30 不意の刃
シナナキがやられた。
フスミの手斧による一撃は、シナナキの薄い防具を貫き首を吹き飛ばした。
ウソでも幻でもなく、シナナキの身体から出る淡い光───────いままでアマヤも散々見てきたプレイヤーが死んだ際にでるエフェクトが、その事実を物語っていた。
「シナナキッ......!」
眼前に現れた『絶望』の二文字に。
動揺をあらわにするアマヤ。
直ぐに反撃を試みるものの、フスミの服を軽く掠める程度に終わる。
「おっと、危ない危ない」
あっさりやられたという事実に、フスミの実力を残酷に突きつけられたような。
そんな絶望的な圧力が襲いかかる。
冷静さを失ったアマヤを前に、フスミは普段通りの和やかな笑みを見せた。
「あんなに焦るなんて彼らしくないよなあ.......万全な状態の彼とも、いつか1戦交えてみたいものだ」
と、その時だった。
「ああ──────そうだな」
聞こえる筈のない声に。
突如としてフスミの胸から飛び出した刃物に。
アマヤも────────フスミもまた、目をあらん限りに見開いた。
「.........こりゃあ、一本取られたね」
そう口にするフスミの唇から、光の粒子が漏れ出す。
出血の表現であるそれは、フスミが明らかな致命傷を受けたことを示していた。
「えっ?今....シナナキ....?さっき確かに....死んでましたよね?!」
「まさか........生き返るなんてなあ.....さっきの焦った様子も、まったくの演技だったのかい」
シナナキは一度確実に死んだ。
それなのに、何も無かったかのようにフスミの背後に立ち、その胸を貫いていた。
元から無い切断された右腕も、何もかもが元通りになって。
フスミはお見事、と抵抗する様子もなく右手を帽子に天を仰いだ。
「言ってたよな?“手に入れたモンを教えてほしい”って」
意趣返しとだと言わんばかりに、シナナキが悪い表情を見せる。
手にもった『シナナキが復活した理由』であろう、壊れた道具を放り捨てて。
「──────ハハ!なるほどそれは、律儀にどうも」
シナナキは騎士団本部で“手に入れて”いたのだ、一度だけ自身を蘇生できる、究極のアイテムを。
フスミは思い出す。「良いねえ。それ、俺にも教えてくれないかなあ」と、シナナキとアマヤの会話に割って入ったことが始まりだったと。
負けを認め、清々しい笑みを見せながら。
「賭けてるものが違うんだ、ここは勝たせてもらうぜ」
装備も、本部で手に入れたものも。
全て含めてフスミより先にシナナキが積み上げてきたものだ。
「それもそうだ」
「良かった.......本当に大丈夫なんですね。けど.....ふ、復活するんなら言ってくださいよ!」
安堵を見せたと思ったら、今度は怒りだして。
アマヤの感情も振り回されて右往左往していた。
「ああ、あと最後に教えておこうか。さっきの続き、俺は.......“バランサー”なんだ。じゃあ、また戦うときを楽しみにしておくよ」
「.....なるほどな」
『俺は騎士じゃない』と、言っていた話の続きを最後に、フスミは消えていった。
「.........あー、くそ。“使わされた”な」
苦笑いを見せつつ、シナナキは直ぐに足を進める。
「とりあえず急ぐぞ」
「やっぱり復活の.....アイテムですか。けど、流石にその一つしか取れなかったわけではないですよね?」
「そうだ。成果は色々と収まったあとだな」
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フスミを撃破してから、約2分。
俺達は身体的に…では勿論ないが、精神的に息を切らしていた。
「っ........はぁっ....やっと、戻ってこれたな」
「シナちゃぁ~ん!来てくれて嬉しいよっ。どうしたの?そんなに息切らしちゃって、ゲームなのにさ」
俺達がいない間に少しだけ、秘密基地くらいに利便性が増した拠点の中で、ミルクが待っていた。
大机にちょうどよく3つの椅子が用意されていたので、そこに座り込む。
「無理言いやがって.....悪かったな。若干遅れて.....!」
「.......それで、なんで時間を決めたんですか?本当、きつかったですよ!」
予定の時間からはほんの少しだけ遅れたものの、なんとか拠点までたどり着くことが出来た。
そんな俺達を面白がってか、可愛がってか、小さく笑うミルク。
「いやー、ごめんごめんっ。ボクの方もたてこんでてさぁ。すぐのところ悪いんだけど、今から仕事に付き合ってもらおうかなぁ?」
「......だろうな。よし、何をすれば良い?」
「疲れてる場合、じゃないですよね」
気合を入れ直すと、アマヤも流石の熱意でそれに続く。
「そうでなくっちゃぁ!君たちにやってもらいたいのは、最後の仕上げなんだからねっ!」
ピーンと真っ直ぐ、自信満々に人差し指を突き出す。
そして大机に一枚の紙を広げ説明を始めた。
「書いたのか?」
「まぁね、器用富豪のミルクちゃんなら余裕なのですよ」
インテリ風の口調で、エア眼鏡を指で持ち上げるミルク。
確かに広げられた地図は割と精巧に作られており、位置関係などがわかりやすく描かれていた。
「この2つは.....敵の蛮族団、ですか?」
「そうっ!早速結論に入っちゃうんだけど、ボクはこの二派閥を“争わせた”んだぁ」
「争わせた.....?」
『寄る辺の灯火』そして『パンクパンク』。
俺達の拠点から少し離れた草原の中に、比較的近い感覚で2つの派閥が存在する。
「この2つはそこそこ強いメンツが集まっててねー....面倒だから影で操って戦わせてみたんだ。しかもそれを利用して“商売”の方にも発展させたいと思うでしょっ?」
すごく悪い表情で、ミルクがずいと身体を乗り出す。ああ、そうか。
恐らく『その二派閥の争いを騎士に教えた』とかで騎士の仕事を増やしたのか。
…で本題に戻ると、ミルクが何を言いたいのか.....ある程度察するなら。
「マッチポンプするってことか!」
「....そんな純粋そうな言葉じゃないですよ?」
手をぽんと叩き、問題の答えが分かった小学生のような表情をすると、アマヤが妙な物を見る視線を送ってくる。
5分って制限時間もそのためか。正確な復活時間はわからないが、10分以上とかになるとタイミングが悪いかも知れない。
「その通ーりぃ。そろそろ戦いが終わって、寄る辺の灯火が勝つだろうから、ボロボロのパンクパンクに売り込みに行こーってわけさ」
「わ、悪いこと考えますね.....?!」
ミルクのゲス顔に、アマヤが軽く引き気味に。
「へへっ、いいじゃねえか。やれることはやっていかねーとな」
コッチには“スリ”で手に入れた初期装備が山ほどある。
戦いに負けて丸裸の奴らなら、『無料で差し上げますよ!』だなんて言葉をかければ一発の筈だ。
実際に売れるにしろ、恩を売れるにしろ、商機ってわけだ。
「あの、このチームがおかしいんですよね....?」
小さな悲痛の叫びは、下衆の笑い声にかき消されるのだった。




