ステキな贈り物
王城では豪奢な一室のソファの上で、聖女が暴れていた。
「やだやだやだ!!もうすぐパーティーなのに!ストーリーも進んでるはずなのにどうしてシリウスがいないの!おかしいじゃん!こんなの絶対原作になかったもん!」
爪を噛む聖女に、控えていたメイドが怯える。
「ちょっと!何見てんのよ!」
メイドに一級品のカップを投げつける。その顔面に紅茶がかかった。
「アグッ!ヒ、ヒィッ、もっ、申し訳ございません!」
「役立たず!あっち行ってよ!」
メイドは怯えながらカップを拾い、逃げるようにして退出する。
一度癇癪を起すと、手が付けられなくなる聖女に、メイド達は戦々恐々としていた。
「もう嫌…!」
「昨日逃げ出したメイドも、全身鞭打ちされたらしいわ。のたうち回る姿を見て、喜んで笑っていたそうよ」
「聖女の傍使えなんて、名誉職だと思っていたのに…、これじゃ拷問だわ!」
「あれは、聖女なんかじゃない…!悪魔よ!」
不敬罪で罰せられる事もいとわず、そのメイドは痛む顔を押さえながら王城を逃げ出した。
「どうしたんだい?ユイ…」
王太子は、癇癪を起した聖女に近づき、その手を取る。
「あ、リゲル様ぁ」
すぐに甘い声を出す聖女に、王太子は笑みを深くした。
変わり身の早い事だと、内心では思うけれどおくびにも出さない。ゆったりと微笑み、聖女の手を撫でた。聖女が聖女であるうちは、優しく、ドロドロに甘やかしてやらなければならない。
「ユイ…君に贈り物があるんだ。受け取ってくれるかい?」
「もちろんだわ、リゲル様!」
パッと輝かせて破顔する聖女に、王太子はその耳元で囁く。
「私が良いというまで目をつむって…」
色気溢れる声に聖女はくらくらしながらも、素直に目を閉じる。
首元に冷たい金属が触る、重量を感じ、聖女はそわそわしだした。
「もういいよ、目を開けてごらん?」
鏡に映った聖女の首元には、深紅の大きな宝石が連なったネックレスがかかっていた。
「きゃあ!なんて素敵なの!」
ギラギラ輝く宝石が、聖女の白い肌に吸い付くようになじむ。
「このスカーレット王国にちなんだ、最高級の深紅だよ。特に私の瞳の色と似ているからね。君と片時も離れたくなくて…、用意してしまったよ」
照れくさそうに微笑む王太子を尻目に、聖女は鏡に映るその宝石から目を離せられなくなっていた。
「卒業パーティーまででいいから、このネックレスをずっとつけていてほしいんだ。眠るときも、君がその肌を出して湯あみをするときも、ずっとね」
「リゲル様ぁ…」
溢れる色気に、聖女の頬が染まる。
「卒業パーティーが終わったら、…あぁ、なんだか照れるな…」
言い淀む王太子に、聖女は期待に胸を膨らませる。
「卒業パーティーが終わったら、私達と共にこの国を支えてくれないか?」
王太子が膝をつき、聖女の手に口付ける。
極上の男に懇願されて、頷かぬ女はいないだろう。
「もちろんよ…リゲル…」
「ありがとうユイ」
うっとりする聖女に、リゲルは深く微笑んだ。
すると、二人の間を邪魔するようにコンコンと軽いノック音がする。
「兄上~抜け駆けはずるいよ~」
いつも通り軽薄な様子の第二王子が、にやにやしながら部屋に入ってきた。
「これは、おれからのプレセントだよ」
ウィンクする第二王子の後ろから、侍女が続々と入ってくる。
「わぁ!」
次々に運び込まれた物に、聖女は目を輝かせた。
純白の豪奢なドレスに、ネックレスと同じ大粒の深紅が揺れるイヤリング。
「すてきー!」
子供のように喜ぶ聖女に、第二王子は満足そうにわらった。
「君の為に特注で作らせたんだ。卒業パーティーでは、君が一番注目を浴びるべきだからね」
「イプトさまぁ」
「兄上のネックレスは、学園の制服の下でもつけていられるよね。おれからのドレスは、卒業パーティーで着てね」
「うれしい…!」
聖女の前に、王太子と第二王子、両名が傅く。
(あ~~っ最高!『かがスカ』って感じ!やっぱり私ってヒロインだわー!)
聖女は興奮を隠しもせず、プルプルと震える。
その手をとって、それぞれ王太子と第二王子が、手の甲に軽いキスを贈る。
ネックレスの宝石が、熱を帯びたような気がした。
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