戦場にて
戦闘表現があります。苦手なかたはご注意ください。
あと数日で王国騎士団が到着する、という朗報が戦場に駆け巡る。疲労の見える騎士達は、顔を輝かせた。
「【奔れ 唸れ 捻じれろ】!」
エリューシスは習得した風魔法も出し惜しみしない。竜巻があちこちで起こり、魔物を上空へと舞い上げる。
「【貫け】!!!」
突然上空へ巻き上げられた魔物達は抵抗する間もなく、多方面から現れた氷の槍で貫かれた。
いつもは何でもない魔法の数々だが、数か月分の疲労が蓄積しているのか、エリューシスの表情は精彩を欠いている。
自分でも気づかぬうちに摩耗しているのだ。
「姫!ポーションを!」
「姫ではないです!ポーションはいただきます!」
甘苦いポーションの味にも慣れ、強制的に魔力を回復させては魔法をぶっ放していた。何故か姫と呼ばれるようになったエリューシスは、律儀に訂正しながらも魔力を練るのを忘れない。
魔物の数は一向に減らず、むしろ増加してきていた。
一時期は押し返した戦線も、やや後退し始めている。
「わたくしっ、これほど光魔法の属性が無かった事をっ、悔やんだことありませんわ!」
「姫の魔力ならばっ、光魔法の極大魔法もできそうですね!オラァ!【礫よ 降り注げ】!!」
「お見事ですっ!【滅封せよ 凍土】!あと、姫じゃないですわ!」
辺り一面が凍り、肌寒いほどの気温になる。
「いまだ!氷魔法師は畳みかけろ!!」
エリューシスの魔法で一時的に気温を下げ、他の氷魔法師が魔法を行使しやすくする。
エリューシス一人が上級魔法を行使し続けるよりも、周囲を底上げした方が効率的だと、辺境伯からの助言だ。
氷と、魔物の死骸で埋め尽くされる。魔力の少ない魔法師の氷は既に融け、消失し始めていた。
「さすがにあっついですわね」
「氷魔法師にとっては、最悪の時期ですよ。雨季も最悪でしたが」
通常ならば自分の周囲に微細な氷を纏わせ、気温を調節するのだが、そんな少しの魔力も今は惜しかった。
乱暴に汗を拭い、髪をもう一度縛りなおす。
「この辺りが快適な温度になるぐらい、ぶっ放してやりますわ!」
「ぶっぱな…姫、口が悪く、なんというか、辺境伯の悪いところ移ってますね」
「えっ!…そ、そうですか?」
目を泳がせるエリューシスは、付け足すように姫ではありませんと呟いた。
瞬間、魔力の振動を感じ、エリューシスは風魔法を使う。
「【繋げ】 中央部隊のエリューシスです」
『こちら北東部隊です。大型の魔物を視認しました。土系魔法を使っている様子も見受けられます!ご注意を!』
「情報感謝します。【拡散せよ】『総員に告ぐ!大型の上級の魔物が出現!土系魔法行使の可能性あり!復唱せよ!』」
「「総員に告ぐ!大型の上級の魔物が出現!土魔法行使の可能性あり!!」
カナリアの指導の下習得した、遠距離での連絡魔法。個々の風魔法師同士しか情報の伝達ができず、タイムラグが起きていた。
そこで、膨大な魔力をもつエリューシスが一度に複数の風魔法師へ拡散、各部隊に散らばる魔法師が同時に復唱することで、周囲の
騎士達に情報を伝達させる事が可能となった。
「今日の山場ですわね」
「姫、相当悪い顔してますよ」
「えっちょっと!そんな顔していません!それに、姫では…わぁ、大きい。」
視認した上級の魔物に、思わずエリューシスは声を上げる。遠くからでもわかるほどの巨体。2.5メートルはあるだろうか…。
「【探れ 潜れ】…斥候で出方を見ましょう」
小型の氷兎を二体作り、魔物へ走らせる。
素早く魔物まで近寄った一体の氷兎は、魔物の目を狙うも叩き落とされ破壊された。
もう一体は、中距離から下級の氷魔法で攻撃したが、地鳴りと共に地盤を崩され破壊された。
「土魔法確定ですわね~。わたくしと相性が悪いです。」
魔物もエリューシスを視認したのか、巨体を揺すりながら近づいてくる。
「知能あり、魔力感知でわたくしの魔力が多いことも気づいてますわね。」
「人間の土魔法師なら、少しでも地面から離すと弱体化できますが…」
「とりあえず、同様に対応いたしましょう。【盛り上がれ】」
魔物の足元を氷山にして、山形にしてみる。魔物はうろたえながらも、転がり落ちるように氷山から脱出してしまった。
「足も凍らせておくべきだったわ」
チッと舌打ちが漏れる。いやだわ、殿下の悪い癖が移ったのかしら、とエリューシスは独り言ちる。
「オヴォアアアアアアアア!!!!」
魔物の悍ましい雄たけびと共に、大地が揺れる。
「地震!?」
「かなりの広範囲ですね!」
思わず立っていられず、膝をつき震動に耐える。
そこに巨体が降ってきた。
「なっめないでいただきたいわ!【壁よ】 【浮遊せよ】!!」
自分の上空に氷壁を生み出し、その氷壁に物体浮遊の多重魔法をかける。思惑通りに氷壁に足をかけた魔物は、浮遊魔法で宙に浮いた。
「おもったい、ですわねっ!」
「浮遊しているうちに叩き込めーっ!」
「「おおお!」」
生来の属性である氷魔法と違い、習得したばかりの風魔法は修練度が圧倒的に違う。
必要以上の魔力を無駄に使用してしまい、魔力と体力を消費していく。
歯を食いしばって魔力コントロールを行う。
周囲の騎士らが、剣で、槍で、弓で、魔法で攻撃するが、バタつく巨体にはあまり効いてない様子だった。
「なんでもいい!!削れ!!削れー!!」
「撃て!撃て!撃てー!!」
風魔法師が浮遊魔法を援護するが、魔物による微弱な土魔法によって大地を揺らされ邪魔される。
エリューシスの細い腕の血管が浮き上がり、ブルブルと体が震え始めた。かみしめた唇が切れ、血が流れる。
「ぅ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ!」
初めて戦場で呻いたエリューシスに、傍にいた騎士がハッする。
「姫!もう浮遊魔法を解いてください!貴女様がもたない!」
「もう一度地震を食らえばっ、次はこの辺りの地盤が崩れます!そしたら、被害がさらに大きくなる!」
エリューシスの魔力がブレ始める。額には脂汗が滲んでいた。
「これ以上はダメです!エリューシス様!エリューシス様!!」
「くっ、ア!アア!!ア゛アアアア!!!」
ごう、と藍白の髪が揺れる。青藍の瞳は爛々と輝き、白銀の魔力が溢れる。
魔力が ぶれる
うずまく
ゆ れる
「何やってんだ。逃げるのはお前の十八番のはずだろ」
呆れを含んだような声が、エリューシスの耳に届いた。
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