み着いているのですか?」


「そうだぞ!ここは吾輩の父が建てたものだぞ!」


 せっかくレザが穏便に話を進めようとしていたところ、凄い剣幕で怒るゴヴァが横槍を入れてくる。レザとしても彼の気持ちが分からなくもないが、しかしここは穏便にあちらの言い分を聞きたい。


「魔王様。お気持ちは分かりますがここは一旦冷静に」


 カウィズのことを睨みながら抗議の声を上げるゴヴァのことをなだめるレザだが、彼は前世でも揉め事の間に立ったことがある。


 あれは自分が勤めていた会社の社員間で、誰がどの物件を担当するかで話がこじれたために起きたことだと記憶している。その時は必死に両者を落ち着かせてどうにか事態を収束させた。


 こういう時、まずはどちら側に立つということはせず、冷静にお互いの言い分を聞くことが大事だ。


「さて。気を取り直してカウィズ様。あなたはどうしてこの城に?」


 レザが優しく問いかけると、カウィズの方は視線を落としたまま力なくこう答える。


「ワタシは勇者のことを探してて。だってワタシは魔王を倒して勇者と結婚しないといけなくて……」


「いや結婚といきなり言われましても。話が飛躍し過ぎですよ」


 だがイスに座りながら、カウィズは膝の上に置いている両手をぎゅっと握りしめる。


 席についたということもあるからか、先ほどまでの高いテンションから一変して浮かない表情をしている彼女。それでも発する主張は変わらないため困惑したレザは頭を抱えてしまう。


 しかしゴヴァは勇者とは異なり、「そんなことよりも、わざわざここに居座る必要はないだろう!?勝手に入りよって!」と大きな声を上げた。


「だ、だってここにしかワタシの居場所が無かったから……」


「故郷には戻れないご事情でもあるのですか?それともご両親やご近所の方とトラブルでも?」


 彼女の言葉を聞いたレザがこう反応すると、カウィズは勢いよく立ち上がり、今度は金切り声で叫んだ。


「ぜ、全部勇者と魔王のせいじゃないの!あんな死に方をしたけどせっかく異世界に転生できたのに!せっかく……せっかく前世の時にはできなかった期待に応えられるチャンスだったのに……!」


 一変したカウィズの雰囲気。それに彼女の言った『前世』という単語を聞いて驚いた様子を見せるゴヴァだが、彼女は段々と目に涙を溜めながらこう続ける。


「ワタシは幼いころからずっと『魔王を倒し、勇者と結ばれて欲しい』って期待をされ続けてきたのよ!それなのに勇者はワタシを仲間にしてくれないし、よりにもよって魔王を殺さず和平を達成してしまうし!」


 そしてカウィズはこう訴えた。


「せめて異世界では……。生まれ変わったこの世界では……。誰かの期待に応えさせてよ!!!」

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