22 赤いドラゴンさんが待っている2
えらい目に遭った翌日。
やって参りました。 ドラゴンの森。
何時もの外套のフードの中で立って、俺の頭を抱えるトラさん。
そしてそのトラさんの頭の上でふんぞり返るインコのハンゾウ。
トーテムポール、はたまたブレーメンの音楽隊状態である。
「ハチマン様、ハンゾウ様、そして小さなお客人。 お待ちしておりました」
そう言うは聖龍になったばかりのユルング。
此方に頭を下げ、出迎えてくれた。
何時も冷静で、丁寧で、有能で、こんな執事欲しいわぁ~。
「予定変更して悪かったね。 仕事とか大丈夫かい?」
「ええ。問題無く。 仲間も手伝ってくれてますから」
そう言って笑うユルング。
その間にウチの音楽隊のメンバーはもそもそと俺から降りる。
そしてトラさんの前で片膝を着き、目線を合わせるユルング。
「初めまして、小さなお客人。 私の名はユルング。 よくぞお越し下さいました」
「はじめましてにゃ! オイラはトラジローにゃ!」
お互い挨拶をし、握手を交わす。
「某たちの友であるユルングを、トラに紹介しようと思って此処に来たでござるよ」
「そ、そんな! 友などと恐れ多く!?」
「俺達が勝手にそう思ってるだけだ。 気にすんな」
「あるじや兄ちゃの友達ならオイラも友達にゃー」
トラさんの一言に、笑いに包まれる一同。
「で、頼めるか?」
「承知しました」
握手してた手を離し、広場の広い所に移動するユルング。
そしてその身体は光に包まれ、グンッと大きく広がり、高く高く上がる。
光が収まり、其処に現れたのは光輝く真っ赤なドラゴンの姿……
「……………」
目を見開き、驚きの表情で見上げるトラさん。
「これが、トラさんとユルングを会わせたかった最大の理由だ」
「赤いドラゴンさんにゃ!」
両腕を上げ、キラキラした目で見上げる。
その目はヒーローに対する憧れのような、羨望の眼差しであった。
俺とハンゾウは少しだけ、ユルングと会わせる事に不安を持っていた……
もしかしたら、父を倒したユルングに、心の奥底で恨みとか有るのではないか……
だがそれは杞憂に終わった。
俺とハンゾウはほっと胸をなでおろすのだった。
『トラジロー殿…… 私が貴方のお父さんと戦った赤いドラゴンであります……』
「殿とかくすぐったいにゃ! トラって呼んでにゃ! 後すごいカッコイイにゃ!」
ピョンピョンと飛び跳ね、全身で喜びをアピルするトラさん。
『ははは。 ではトラ。此処の頬にある傷。 これが君のお父さんが付けた、私に唯一ある傷です。 ちょっと見えずらいかな? では私の手に乗って下さい』
トラさんの前に差し出される大きな手。
ピョンと飛び乗ると、両膝を着き、その大きな手の感触を確かめるようにさわさわしてる。
そして上昇するユルングの手の中で「うわーうわー」っと。興奮してるようだ……
ユルングの頬の所までやって来た。
其処には綺麗に、真っ直ぐな1本の刀傷が……
『これが貴方のお父さんが私に付けた一太刀。 唯一の傷であり、私の戒めでもあります……』
立ち上がったトラさんはフラフラと傷に近づき、ペタペタと触り始めた。
何を思うだろう…… 言葉も無く触り続けるトラさん。
ユルングはトラさんの気が済むまで、そのままにしていた……
トラさんはユルングに任せて俺達は俺達の仕事をする。
それは俺が作っていしまったクレーターの利用。
水脈を掘って湖にしてしまおう計画!
広いクレーターの底に降りた俺達は、手分けしてサーチしながら水脈を探した。
「主。此処のちか800m程に大きな水脈があるようでござる」
「800mかぁ…… でも大きな水脈じゃなきゃ溜まらないよな。此処…」
「でござるなぁ…… まぁ頑張って掘るでござるよ。 主」
「お前も手伝えよ…… つかどうやって掘ろう……」
「闇雲に掘る訳にはいかないでござろう。 ならボーリングするしか無いでござるな」
「んー 結界をパイプにして掘るか…… 時間かかりそうだな」
こうして、パイプ状の結界を地面に突き刺し、掘り進める作業が始まった。
──sideユルング──
人化した私は、クレーターの畔の大きな倒木の上にトラと並んで座った。
「すごかったんだにゃ… 父ちゃん、ユルングしゃんに傷を付けるなんて……」
「ああ。相手がケットシーだと見下していた自分が恥ずかしい…… だからこの傷を残したんだ。戒めとしてね……」
「それならオイラのこの耳も曲がった尻尾もそうにゃ! これを見ると辛い修行もなにくそー! って思えるにゃ」
「そうか、じゃあ私達は似た者同士だな」
そう言って頭を撫でると目を細め、笑顔になるトラが居た。
それから、私が知りうる事全てを話して聞かせた……
ケットシー達がこの森に来た事。
この森の事情。
戦うまでの経緯。
トラのお父さんとの戦い。
そしてその後の事。
トラは黙って聞いていた……
お婆さんから聞いた話と、頭の中で照らし合わせてるんだろうか……
「トラは…… 私を恨んでないのかい?」
この質問が私は怖かった……
此れまで大変な苦労をし、死にかけ、ハチマン様達に救われた、この純粋なケットシーの少年の言葉が……
だが私は聞かなければならない…… 親の仇である私には……
「ユルングしゃんを恨むなんてお門違い?ってヤツにゃ! 父ちゃんは戦士にゃ! 戦士の戦いで勝った方をせめるのはちがうにゃ!」
真っ直ぐに私を見つめるトラ。
「それに殺したとしたら、それはケットシー達にゃ! ユルングしゃんはなにも悪くないにゃ!」
許された…… そう思えたら瞳から涙が溢れた……
ハチマン様から聞かされた時から、ずっと心の中で楔となっていた……
あの時、私が回復魔法を覚えていれば、この子の不幸は無かったんじゃないかと……
「ケットシーの群れに居たときは苦労もしたし、不幸だにゃって思うときもあったにゃ…… しかも死にかけるし…… でも今はすごく幸せにゃ! あるじも兄ちゃも! オイラの事、家族って言ってくれたにゃ!」
ニパっと笑顔で私を見るトラ。
「だから、話してくれてありがとにゃ。 父ちゃんもユルングしゃんが相手で良かったと思ってるにゃ」
私はトラの頭を撫でながら、泣いた……
「情けない姿を見せてしまいましたね……」
「そんなこと無いにゃ。 あ、1つだけお願いがあるにゃ!」
「ん?なんだい?」
「オイラが強くなったら…… 戦って欲しいにゃ! ユルングしゃんに勝ちたいなんて思ってるんじゃにゃいんだけど…… 何て言えばいいにゃ…… とにかく戦ってみたいにゃ……」
「ふふふ。 分かりました。その日が楽しみですね」
「約束にゃー」
その後の会話は和やかに進んだ……
「よーし! そろそろパイプ結界抜けるぞー」
「ぬおー! なんかこういうのワクワクするでござるな!」
「よし抜けた! 来るぞ来るぞ来るぞーキターーーーーーーー!」
もの凄い勢いで噴き出す水。
「おおー! 凄いでござる!って熱! 熱いでござるぅ!?」
「ギャー! 熱い! コレ温泉じゃねーかあああああ! 熱!」
「主! 何やってるでござるか! あつっ! ああーもう逃げるでござるっ」
「お前がサーチした場所だろーが! ひゃぁぁぁ俺も逃げるぅぅぅぅぅ!」
「はは…… は…… トラの家族は…… 騒がしいというか…… 騒々しいというか…… 予想の斜め上をいきますね……」
「でも楽しいにゃ!」
──sideナディア──
此処はナトーラ神界。
2柱の女神がせっせとせっせと書類仕事をこなしていた。
「あ…… ハチマン様……温泉引き当てた……」
「温泉って、島で?」
「違う…… ドラゴンの森……クレーターの中……」
「はぁ?なんでそんな所でなんか作業しちゃってるの?しかも温泉って!」
「計算した……湯量も十分……温度も高い…… 天候に左右されるけど……クレーター満タン時点で40℃~42℃をキープ……」
「最適温度じゃない!?」
「しかも…… ハチマン様が掘り当てたから……効能が半端ない…… こ、これは!」
「ちょっと!早く言いなさいよ!」
「美肌効果が物凄い……」
「私出かけてくる!」
温泉が私を待っているわ!
出かけるべく立ち上がった私の前に、ドーン!と紙の塔が立ちはだかる。
「この……書類で出来た5つ塔……無くなるまでこの部屋から出さない……トイレも行かせない……!」
「そ、そんなぁ…… 鬼ぃ……悪魔……!」
「……鬼でも悪魔でも……構わない…… さっさと仕事しろ……」
その日の仕事は書類の文字が涙で歪んで良く見えなかったわ……
お読みいただきありがとうございました。




