王城での一幕
「あれ~?なーんか登場人物変わってない?悪役令嬢も少ないし、シリウス様が南方?に行くのも、へーん」
品の良い調度品に囲まれながら、ふかふかのソファに行儀悪くねそべる。
聖女は髪先を弄びながら、まぁいっかと鼻歌を歌いながらスイーツをかじった。
「リゲルもイプトも簡単にオトせちゃったし、次は近衛騎士団長子息アークトゥルスと、魔法師団長子息のカペラね。シリウスがなんか原作通りの反応でもないけど。えーと、この後なにすればいいんだっけ?たしか、スタンピードの前にカペラと…」
ぼそぼそと独り言をいいながら、豪奢な王城の客室で悦に入る。
「あはっ!まーさか『かがスカ』に転生?するなんて、ラッキ~!イケメン侍らせちゃうの最高~!ちょーーぉたのしぃ。やっぱわたしが主役っしょ」
手にもっていたスイーツを宙に放り投げながら、聖女らしからぬ発言をしていた。
塵一つない床に、かじられたソレが汚くつぶれた。
「どう思う兄上?」
第二王子の問いに、王太子の優し気な相貌がやや曇った。
「どうも何も、評議会が聖女と認めた以上、それ以下にはできないさ。」
「だーよーねー。評議会も面倒な後押ししちゃって~。――辺境地からの報告だよ。スタンピードは来月の新月…。ちょうど卒業パーティーあたりで起きそうだ。」
肩をすくめる第二王子は、その軽薄そうな様相とは裏腹に真剣な様子だ。
「早いな…。いや、そこまでよくもっている、というべきか」
「スカルタス家のご令嬢が加わって、かなり盛り返したみたいだよ~。さすが氷の魔女だ。」
「ますます彼のご令嬢に頭が上がらなくなってしまったよ。我が弟ながら、良い婚約者をもっているね」
柔和な笑みを浮かべる王太子に、「本人は苦労してそうだけど…。まぁ、楽しそうだから、いっか~」と第二王子は的確に、シリウスの状況を把握していた。
「そのシリウスも南方で大暴れしたからね。これで王国騎士団が辺境へ向かえば、多少は戦況に変化はあるかな~。」
広げた地図の駒が、南方から辺境伯へ移動する。
「ふふっ懐かなかった末弟が頼ってきてくれてうれしいよ」
本当に嬉しそうに王太子は窓の外を眺めた。
「それにしても我らが聖女様はどーするのかね~」
小ばかにしたように第二王子が虚空を見つめる。
光魔法の習得も、現状では微々たるものだ。とてもスタンピードに間に合う気がしない。スタンピードが一度起これば、甚大な被害がでる。現在の国力を考えれば、三分の一は魔物によって削られるだろう。
本来ならばスタンピード前に、聖女の強い光魔法によって魔の森の瘴気を抑え込むのがベターだ。
しかし聖女は光魔法の習得をおろそかにしている。
瘴気を抑え込む魔法は、光魔法の中でも極大魔法にあたる。
極大魔法は、数ある魔法師でも一握りしか扱えない。それを碌に修練すらしていない現聖女が扱えるとは、王族全員思っていなかった。
シリウスが「金喰い聖女」と揶揄したのは、国庫で贅沢三昧しながらも、光魔法の修練を怠っているためである。
「まぁ、いざとなったら、手は打つけどね~。それより兄上、今年の卒業パーティー出席どうするの?」
「王族が出席しないと皆残念がるだろう。シリウスが出席できないなら、私たちが行くべきかな」
「も~、兄上は優しすぎるんだよね。シリウスに激甘だよ。もうちょっとシリウスぐらい自由にしていいんじゃない?」
「シリウスはシリウスで苦労しているよ」
第二王子は、末弟の婚約者を思い浮かべて、確かにそうかも、と愉快そうに笑った。
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