第13話 和平会議
魔王妃シルヴェが魔王城に戻ってから数日。
事態は急速な勢いで動いていった。
魔王ゴヴァは人間が治める『いくつかの王国』の全てに対し、和平を申し込んだ。
そして勇者レザも立ち合いの下、レザが生まれ育った国の城に様々な国の国王や女王が集まる中で、魔王達は話し合い・・・。
ようやく争いは終わることとなる。
と言っても当然、その会議も一筋縄にはいかなかった。
その席ではこの先の平和のために色々なルールを策定したのだが、特に論争となったのは『人間側が必要以上に魔族に攻撃をした場合は一定の正当防衛を許可する』という項目。
これは人間側が魔族に対して暴徒化しないよう、何を隠そうこの勇者レザが主導で決めたものだ。
しかしこれには反対意見が多かった。確かに人間側が魔族に対して恐怖心を抱くのは理解できる。それでも時にはレザの人格面や容姿などを罵倒するような野次さえも、一部の国王からは投げかけられた。
それに彼らの中には、レザが魔族から『不殺の勇者』と称されている話も聞き、これが気に入らない者も多い。
それでもレザは動じない。
会社における月初会議、月末会議で社長から営業成績を詰められることなどいつものこと。約15年以上にわたってそんな経験をしてきた彼にとって、初めて会ったよく知らない高齢者からぼろくそに言われようとノーダメージなのだ。
それに、少なからずレザのことを庇う者もいた。
「もう。そんなに怒らなくたって良いじゃないか、みっともない。そもそも魔族が人間に憎しみを抱くようになったのもアタシらの祖先が一方的な迫害を繰り返していたからだろ?これで手打ち、時代は変わったのさ」
こう口を開いたのは、レフォ王国という巨大な国家を統べている女王・ガズランテ。威勢の良い彼女は比較的融和思考の持ち主であり、さらに経済規模は『いくつかの王国』の中でもトップクラスということで発言権がある。
本人は乗り気では無かったのだが、魔族との争いの中で多くの資金を投じたのもこの国だったのだ。
こういう背景もあり、それまでやんややんやと声を上げていた他の国王達であっても、ガズランテがこう言えば黙ることしかできない。
「それでは最後に、わたくしからもよろしいでしょうか?」
そして会議の終盤には、レザと同じく会議に同席した魔王妃シルヴェの呼びかけによって黙とうが行われた。
これまでの争いで失われた人間・魔族双方の命に対し、心からの謝罪と、どうか安らかに眠れるようにと。
◇
「シルヴェ。どうして吾輩が別世界の人間から転生したと察したんだ?」
会議を終えた後、3人は巨大なガーゴイルであるイーファの背中に乗って魔王城に戻っていた。
「だって分かりますよ。わたくしはあなたのことが好きなんですもん。あなたの立ち振る舞いや会話の内容を踏まえてもどこか不可思議なところがあったから。それに、わたくしに隠れて城の魔族に優しく接することもあったでしょう?もうカッコつけるのはやめてくださいね」
そして彼女は「それに昔、書物で読んだことがあるんです。この世界にはいつか、別世界から転生した者が現れるという伝説を」と話して微笑んだ。
すると魔王ゴヴァはそれを聞いて少し驚いたような表情をし、同じように優しい笑みを見せた。
さらにレザは自分の耳にも届いたその言葉を聞き、心の中で「(あの伝説は私のことは無かったのですね・・・。自分のことを買いかぶり過ぎでした・・・)」と呟くと、ひっそりと恥ずかしいという感情が湧いてきてしまった。
「ところで勇者レザ。シルヴェを助けてくれた際の独白を聞く限り、お前も転生者なのだろう?しかも吾輩と同じ日本出身。違うか?」
魔王は振り返り、自身の後ろに座っている勇者に向かってこう尋ねる。
「いえ。それは話すつもりはございません」
「あそこまで言っておいて隠せるわけないであろう?しかもお前、絶対18歳じゃないだろう」
「いえ。何のことだか分かりません。ピチピチの18歳です。今が青春真っ盛り」
「え、マジでしらを切るつもり?」
「マジで何のことだかさっぱり」
「うふふ。面白い勇者ですね」
レザはこちらの世界に生を受けて以降、ずっと決めていたことがあった。
それは『魔王も魔族も絶対に殺さないこと』と『自分が別世界から転生した人物だと明かさないこと』のふたつ。
しかしこれは彼の理念云々という話ではない。正義感がどうたらこうたらという話でもない。
単純に面倒事を増やしたくないと思っていたからだ。
勇者レザは出来るだけ効率良く冒険を進めたかった。それに転生の直前に女神から言われた内容はあくまでも『魔王が煽動している、人間と魔族との争いを止めるべき勇者に選ばれた』というもの。
そこに魔王や魔族を殺せという言葉や指示は無かった。
彼は不動産営業マン時代、客からの要望に対して、欲を出したり、拡大解釈をしたり、もしくは変な情が移って動いたことがある。それは当時の自分にとっては懸命に考えた末のものであったのだが・・・。
しかし結果としてすぐ目の前にまで迫っていた貴重な契約を取り逃すということを、前世での若き日の苦い経験として記憶していた。
だからこそレザは、言われたこと以上のアクションをして、目的の達成をみすみす逃してはいけないと心に強く決めていた。
つまり彼はこの世界における自身の目的を『人間と魔族の争いを止める』ということのみに絞って、いかにそれを達成できるかと考えたうえで行動を進めていたのだ。
そして今回、レザはそれを見事にそれを果たした。
和平会議の際に国王達から「お前は魔族を1匹も仕留められなかっただろう」と咎められようとも、それは自分にとって誇り高い戦果であったのだ。
そして自分が設定した目的を達成した以上、もうこの魔王夫妻と踏み込んだ関係を持つつもりはない。多少はフォローアップをしなければいけないとは考えているものの、いつまでも過去の仕事の成功を引きずるのも彼のポリシーに反する。
取引を終えた顧客と友人関係を持つだなんてもってのほか。レザはそういう男なのだ。
今はもう次の案件のことを見据えなければならない。
彼は経験を活かし、この世界の平和を継続させることが自分が果たすべき役割だと考えていたのだ。
異世界に転生しながらも、どんな目的を標準に合わせても、勇者レザはどこまでも営業マンだった。




