学園にて
学園では、カナリアが連日落ち着きをなくしている。エリューシスが出征してから、ずっと何をしてもため息ばかりついていた。
「エリー…。どうか無事に、必ず帰ってきてくださいまし…。」
毎日教会へ足を運び祈る姿に、今まで遠巻きにしていた令嬢や貴族子息らも心うたれていた。
「なんて美しい友情なんだ…」
「あのような心優しいご令嬢と結ばれたい」
カナリアを他所に、カナリアの株が爆上がりしているのにも気づかず、カナリアは今日も足しげく教会へ通うのだった。
「あれだけ逃げ回っていた令嬢を守るため、戦場に赴くなんて…シリウス殿下は本当に素晴らしいお人だわ」
「民の為、命すらいとわぬ殿下!あぁ、本当に素敵ね…」
「王族として民を守るため、戦場に身を置くとは…なんと勇猛な事だろうか!」
学園では卒業パーティー間近、ということもあり、やや浮足立った雰囲気である。
しかし現在、生徒らの何よりの関心は、エリューシスとシリウスの事だった。
エリューシスが出征した事実が新聞に取り沙汰されると、「野蛮だわ」「はしたない」「気の強い女はダメだ」「女だてらに」「無謀すぎる」「騎士団の足を引っ張るだけだ」「手を汚すなど」「自分の力を過信している」などと口さがなく罵る者ばかりだった。
しかし、シリウスが南方へ出征、そして南方での戦況が落ち着き次第すぐに辺境伯領へ向かった、と報じられると、噂も内容が少々変化していった。
「愛の成せる技」といった二人の愛を確信するものから、「国を想うが故の行動だった」「氷の魔女のおかげで戦線が保たれている」などという、手のひらを返した賛辞が贈られた。
貴族らにとって大切なのは、「王族、他有力貴族の関心がどこにあるか」だった。
“第三王子”が“スカルタス家の令嬢”を庇護するため動くのであれば、スカルタス家の令嬢を囃し立てる。それだけだ。
また、エリューシスと対立していたように見えた、カナリア・エントールの敬虔な姿が、輪をかけて美談へと押し上げていった。
一方、学園の一部生徒からは「聖女は何をやっているんだ?」と不満の声も、密やかに出てきていた。
「王城では、執務に追われる殿下達を捕まえて我が儘放題らしいわ」
「連日城下へ降りて、商人達を喜ばせているようだな。」
「あぁ。アグイ商会がかなり懇意になっているとか」
うらやましい話だよ、と陰で嗤う貴族らは、先ほどまで「聖女様」「聖女様」と彼女を褒め称えていたばかりだ。
「魔法師団長のご子息様が、直々に光魔法の修練に付き合ってくださっているのに、真面目に取り合わないそうよ」
「まぁ!辺境伯やシリウス殿下たちは、聖女様の光魔法を心待ちにしているというのに…」
ある令嬢は痛ましそうにしながらも、その唇は醜く歪んでいた。
「近衛騎士団長のご子息が訓練しているところに、先触れもなく現れて邪魔をした挙句、怪我をしそうになったとか。しかもそれを周囲の騎士に当たり散らして、理不尽に罰則を受けた騎士もいるらしいな」
「ご子息も団長より叱責を受けたとか。迷惑な話だ」
エリューシスとシリウスの美談、は数日もすれば噂にもならなくなる。
いつだって、悪意を孕む話のほうが、人間は好物だった。
「あぁ、ほら今日もはしたなく花を売るようだ」
聖女の一挙手一投足をつぶさに観察し、陰でクスクスと噂に流す。
表では、聖女に「貴女様の味方です」と言って取り入った。
貴族らは、生徒達は、自分の利になるものを見定めている。
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