第2章 第1話 新たなミッション
勇者レザ。
彼は日本の、ある小さな不動産会社に勤務していた営業マンが転生した存在。前世の名前は真留村富士夫。
富士夫は過労の末に命を落としたが、ある女神の力によって異世界に転生。さらに女神は新たな命を授ける代わりに「魔王が煽動している、人間と魔族の戦いを止めてくれ」という依頼を彼に託す。
そして勇者レザとして生まれ変わった富士夫。彼は異世界にて18歳を迎えた頃に、見事にその目的を果たした。
しかも彼は魔族をたったの1体も手にかけることなく。魔王のことも倒すことなく。
勇者レザは前世の頃に培った経験や交渉術などを巧みに使いこなす。そしてこの世界の『いくつかの国』を治める王族と魔王との間で、和平会議を開くことに成功。
だが……このような快挙を成し遂げたレザだが。
「これで転生先における自分の仕事を全うできた。ところで、これから私はどうなるのでしょうか?もう用済みということなのでしょうか?」
純粋かつ危機的な疑問を抱えていた。
◇◇◇
『勇者レザ。貴方はよくぞこの世界に平和をもたらしました』
和平会議が行われてから1年後。
こちらの世界で19歳になった勇者レザの夢の中で、転生直前の時と同じように再び女神の声がその耳に届く。
「お久しぶりです女神様。これから私はどうなるのでしょうか?最初に頼まれていた依頼をこなした以上、もう業務終了になるのかと。もしかしてこのまま死ぬのでしょうか?」
『心配することなどありません。これから貴方は自由になります。しかし余はレザに謝らなければいけません。当初、貴方のことを実は信用していませんでした』
「そうですよね。なんせ本来『私の転生』は退職した他の女神の仕事だったらしいですもんね。思い返せば『私の転生』をそちらは嫌々でしてましたものね。『私の転生』は……ね!?女神様!?」
レザは意外と根に持つタイプだった。
『あ、あれは……。本当に申し訳ございません。しかし今般における貴方の活躍を見て余は魂が震えました。無駄な殺生を一切行わず、それでも世界に平和をもたらす。まさに見事の一言でした』
「お言葉は嬉しいのですが。それで私はどうなるのでしょうか?」
それでもレザが恐る恐るこう質問すると、女神は明るい声でこう答える。
「はい!ハーレムを作って前世とは異なる恋愛ライフを過ごすもよし。いわゆるスローライフをして悠々自適に過ごすもよし。こちらで前世よろしく不動産業を始めてみるもよし。選択肢はいくらでもあります」
「……」
『……』
「どうしてもここで生きなければならないのですか?」
「はい!ここで生きていってください!」
「……」
『……』
「女神様、何か私に隠し事してますよね?」
「ちっ。どうしてバレたんだ」
レザは勘のいい男でもあった。
「そこまでして私のことをここに縛り付ける理由は何ですか?先ほどはあれだけ絶賛して謝罪もしてくださったのに、あまりにも不自然ではないでしょうか?」
夢の中でレザは女神のことを問い詰める。すると彼女はとうとう観念し、ため息をつきながら口を開いた。
『はあ……。実はそちらの世界には後2名ほど、他に転生した人間がいるようなのです』
そして女神は続ける。
先ほど言ったように、本来は『真留村富士夫を転生させること』というのは別の女神の仕事であった。しかしその女神がまともな引き継ぎもせずに天界を去った際、慌てた神々が真留村富士夫以外の人間の魂も、彼と同時期に同世界へと転生させてしまったというのだ。
「えっと。少しややこしいので整理させて欲しいのですが。要は天界のミスで、本来は転生の対象にならなかった魂までこちらの異世界に転生させてしまったと」
『左様です』
「いただけない業務上のミスですねえ。ちゃんとした過失ですよ。か・し・つ。で?私に何をしろと?」
『その。言いにくいのですが、実は……』
富士夫以外の魂は、天界での連絡の行き違いの末、神々から何の説明も無いまま異世界へと転生してしまった。
それからはしばらく消息がつかめなかったものの、富士夫をレザへと転生させたこの女神がようやくその居場所を突き詰めることができ、地上でコンタクトは取れたのだが。
『両者共に、どうも異世界に転生した人間は絶対に魔王を倒さなければいけないという強い固定観念に縛られているようで。レザがもたらした平和に不満を持っているようなんです』
「な、何ですかその面倒な状況」
女神による説明を聞いたレザも肩をすくめる。本当はそんなこと女神に何とかして欲しいが夢にまで出てくるということは……。
「で。もしかしてそれでは私はまだこの世界に居座り、他の転生者を説得しろということですか?変な気を起こして魔王を倒さないように」
『さすがですね。レザ。その明晰な頭脳はまさに勇者に相応しい』
この言葉にレザは顔をしかめる。
「ちょっと待ってください。こっちは天界の尻拭いをするのですよ?何ですかその言い方は。同じ社会人として恥ずかしい!さすがに怒りますよ?上席の者を出してください!きちんとした抗議文も表明させていただきます!」
『も、申し訳ございません!それだけは!』
怒りの表情のレザだが、これは確かに死活問題。ようやくこの世界に平和をもたらすことができたのに、変な考えを持った他の転生者のせいで魔王が襲われ、また争いが起きたらたまったものではない。
「ま、しょうがないですね。仕方がないので他の転生者も私が何とかしましょう。それでその2人の名前は?」
『1人は魔法使いのカウィズ、こちらは若く可愛らしい女性です。そしてもう1人は男性の……』
そして女神がこう言いかけたところで。
「……え?め、目が覚めってしまった……」
この日の午後にレザは久しぶりに魔王城へと赴く予定。だがそんなタイミングで面倒な仕事を女神から託されてしまった。
「まあしょうがないですね。他にこの仕事をこなせる方もいませんでしょうし」
しかしどこまでも営業マンなこの勇者は、頼まれた依頼を無視することなどできなかったのである。




