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27 逃走スタート

『来ちゃった』


本部から走り抜ける中。

突然脳内に響いた甘い声に俺は顔をしかめた。


「────────急に何の用だ.....こっちも大分立て込んでて助けて欲しいトコなんだが」


突然かかってきた通信の主、ミルクに答える。


『うーん、そっちは大丈夫だと思うよぉ?』

「大丈夫って、こっちの状況がわかってんのか?」

『大方、大勢の騎士に追われてるとかでしょ?それなら、ミルクちゃんが“手”をうっておいたからさっ』

「俺の身体にカメラでも付いてんのかよ」


これくらいの状況、ミルクにとっては分かり易い推理ゲームだったか。


『つけて欲しいんだっ?!シナちゃんにそんな趣味があったとはいやはやぁ.....!』

『いいから、それどころじゃねえぞ!』


話すのに夢中になって少しでもミスをしたら終わり。

正直、集中して逃げていても逃げ切れるか怪しいって状況だ。


「なんで急に通信を飛ばしてきたんだ。それに──────いや、なんでもない」


なぜチームの通信ではなく、個人なのか。

そしてなぜ──────チームを抜けているのか。

俺はそう言葉にしようとしたところで、今言及する暇はないと口を止める。


『ボクの事はまた後でねっ。で、シナちゃんにお願いがあって来たんだ』

「なんだ?早く言え」

『いまから5分以内に、拠点に戻って来てほしいんだ。じゃ、よろしくねん♪』

「はっ......?」


その直後。

言葉を返そうと思ったときにはもうミルクは通信から消えていた。


「五分......って......そんな余裕は───────」


チラリ。背後を振り返ると、


「.....ないかもしれないぞ!」


ドドドドドド!!──────────と、後ろから迫ってきている大行進ばりの音が。

その圧力に、俺もアマヤも思わず顔を引き攣らせた。


「こ、これは完全に『やばくなった時』ですね?!」

「ああ....こりゃあもう、運命の分水嶺上に、正念場の建材が搬入され始めてるな」

「それってどんな状況ですかっ?!」


一周回って、逆に語彙が浮かんでくるくらいには。


「「うおおおおおお!!絶対に捕まえろ!!!」」

「「そこの角を曲がったぞっ!!!」」

「しゅっ....執念がすごいですね」

「まぁ、騎士狩りもしたからな」


なんとも言えない背後からの圧力が。

絶対に捕まえてやるという意思がにじみ出ている。


「シナナキ.....てめぇっ!!ちょっと強いからって女と二人でイチャイチャか?!」

「「許せねえ!!」」

「情けない姿引っ張り出してやる!!」


あれっ、なんか想像とは全く別のベクトルで恨まれてる?!


「おいそこで突っ立ってる奴!どけどけ!さっさと道を開けやがれっ!!」

「はっ?なに!?」


道を曲がった先にいた、俺達に背を向けていた二人組に声を飛ばす。

多分蛮族だろうけど、運が悪かったな!


「あれっ?!全部騎士....?!」

「ちょっと、早く逃げよっ!!ほら!」


阿鼻叫喚だ。

大通りを歩く人すべて、騎士の波から逃げるように付近の蛮族たちも逃げていく。


「これっ!本当に逃げれるんですか?!」

「どうだろうな......しかもその上、5分で帰らなきゃいけないらしい」

「へっ....?!」


アマヤが走りつつ、顔を歪める。簡潔にさっきミルクから聞いたことを話す俺に、頭を抱えたいけどそんな余裕すらないという苦悶の表情を見せつけた。

かなり難しいが─────ただ多分、状況は至極単純な.......筈。


「どっちにしろゴールは拠点だ!いくら人数が居ようと壊せるモンがなきゃ拠点は破れねえ。と、思う」

「思う、ですかっ?!」


序盤で作れる簡単な拠点といえど、そう簡単に壊せる仕様にはなっていないことは確認した。

戦闘用の武器ではなく、破壊に特化したモノでもなきゃあびくともしない筈だ。


「考えてみろ。簡単に壊せるような仕様でこんだけの数の騎士がいたら、拠点なんて意味なんだろ!」

「たしかに、数の力でゴリ押されるわけない.....ですよね……?」


そうでなければ、騎士がみんな集まって数の力で一つ一つ拠点を潰しに行けてしまう。


「なあ!騎士さん達さ!二人組にこんな人員割いても良いのかよ?今他も大変なんじゃねえのか?!」


適当にカマを掛けてみると、

さっきから俺たちのことを先頭で追ってきていた大柄の男が渋い顔を見せた。


(こいつ顔にでるなぁー……!)


そうなると、ミルクの打った“手”とは何かも浮き上がってくる。

恐らくミルクは俺達が騎士団本部を襲撃している最中、同時に、騎士団が対応せざるを得ない何かを起こしたんだ。

焦っているのは俺達だけじゃない。

……騎士たちもまた、悠長に時間をかけている暇は無いということだ。


「何か、追手の心を折る一撃を与えてやれば諦めもつく筈.....」

「ちょっと無理してみますか?」

「ん?」


俺のつぶやきをアマヤが聞いていたようで、アマヤは何か妙案でもあるかのように答えた。

『無理をする』.....とは逃げ方のことだろう。

俺達は騎士団本部を出てから、ある程度追手をまけるように難しいルートを進みつつも、『ミスをする可能性は高いが、劇的に差をつけられる』というようなルートは選んでこなかった。


「確かに、もう失敗したらとか考えてる余裕はねえな」

「逃げるのは結構得意ですよ」


心配なのはシナナキの方ですけどね。

────と、暗に煽るような表情のアマヤ。


「......ま、心配すんなよ。後ろは俺に任せろ」

「自信満々ですか」


この場合、先頭を走るべきなのは『実力が無い方』だから。

それを理解しているアマヤは俺の挑発に答えるように、俺を振り切らんばかりに一気に俺の前へと飛び出した。


「アイテムを持ってるのはシナナキですからね!後で後悔しても知りませんよっ!」

「そんなの知るか!」


壁を伝って、塀を登って、屋根の上を駆けて。

本当なら、アイテムを持っている俺が先頭を行って、俺が通りやすいルートを通るべきだ。

しかし俺もアマヤも、ただこの瞬間を競い合うことに夢中だった。


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