表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/58

拒絶と諦め

「汝!目を開けよ!」


 肩を揺り動かし葛の葉を起こそうとする。しかし、凍え切った葛の葉は目を覚まさなかった。


「霧綱、その姫君は汝を好いておる、それどころか我にも怯える事無く接した、器量の有る姫君だ死なす事は恥と知れ。」


「白狼!何故止めなかった!このまま去れと!何故言わなかった!?」


「問答している間が有るなら火を灯せ。この姫君こそ人だ、化生を案じるなど生半可な事では出来まい。人とは角に暖かき物だな。さあ薪を集め火を起こせ。」


 霧綱は枯れ木を拾い集め牢に戻る、藁を火種にし枯れ木に火を灯すと、徐々に葛の葉は生気を取り戻し始めていた。そして葛の葉が目を覚ます頃、霧綱は眠っていた。葛の葉はそっと近寄り声を掛ける。


「我君、我君……」


 何度も声を掛け、肩を揺らし続けてやっと目を開けた。葛の葉は安堵したが、霧綱は訝しげに葛の葉を見ると、口を開き訊ねた。


「姫君……気を確かに、人が何故我の様な化生を案じるのです?我は人に非ず、獣にも劣る者です。生ける者が関わるべき者では無い。」


「貴方様は……人を拒絶なさっている。ですが何故そこまで拒絶するのです?関わるべきではない者が、何故生きる者の命を救ったのですか?何が有ったのかは訊ねませぬ。どうか私をここに置いて下さいまし。」


 霧綱は困惑する、化生として落ちた者が娶るなど。考えられなかった。


「姫君……それは叶いませぬ、私は人では在りませぬ。例え人だとしても、我は汝を娶る事など、恐れ多く叶いませぬ。さあ、戻りなさい。人は日の光が……太陽の下へ帰るのが常なのです」


そこまで言うと葛の葉は涙を流し始める。初めて見る姫君は、幼く可憐だった。霧綱の胸中に感じた事の無い棘の様な痛みが、一瞬過ぎ去った。


「貴方様。帰ります……ですが私が笛を吹く晩は、一度で良い、貴方様の顔を見る事を願います。」


「それで良いのなら、一度だけ顔を覗かせましょう。人よ、どうか正道を進む事を願う。」


 そう霧綱は告げると再び眠りへと着いた。葛の葉は単を直し、石段を上がる。出口から地上へ上がる前に、一度だけ石段を振り返る。身も焼ける恋が終わったと悟る表情は美しい物だった。


「生娘でも有るまいに……不憫なものよの……人と言うものは」


 少し、ほんの少しだけの温もりが残る牢だったが、その温もりも次第に消えていった。そして日は暮れ、化生と魍魎が蔓延る夜の闇が訪れる。


「参ろうか、宵も瘴気が満ち、人の怨念が渦巻いておる。黒狼の傀儡が生まれようとしておる。口惜しいが汝が居らなければ、我は動けん、終わらぬ戦いは何時終わる事やら……それに少し……」


白狼は何時に無く饒舌だった。霧綱は訝しげに思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ