光魔法
ポーションを追加であおったシリウスは、魔力酔いをしたように気分が悪そうにしていたものの、順調に魔力を回復させていた。
やや気だるげにするものの、自分の足で歩いて、軍議に参加していた。
「まあ、少し変成させ過ぎたから、反動がデカかったが、なんとかなったな」
「魔物だけ滅する炎の極大魔法など、聞いた事がありませぬ」
唸る辺境伯に、シリウスは肩をすくめた。
「あの調整がないと、一生草木も生えねえ焦土になるだけだからな。そもそも炎魔法は基本下級だろうが、極大だろうが、破壊一択だ。が、規模がデカくなろうとも焼き尽くす対象は絞れるだろ。構成さえできてりゃ、変えるのもできんだろ、ってことで、対象物を絞っただけだ」
辺境伯は、同じく極大魔法の使い手であるエリューシスを見る。エリューシスは、とんでもない、と首を振った。
「理論はわかりますが、極大魔法はそもそも発動させるだけでも、かなりの魔力と集中力を要します。それを変成させ、完璧に発動させるなんて…。ぜひご教授いただきたいわ!」
キラキラ目を輝かせるエリューシスに、シリウスは遠い目をする。出会ってから一、二を争う輝きだ。
もっとこう…自分との逢瀬にそのぐらいの輝きを見せてほしかった…。
「今代では、極大魔法の使い手は四名。まさに神の御業と呼ばれるにふさわしい魔法でした」
口々に贈られる賛辞に、シリウスは鬱陶しそうに手を振った。
「そんなことはどうでもいい。戦況は?」
「現在は安定しております。湧き出る魔物は増加してきておりますが、人員を交代させつつ効率的に攻撃しております。が、上級の魔物も増加してきており、瘴気も濃くなっていますので、スタンピードの発生は確実かと。」
いよいよ迫ってきたスタンピードの足音に、エリューシスはごくりと息をのんだ。
「王都からの続報はなく…。聖女様の光魔法は…」
王国騎士団の団長が悔しそうに顔をゆがめる。
「聖女の事は、王太子殿下らがどうにかするだろう。が、スタンピードには間に合わないだろうな。」
「そんな…」
「やはり…」
シリウスの言葉に、軍議の活気は地に落ちた。
魔物を殺すことは、通常のどのような魔法でも可能だ。しかし、魔物が魔の森からあふれ出す原因…魔の森の瘴気を浄化することができるのは、光魔法のみ。正確には、より高密度で高濃度の光魔法師の魔力のみだった。
光魔法師は非常に稀で、文献に乗るレベルの存在である。文献には、スタンピード前に異世界より現れる聖女だけが、光魔法の魔力をもっている、と記載してあった。
聖女は、魔力の根源、生命の輝きをもって、光魔法を行使し、瘴気を浄化する。
聖女はその身をもって瘴気を浄化し、国を支える。…と、どの文献や口伝を探しても同様のものしか記されていない。
その聖女の光魔法がない今、いくら戦況を盛り返したと言っても、いずれ限界がくることは明白だった。
**
「ねぇ、リゲルぅ、ユイね、ユイね、もぅ耐えられない…!」
「可哀そうにそんなに涙をこぼして…、ユイ…どうしたんだい?」
「学園でね、わたし、いじめられてるの…」
ぽろぽろと涙を流し、王太子に縋り付く聖女。
美しい二人が寄り添いあうのは、絵画のようでもあった。
王太子は心配そうに、聖女の髪を撫でた。
王太子は穏やかな手つきとは裏腹に、剣呑な目つきで書記官を呼ぶ。
「国の宝である聖女になんて事を…!公的に処分をするから、私にその者達の所業を教えてくれるかい?」
入室した書記官は、慌ててペンを執る。
「わたしっ辛くてっ…うぅっ、ヌリューギネって人が、私の教科書を破って捨てたり…それに、それにっ、リゲルが私のこと好きだからって、嫉妬して、酷いことを言ってくるの!」
涙を流し、王太子に縋り付きながらも、聖女はしっかりと告発していく。
書記官にその証言を残させながら、聖女の言葉を真剣な表情で聞く。
「あと、えりゅーしす?っていう、あ…シリウスの婚約者って人が…!」
王太子の指がピクリと反応する。しかし、すぐに髪を撫でるのを続けた。
「氷の魔法で、わたしをっ、脅してきて…!」
こわかった…、と震える聖女。王太子はその肩を抱き、なんてことだ…と嘆いた。
「わたしなんて聖女にふさわしくないって!…シリウスに近づくなって、うぅ…氷をぶつけてきたの」
「まさか、そんな事が…いつされたんだい?」
痛まし気にリゲルが聖女を見つめる。
「学園に入ったすぐから。シリウスと同じクラスになって、嫉妬してたんだわ彼女。何回もされて…でもユイね、みんなに心配かけたくなくって、黙ってたの。でも、リゲルがくれたネックレスをしてるのを、あの女が見たらしくって…。ネックレスを貰った次の日に…!ユイもう耐えられない!」
さらにさめざめと泣く聖女をなだめるように、王太子は背中をぽんぽんと叩いた。
「よく話してくれたね、ありがとう。」
王太子は侍女を呼び、「彼女に落ち着けるようなものを」と伝えた。聖女の手を強く握って、優しく微笑む。
「私はイプトと話し合ってくるよ。報いは必ず受けさせるから安心してほしい。」
「ありがとうリゲルっ大好き!」
先ほどまでの涙はもう引っ込んだらしい聖女は、もう満面の笑みだ。
王太子は書記官に、証言書の複製を指示しながら、厳しい表情で第二王子の執務室へと足早に移動した。
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