第13話 和平会議
魔王妃シルヴェが魔王城に戻ってから数日。事態は急速な勢いで動いていった。
魔王ゴヴァは人間が治める『いくつかの王国』の全てに対して和平を申し込んだのだ。
そして勇者レザも立ち合いの下、レザが生まれ育った国の城に様々な国の国王や女王が集まる中で魔王達は話し合い、ようやく争いは終わることとなる。
だが当然ながら実施された和平会議も一筋縄にはいかなかった。
その席では平和のために色々なルールを策定したのだが、特に論争となったのは『人間側が必要以上に魔族に攻撃をした場合は一定の正当防衛を許可する』という項目。
これは人間側が魔族に対して暴徒化しないよう、何を隠そう勇者レザが主導で決めたものだ。
しかし反対意見も多かった。確かに『人間側が魔族に対して恐怖心を抱く』のは理解できる。『魔族側から人間へ攻撃する可能性』だって考えられる。
遂には冷静な議論に留まらず、時にはレザを人格否定し罵倒するような野次さえ一部の国王からは投げかけられた。国王達の中にはレザが魔族から『不殺の勇者』と称されている話も聞き、これが気に入らないというケースも多かったのだ。
それでもレザは動じない。
前世において、会社の月初会議・月末会議で社長から営業成績を詰められることなどいつものこと。長年にわたってそんな経験をしてきた彼にとって、初めて会ったよく知らない高齢者からぼろくそに言われようとノーダメージ。
それに少なからずレザのことを庇う者もいた。
「そんなに怒らなくたっていいじゃないか、みっともない。そもそも魔族が人間に憎しみを抱くようになったのもアタシらの祖先が一方的な迫害を繰り返していたからだろ? これで手打ち、時代は変わったのさ」
この発言したのはレフォ王国という巨大な国家を統べている女王・ガズランテ。
風格のある彼女は比較的に融和思考の持ち主であり、さらに経済規模は『いくつかの王国』の中でもトップクラスということで発言権がある。
当時女王本人は消極的だったのだが、魔族との争いに多くの資金を投じたのもこの国だったのだ。
こういう背景もあり、それまでやかましく声を上げていた他の国王達はガズランテがこう言えば黙るだけ。
「それでは最後にわたくしからもよろしいでしょうか?」
そしてある程度道筋が定まってきた中、会議の終盤にレザと同じく会議に同席した魔王妃シルヴェの呼びかけによって黙とうが行われた。
今までの争いで失われた人間・魔族双方の命に対し、心からの謝罪と、どうか安らかに眠れるようにと。
◇◇◇
「シルヴェ。どうして吾輩が別世界の人間から転生したと察したんだ?」
「だって分かりますよ。わたくしはあなたのことが好きなんですもん。あなたの立ち振る舞いや会話の内容を踏まえてもどこか不可思議なところがあったから」
会議を終えた後、3人は巨大なガーゴイルであるイーファの背中に乗って魔王城に戻っていた。
「それにわたくしに隠れて城の魔族に優しく接することもあったでしょう? もうカッコつけるのはやめてくださいね」
そして彼女は「昔、書物で読んだことがあるんです。この世界にはいつか、別世界から転生した者が現れるという伝説を」と話して微笑んだ。
すると魔王ゴヴァはそれを聞いて少し驚いたような表情をし、同じように優しい笑みを見せた。
さらにレザは自分の耳にも届いたその言葉に、心の中で「(あの伝説は私のことは無かったのですね。自分のことを買いかぶり過ぎでした……)」と呟く。
「ところで勇者レザ。シルヴェを助けてくれた際の独白を聞く限り、お前も転生者なのだろう? しかも吾輩と同じ日本出身。違うか?」
魔王は振り返り、自身の後ろに座っている勇者に向かってこう尋ねる。
「いえ。それは話すつもりはございません」
「あそこまで言っておいて隠せるわけないであろう? しかもお前、絶対18歳じゃないだろう」
「いえ。何のことだか分かりません。ピチピチの18歳です。今が青春真っ盛り」
「え、マジでしらを切るつもり?」
「マジで何のことだかさっぱり」
「うふふ。面白い勇者ですね」
レザはこちらの世界に生を受けて以降、ずっと決めていたことがあった。
それは『魔王も魔族も絶対に殺さないこと』と『自分が別世界から転生した人物だと明かさないこと』のふたつ。
勇者レザは出来るだけ効率良く冒険を進めたかった。だから面倒事を増やすような行動は慎むように気持ちに決めていた。
振り返ってみれば、転生の直前に女神から言われた内容はあくまでも『魔王が煽動している、人間と魔族との争いを止めるべき勇者に選ばれた』というもの。
そこに『魔王や魔族を殺せ』という言葉や指示は無かった。
彼は不動産営業マン時代、客からの要望に対して、欲を出したり、拡大解釈をしたり、もしくは変な情が移って動いたことがある。
それは当時の自分にとっては懸命に考えた末のものであったのだが……。
しかし結果としてすぐ目の前にまで迫っていた貴重な契約を取り逃すということを、前世での若き日の苦い経験として記憶していた。
だからこそレザは言われたこと以上のアクションをして、目的の達成をみすみす逃してはいけないと決心していたのだ。
つまり彼はこの世界における自身の目的を『人間と魔族の争いを止める』ということのみに絞って、いかにそれを達成できるかと考えたうえで行動を進めていた。
そして今回彼はそれを見事に果たす。
和平会議の際に国王達から「お前は魔族を1匹も仕留められなかっただろう」と咎められようとも、むしろそれは自分にとって誇り高い『戦果』であったのだ。
自分が設定した目的を達成した以上、もうこの魔王夫妻と踏み込んだ関係を持つつもりはない。多少は今後のフォローをしなければいけないとは考えているものの、いつまでも過去の仕事の成功を引きずるのも彼のポリシーに反する。
取引を終えた顧客と友人関係を築くなんてもってのほか。レザはそういう男だ。
今はもう次の案件のことを見据えなければならない。彼は経験を活かし、この世界の平和を継続させることが果たすべき役割だと考えている。
異世界に転生しながらも、どんな目的を標準に合わせても、勇者レザはどこまでも営業マンだったのだ。




