断罪のはじまり
緊迫する辺境伯領とは違い、学園は色めき立っていた。
卒業パーティーが開催されたからだ。いつもは制服に身を包む生徒らは、華やかな装いでホールに降り立った。
卒業生も在園生も入り交じり、ダンスを踊り、社交に励む。
貴族の縮図ともいわれる学園は、今後の貴族間のパワーバランスを左右する。
誰に取り入り、誰と敵対するのか。
貴族は笑顔で噂を操り、人心を得る。
今日も仄暗い噂が、ヒソヒソと飛び交っていた。
煌びやかなシャンデリアに、一級品の演奏家達。
王族たるシリウスが不在であることに、不満の声があがったものの、王太子と第二王子が揃って参列した事でそれも解消された。
特に王位継承権第一位である王太子に、取り入りたい生徒は多い。
ひっきりなしに、聖女や王太子へ挨拶が行われていた。
「も~つまんなーい」
かわいらしいピンクのドレスを身に纏った聖女は、面倒くさそうにジュースの入ったグラスをあおった。見た目も地位も極上の二人を侍らせるのは気分が良いが、挨拶ばかりで特段面白い事もなかった。
「じゃあ、そろそろとっておきのドレスに替えに行こうか~」
第二王子が悪戯っぽくウィンクし、聖女を専用控室へとエスコートする。
退出した聖女らを尻目に、王太子はスキップフロアまで上がると、祝辞を述べ始めた。
神々しく、麗しい尊顔に、涙を流して感動する令嬢さえいる。
シリウスよりも柔らかく、親しみやすい柔和な笑みで、令嬢のみならず、令息の心まで掴んで離さない。熱のこもった視線を浴びながら、王太子は澱みなく朗々と語る。
「――れからも、国の為に一同励んでほしい。」
盛大な拍手が巻き起こる。
ここで、王太子の言葉が終わった、かのように思えた。
「そして、今日はこの場を借りて、聖女様からの告発を行う」
柔和な笑みはそのままに、告発、という物騒な単語を出した王太子。
生徒達は騒めく。
「聖女様を冒涜した者がいると、聖女様自ら証言なさった。」
「冒涜…?そんな大それたことを誰が…」
程なくして、第二王子にエスコートされ、純白のドレスに身を包んだ聖女が現れた。
胸元には深紅の宝石が連なるネックレス。耳元にも同様の宝石が揺れていた。白と赤の対比が眩い。
華やかな聖女の雰囲気に、それは異様なまでにハマっていた。
「ヒィッ」
「そんな…」
「なんてこと…」
令嬢らは小さな悲鳴をあげて、口元を隠す。
そしてすぐさま、生徒全員が臣下の礼をとった。
顔を青ざめ、ガタガタと体を震わす者。
冷静さを装う者。
怒りに打ち震える者。
聖女はニンマリと笑った。普段威張り散らしているような生徒まで、全員恭しく傅いている。
(さいこう~!主人公って、何しても許されちゃうのよね~!だれもユイに逆らえないの。)
王太子に手を出すと、軽いキスが贈られる。
(ほぉらね)
必死に王太子に色目をつかっていた令嬢が、悔しそうにしているのが滑稽でたまらない。
純白のドレスがシャンデリアの光を反射させ、キラキラしている。
傅く貴族共と、愛される聖女。
小説の一ページそのものだ。
「これより!聖女様を冒涜した者を断罪する!!」
昼の鐘が鳴り響き、断罪が始まった。
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