28 のんきな乱入者
屋根の上を走る。
『失敗しやすいが、劇的に距離を離せる』というルートを走ることに決めた俺達の計らいは、今のところ上手くいっている。足切りの成果あって、背後を付いてきている騎士は残り二名だ。
「あの二人、付いてきますね」
「お前のルートが甘すぎたんじゃねえか」
「.......シナナキが付いてこれなくなったらと思ったんですよ!」
そう言ってるアマヤの表情は、全く余裕綽々という感じではないが。
「じゃあ、最後の振り落としは俺に任せろ」
「さっきの言葉が返されないように気をつけてくださいよ」
確かに、身体能力を活かした逃走ならアマヤのほうが上かもしれない。
ゲーム上の全く同じ身体能力でも、技術には差が出る。
ただ──────逃走も純粋な身体能力だけじゃない。
『これで“貼り付け”.......!』
無線で伝え俺はアマヤにアイテムを渡す。
「こ....これって....?」
「真っ直ぐ付いてこい!」
三角屋根の傾斜を駆け上がる。
後ろからの足音を確認し、頂上から滑り降りる。
「シナナキ?まさか貼り付けって?!」
滑る勢いのまま飛び上がる。
向かいにある少し高い建物の壁へと真っ直ぐ!
「行くぞ!!」
「ゃあああっ?!」
アマヤの情けない声とともに数秒の浮遊を経て。
ペタリ。
と、なんともいえない音を立て、俺の両手に付いた緑色の物体…「ゲルスライム」が壁に吸着した。片腕が欠損していたことで少し難度は上がっていたが、無事にバランスを保つことが出来た。
「──────ちょっ?!これっ、落ちないですか....?!」
「アマヤ!後ろから来んぞ!」
「わぁっ?!来ないでくだいっ!!!」
壁に張り付いたアマヤへと飛びつこうとする騎士。
驚愕しつつも、アマヤは咄嗟に後ろへ蹴りを入れた。
「ぐべっ!!」
一人目の騎士が顔面にアマヤの蹴りを受け、吹き飛んで落下する。
飛び込んだ二人目も、一人目に巻き込まれる形でそのまま落下していく。
「なんだ.....それはぁっ?!」
4、5mくらいの高さから、騎士たちはストリートの中心へと転がっていった。
あそこからじゃあ、もう追いつけないだろうな。
「まさかゲルスラがこんなところで役に立つとはな!検証しといて良かったぜ」
「早く!シナナキ......!張り付きが弱くなってる気がします!」
「おら、掴め!」
ぎこちない姿で壁に張り付くアマヤを、一足先にペタペタと上がった俺が引き上げる。
「ふ.....ギリのギリだったな」
「あ、危なかったです.......本当....いきなりなんてことさせてるんですか......!」
「でも、落とせただろ?」
「私が迎え撃てなかったらしがみつかれていたんですけど!」
目を細めて訴えかけるアマヤを軽く笑い飛ばす。
「お前を、信じてたぞ」
「なんか良い話みたいにしないでください?!」
実際のところ、アマヤを信じてたってのは本当だけどな。
壁に張り付いたところで飛びかかってくるだろうとは思っていたし。とにかく、時間が無いので気を取り直すとするか。
「ミルクが言った時間まで残り3分ってところだ」
「ここからなら.....間に合いそうですね?」
拠点のあるだろう方向へ目を凝らす。
ちょうど高い建物の上に飛び乗ったのが功を奏し、大体の距離を把握することができた。
3分なら、恐らく間に合うはずだ。
「見つからない程度に急ぐか」
建物の下にいる騎士に見つからないよう、上手く角度を測りながら急ぐ。
「そういえば、本部の先は結局どうだったんですか?」
「ああ......いくつかアイテムを手に入れた」
「えっ!本当ですか?!どんなアイテムが?」
「良いねえ。それ、俺にも教えてくれないかなあ」
「!?」
俺達が走る先の屋根の向こうの傾斜から。
ゆっくり腰を上げた男に、俺達の視線は釘付けになった。
「いやあ......君たち早すぎて俺じゃ追いつけないからなあ。本当に運が良かったよ。こうして、待っているところに来てくれてね」
カツカツカツ。
静かに響くいい音を立てて、渋く低い声の主が歩いてくる。
コイツまさか......ここを通ることを予測して....?
「あんたは……」
初期から装備できるような簡素な皮装備を身にまとう長髪長身の男。
肩に掛かりそうな無造作な茶髪と、口元と顎に生え揃った髭。目元に妖しい影を落とすハットを被ったその姿────。
「シナナキ君と、アマヤちゃん....だっけ?」
「あなたはっ......!」
……..この、感じ。
気づかれていなかったのにわざわざ音を立てて存在を示した挙げ句、近所のオジサンみたいな穏やかさ。
その見た目も含めて、頭の中で、とある人物と男が重なり合った。
「........なんだよおじさん。俺達になにか用かな?こっちも、ちょっと急いでんだ」
ニコリと笑ってみせると、男もまたヒゲを擦りつつ口元を緩める。
「うーん。君等、とんでもないことやらかしたんだってね?“こっち”も.....初日にそんなことやられたら堪ったもんじゃないんだよなあ」
やはり....騎士だったか。
「でも支給品すらなくて一人じゃ、あんたでも約不足なんじゃねえか?」
「支給品?よくわからないけど、俺はさっき始めたばっかでね。事情を軽く聞いたキリだが、ま......多分いけるだろ」
男の鋭い視線と目が合う。
その目を見ると、本当にこちらが不利なのかと思わせるような妙な圧がある。
くそ───────このオッサンを相手にしてる時間なんてねえぞ!




