幕間 兄と弟2
「王位継承権を返上してもらおう」
王族に王位継承権を返上させるという、屈辱とも呼べる要求に、シリウスは眉を跳ね上げ、ハッと皮肉げな笑みを浮かべた。
「そんな事か。」
「お、おいおい、シリウス。そんな事かって…」
思わず素で驚く第二王子に、シリウスは事もなげに言い放つ。
「元よりそのつもりだ。」
「えぇ!?小さな頃にあれだけオウサマになるんだって言ってただろ!?」
「いつの話だ!そりゃ、エリューシスと婚約するよりも前の事だろうが。」
もうシリウス本人の記憶も定かではない程、幼い時分に「おれはあにうえよりでっかいおうさまになるんだ!」と乳母に豪語していたらしい。でかいおうさまとは、これ如何に。乳母に「王位継承権第一位はリゲル様ですよ」と諭され、その言葉を理解すると、授業にも出なくなってしまった。
いわゆる、現実を知った子供は、拗ねたのだ。その後エリューシスと出会い、シリウスは変化していったが…。
「ふふ…。シリウス、君の小さな頃の夢は叶えられそうにないな」
「当たり前だろ。俺は王になるつもりはねえ」
「おや…」
王太子は、シリウスの言葉が本音とわかると、やや驚きを隠せない様子になった。
「そもそもエリューシスが極大魔法を習得し、出征した時点で、王族に残る選択肢は消えた。あいつがこのスタンピードで功績をあげ、俺と結婚すると、必ず担ぎ出す輩が出てくる。俺は反旗を翻すつもりはねぇし、それを表明するためにも王位継承権を返上するつもりだった。」
王太子と第二王子は、目を見張り、同じように笑った。
「ハッ… 王位より、エリューシス・スカルタスを、とる…と?」
「そうだ。」
「王位より一介の小娘をとるって?!頭湧いたのか?シリウス!」
「正気に決まってんだろ。そもそも二人に何の問題もなく、現状特に政務に滞りもない。順当にリゲル、アンタが王位に就くだろうさ」
「評議会の妨害がなければね」
「ハッ、妨害させるつもりもねぇだろ。」
事も無げに王太子は「まあね」とほほ笑む。
「国の為に、あのクソ聖女と婚姻すべきと判断したら、アンタらはするだろうさ」
王太子と第二王子は、顔を見合わせ、さすがにちょっと嫌だな~と考えたが、それが国の為となるなら問題なくするだろうな、とも思った。
「俺は、無理だ。エリューシス以外の選択肢は一切ねえ。」
「何を譲ろうとも、エリューシスだけは離せん。王位も、金も、名誉も、譲れる。いらん、とは言わねぇが、手放せる。逆に言えば、俺からアイツを離そうとすれば、俺は全てを滅ぼせる。何もいらん」
「…。極大魔法の使い手が言うと、冗談に聞こえないね」
「冗談じゃねぇからな。」
肩をすくめる弟を、どこかぼんやりと第二王子は見つめた。
「なーんか、ほんとにオトナになったね、シリウス」
見つめて、嬉しそうにその肩をたたいた。
「剥奪じゃなく、返上ってところに、アニウエサマ達の気遣いを感じるぜ?」
「ほーーんっとに、オトナになったな!」
「はは、本当だ。まさかこちらの考えをこうも読まれているなんてね」
王太子は、慈しむように、眩しく目をすがめる。
「南方から辺境伯への空間転移だけではなく、王都から南方へ送ろう。その後、そのまま辺境伯へ転移させる。王国騎士団はシリウスが南方へ到着次第、辺境伯への移動を開始させる。シリウス、君なら隣国の兵士など一瞬で握りつぶせるはずだ。違うかい?」
「シリウス、お前ならより効率的に、より効果的に隣国兵士を蹂躙できるよな?侵略行為など二度と考えられないよう、分からせてやりな」
この悪辣な顔をクソ聖女さまに見せてやりてえわ、とシリウスは二人に引きながらも、同じように嗤った。
「ご拝命仕りました。」
そうして、新聞では王国騎士団と共に出征したと報じられたシリウスは、単身、王太子の空間転移で南方へとたどり着く。
シリウス到着後、数名を残しただけで、王国騎士団は辺境伯へと馬を飛ばした。
シリウスの南方での蹂躙は、すぐに隣国を撤退させ、南方での国境戦線は無事落ち着きを見せた。
王国騎士団が辺境伯へと到着する頃、シリウスは空間転移でそのまま合流する形となった。
お読みいただきありがとうございました。




