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断罪のはじまり2

楽団の音楽は消え、重たい沈黙が流れる。

「ハイシャ・レーン。聖女様を口汚く罵り、その尊い御身を冒涜した。そればかりか、粗悪品を高額に売り付けようとし、詐欺行為を働いた。イーナール・ホッグ。貴殿は、聖女様と肉体関係を結ぼうと、強引に迫った。拒否された際に激昂し、聖女様を突き飛ばすなど暴力行為を働いた。バッダス・マクロン。ハイシャ・レーンと結託し、詐欺行為を働いたうえ、聖女様の私物を盗み、売り払った。」

王太子は罪状を読み上げ、「非常に、残念だ」と一言添える。

「――以上三名。これは我が王家の影が、その罪を証明する。追って沙汰を下すまで、謹慎とする。」

「お許しを!どうかお許しを!!」

「いやぁあ!!そんなっ聖女様、私達は()()()()()()()()のに!いやぁあ!」

令嬢や令息三名は泣き崩れ、衛兵に無理やり引き摺られていった。

断末魔のような悲鳴がホールに響く。惨い声に、気の弱い令嬢の中には倒れる者もいた。

皆、頭を垂れながら、体を震わせる。自分はどうだったか、罪には問われないか。

聖女を冒涜した者は、絞首刑となる。古い物語に使われている結末だ。


悲鳴が、扉の奥に締め出され、身を震わせていた者も脱力した。もう何もないだろうと、誰もが安堵したその時。


「そしてここにおらぬ者にも、聖女様は冒涜されたと、おっしゃっている。」

その言葉に、一気に空気が変わった。


「エリューシス・スカルタス。」

重々しく告げられた名前に、カナリアはバッと顔を上げた。信じられない者を見る目で、王太子を見つめる。

噓でしょ、そんな…とカナリアの口から呆然とした呟きが漏れる。

「彼女は…「お待ちください、でん」

「黙れ!!殿下のお言葉を遮るか!無礼であるぞ!」

思わず声を上げたカナリアに、第二王子が叱責する。

普段の軽薄な雰囲気からは、想像もできない威圧感を孕んでおり、カナリアは唇を噛みしめ、平伏する。

「失礼、致しました…」

噛みしめた唇が切れ、血が床にポタリと落ちた。整えた爪がシルクの手袋に食い込む。

カナリアは心の中で、ひたすら聖女と王太子らを罵倒した。


「彼女については、私とイプト、そして聖女様が、これから直接赴いて断罪をしよう。丁度シリウスが彼女をつかまえているところだろうね。」

王太子は聖女の手を恭しく取り、もう片側を第二王子が寄り添う。

「【開け 転じよ 手繰り寄せろ 移せ 巡れ】」

三人の空間がゆがむ。

「殿下の空間魔法…」

「せっかくのパーティーに水を差してすまなかったね。では行こうか聖女様、イプト。」

「悪役令嬢はさっさと潰さないとね!怖いから、リゲルが守ってね?」

「もちろんだよ」

空間の歪みが終わり、三人の姿が消える。

静まり返っていたホールは、やがて騒然としていく。

カナリアはすぐさま立ち上がり、ホールを飛び出した。






初夏を通り越して、ギラギラとした真夏の日差しになってきた太陽を恨めしく睨む。

エリューシス達、氷魔法師にとって、最悪な時期だった。

昼の鐘が鳴る辺りから、魔物が少しずつ減っていく。

文献によると、スタンピード前に一度引き潮の如く、魔物の出現が減少するらしい。

何百と溢れていた魔物は、現在数十匹程度となっていた。

しかし、魔の森の瘴気の濃度、量共に、どんどんあがっていく。


「手筈通り、スタンピード開始直後に、極大魔法をぶちかませ」

「分かりましたわ」

エリューシスが、ふーっと息を吐く。ぶるりと震えたのは武者震いだ。

辺境伯が瘴気を見据えながら、蓄えたあごひげをさする。

「この感じですと、夕の鐘が鳴った後、あたりですかな」

可視化される程、濃密となってきた瘴気に、皆の喉が鳴った。


「でっ 殿下ーーっ!王太子殿下並びに、第二王子殿下、聖女様がお見えになられました!」

先触れもなく空間転移でやってきた三名に、騎士達が騒めく。

シリウスは「そうか」と軽く答えた。




「殿下の空間魔法なら即時撤退可能だが、魔物を寄せ付けないようお守りしろ」

「ハッ!お任せ下さい!」

団長は上級騎士を数名、王太子らに就けるよう指示を飛ばす。

エリューシスは、首を振りながら後退した。

「なんで…?わたし、何も…そんな…」

狼狽えるエリューシスの手をシリウスが掴む。問答無用とばかりに引っ張って歩いた。

「やだ…やだ、やだやだ!行きたくない!殿下、離してっ離してください!」

駄々っ子のように首を振るエリューシスに、シリウスは「俺の婚約者のお前が、王族に挨拶無しで済むわけねーだろ。」ととりつく島もない。

只ならぬ雰囲気のエリューシスに、周囲の騎士達は顔を見合わせた。

軍議が行われる、一際大きなテントの前、そこに聖女はいた。


純白のドレスに、美しいネックレスを添えられて。


聖女の姿を見た瞬間、エリューシスはシリウスをバッと見た。そして、信じられないものをみるように、もう一度聖女を見る。

「そんな…」

エリューシスの声が、震えた。




お読みいただきありがとうございました。

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