ほんとうに?
一通り苦悩にケリがついたのか、シリウスは再度エリューシスに向き直る。
「で、お前は、何を知っているんだ?」
未来予知とは少し違うな?と、逃げ道を塞いでくる。手首を掴まれ、物理的にも逃げる事ができなくなった。
シリウスは茶化すことなく、真剣にエリューシスと対面していた。
「7歳頃からお前の態度が激変した。最近だと、聖女がきてからも変わったな。エントール家の令嬢と親密になり、風魔法の修練をしている。そもそも、行動を起こし始めている7歳の時点で、聖女が異世界から現れる事を、お前は知っていたわけだ。そして、自分の死にざまを恐れた。」
「…。」
沈黙は肯定ととるぞ、とシリウスは念押しする。
「予言なのか、なんなのか分からんが…。その時点で何故誰にも相談しなかった?いや、それ以降もだ」
「だ、だって…急に子供がそんな事を言っても、誰も信用してくれないでしょう?聖女が将来きます〜。わたしくしはその人をいじめるから、冒涜罪で処刑されるんです〜、だなんて…。そんな荒唐無稽な事…」
エリューシスの唇がひくつく。相談?何を言っているんだこの人は。
「本当にか?」
「え…」
「本当に誰もお前の事を、信用しないと、そう、思っているのか?」
お前の父も、母も、弟妹も、乳母も、メイドも
俺も
本当に?
「なんで、なんでそんな事、なんでっ」
一人で必死に抗わないと、とずっと思ってきた。
いや、思い込んできた。
小説の中に入り込んでしまった異質な“プレイヤー”は自分ただ一人で、他は全部小説のNPCだと。
ソレを誰かに言ってしまえば、世界が、自分という人間をNPCに塗り替えてしまうのでは、と。
そう思い込んできた。きてしまった。
二日後には、自分が断罪されているかもしれない、そんな時まで。
「ずっと怖かったのに!聖女が来る前から、ずっと!聖女が来てからは、もっと!」
大粒の涙があふれてくる。こんな弱い人間じゃなかったはずなのに。
心の内を無理やりさらけ出されたみたいだ。
「しにたくないって思ったのよ!この世界が、楽しくて、幸せで、みんなっすきだから、しにたくないって思ったから!うぅううう~!!」
慟哭を吐き出す。
エリューシスの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
今、断罪されているようだった。
エリューシスが抱えていた孤独も。未来を人に言えぬ罪悪感も。全て曝け出されてしまった。
「殿下の!シリウス様のばか!俺様!うううぅう゛う゛」
エリューシスの白いカッターシャツに、ぼたぼた涙が落ちる。
シリウスは、出会ってから初めて名前を呼ばれたことに対して、衝撃を受けていた。
一通り泣き腫らし、落ち着いたエリューシスに、悪かったとシリウスも謝る。
「殿下、謝れたんですね」
「…お前不敬罪って知ってるか?」
いつものやりとりに、エリューシスは軽くほほ笑む。
「殿下に言えば良かった。わたくしは貴方の婚約者になると、悪役令嬢として、将来聖女冒涜罪で処刑されるかもしれないから、婚約したくありませーん!って」
「はァ?俺がお前を手放す訳ねーだろ。精々一緒に国外逃亡ってとこだろ」
「んん???」
こくが…どゆこと?と顔に書いてある。その様子に、シリウスは半目になってにらんだ。
「お前、相当鈍いな。」
「えぇ!?あ、痛っ!」
シリウスに渾身のデコピンをされ、エリューシスは寝台に倒れ込んだ。
「ふふっ なんだか心が軽くなったみたい…。もっと早く伝えていれば良かった…ふふっ」
鈴のように無邪気に、無防備に笑うエリューシス。シリウスは同じように、寝台へと寝転ぶ。
出会った頃の、少年と少女に戻ったような軽やかさで、二人は笑い合った。
「それで?信用してやるから、洗いざらい話せよ」
「…はい。」
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