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21 赤いドラゴンさんが待っている

 只今、デッキ前の広場では、ハンゾウとトラさんが組手中。


「にゃにゃにゃにゃにゃー!」


「そんな数撃ちな攻撃当たらないでござる」


「うーにゃー!」


「だからといって力一杯の大振りは駄目でござる。相手をよく見るでござる」


「もらったにゃー!」


「残念無念また来年でござる」


 デコピンを貰い、コロコロ転がるトラさん。


「そんな顔しても騙されるのは主くらいなモンでござるよ。 さあもう1度でござる」


 


 んで、今日は全員で出かける日。

 場所はドラゴンの森。


 先日、ユルングに、トラのお父さんと戦った赤いドラゴンの事を知ってるか聞いたのさ。

 そしたらその赤いドラゴンはユルングだって言うじゃないですか!

 そんで話した訳ですよ。 ウチでケットシーの戦士の息子を引き取った事を。


 そして、ユルングが話してくれた。


 この森は聖地に近く、聖地を守る為にドラゴンが守護の任を受け住まう森。

 主神ナディアの命により、誰でも森で生活出来る訳では無い事。


 だがケットシー達は、南の森を追われ、野犬・狼が住まう草原地帯を必死に駆け抜けこの森まで来た事。

 倒れた者も居たと。群れを逃がす為に囮になった者も居たと。

 小さき者が傷つき、必死で辿り着いた姿を見てどうしても出ていけと言えなかったと。

 だが無条件で許すと、他の種族もが、我も我もと来てしまうかもしれない……

 だから年1回の貢物で森の入り口付近を貸すと。

 あくまで貸すだけだから、早く安住の地を探すようにと。


 そもそも、大きな魔獣とかを食べる事はあるらしいが、基本魔素を大気から吸収し、維持してるので、ケットシーの食べる小さな食べ物は食わないそうだ。

 貢物は森に棲む小さな動物達に与えていたらしい。

 対価をもらっている。その事が重要だった。


 それを受け入れ、コツコツと森を自分達の住みやすいよう開拓してゆくケットシー達。

 だが、別の場所を探している動きが見れなかったので、ユルングは不安視してたようだ。

 数年後、その不安が形となって表れる。


 何時もの場所に貢物は無く、其処に居たのは軽鎧を着た、小さな剣を持つ1人のケットシーの戦士。

 その背後に居る大勢のケットシーの群れの中から、年老いたケットシーが前に出て、こう宣言した。


「我らは赤い邪竜を倒し、此処を安住の地とする。我が最強の戦士がキサマを討つ!」


 私を邪竜だと? 此処を何処だと思っている。神が聖地と定めし地に住まう私を邪竜だと……

 しかも此方の思いなど考えもせず、妄想にかられ、自分達の都合ばかり優先させるような言動…

 怒りが沸いた…… 邪竜と言われた事、自分勝手な言い分、なによりこんな小さなケットシーに倒せると思わせた自分自身に……

 なにより、私と戦うくらいなら南の森でドラゴンと戦えよ! と。


 そして戦いが始まる。

 それは戦いでは無く、正に蹂躙。

 1m程のケットシーが30mを越えるドラゴンに勝てる道理も無い……


 何度倒れても向かってくるケットシーの戦士。

 その戦士が倒れる度に、口汚く罵る声、

 それを聞いて更に激高する。 見てるだけのヤツが何を言うんだ!と……


 怒りで我を忘れていた…

 小さい、弱い生き物と見下していた……

 私は慢心していた……


 そんな私の隙を突いた戦士の剣が、私の頬に一筋の傷を付けた。

 頬から伝わる痛み、そして流れる血…

 茫然とする私はその傷を付けた戦士を見る。

 

 ボロボロになった装備。

 悲壮感漂う表情。

 だが、目だけは力強く、確固たる意志を宿していた。

 その表情を見れば、勝てるとは思っていない事が分かる……

 だが、その目は引けない戦いなのだと物語っている。


 途端に冷静になれた。

 覚悟を持った戦士に対して怒りで戦うなど、なんて失礼だったのかと……

 全力を持ってお相手せねば……と。


 その後の戦いは一方的であった。

 隙など与えず、戦士の攻撃全てに対処し、そして全身全霊を持って攻撃した。


 そして倒れる戦士。

 その戦士に浴びせられる罵声。


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 吠えて黙らせる。

 見てただけのヤツ等が何を言うんだ!

 勇敢に戦った戦士。 その戦ってる間、お前等は何かしたのか!

 この地から出て行け! そう言いだしそうになる。

 だが、この戦士は此処からケットシー達が出て行き、不遇になるのをを望んでないだろう。

 群れの為ではなく、群れが必要だから戦ったのではないか?と。


『その者を連れ帰り治療せよ。 そして反抗した罰として来年からは2倍の貢物を用意せよ。 出来ねば此処から出るがいい』


 そう言って足早に去った。

 これ以上、群れの傍に居ると、怒りで焼き尽くしそうだったから……




 これがあの日あった顛末……


 俺はユルングに頼んだ。

 あの子に会ってやってほしいと。 そして聞かせてやってくれと。


「私はその子に会って、伝える責任がある」


 ユルングは静かに涙し、そう言った……




「あるじー。 ちょっと組手するにゃ!」


「おう、いいぞー」


 そして対峙する俺とトラさん。


「にゃにゃにゃにゃにゃー!」


「はっはっはー ちゃんと狙えよー」


 高速ネコパンチ連打を軽く躱していると、トラさんの動きが止まる。

 其処には涙目で睨むトラさんの姿が……


 え? 何? なんか悪い事言った? 何で泣いてるんだ? まだ反撃もしガッ!


「ぐをおおおおぉぉぉぉ……」


 トラさんの正拳突きが俺の股間に炸裂……


「ほんとにゃ! あるじには効いたにゃ!」


「でござろう? 主は人がいいでござるから、涙とかに動揺するでござる。 まぁ身内限定でござるが」


 お前等…… いつか泣かす………




《ユルング…… すまん。 会う約束は明日に…… 延期して……くれ……》


《構いませんが…… どうかなさいました?》


《うぐぅ…… 一身上の…… 都合…… ガクッ……》


《ハチマン様!?》


お読みいただきありがとうございました。



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