絶滅危惧
人々を活気立てる青い空。輝かしい太陽。鳴り止まない蝉しぐれ。
それらはまるで、無意識に美しい生命の偉大さを語りかけているかのようで……。
あのころは皆燃えていた。
――夢と希望。そして自由。
そんな取るに足らないはずの単語が実にすばらしく、それが人の生命力を形作っていると信じていた。
そうあのころは。
だがぼくらは知っている。それが全部嘘であると。信じたら、それだけ自分は後悔することになるということを。
夢?
そんなの叶うわけない。だって、世界はそう簡単じゃないから。
もっと複雑で、残酷で、そして無慈悲なのだ。『自由』なんてものは所詮、創られた言葉。そんなものこの世に存在するわけがない。
だが大人たちはぼくらに言い聞かせてきた。自由はあると。夢を追うことは美しいことであると。それを《きれいごと》だとわかっていながら。
だからぼくらは信じたのだ。信じていいと思えたのだ。あの偉い大人たちがそう言うのだから、間違いないと。
おかげで、自分はある一つの『夢』を持った。
――チャド・ウィルソン。
誰しも、名前くらい一度は耳にしたことがあるその人物。
伝説的ロックバンドの元のメンバーで、音楽史に名を連ねる稀代の天才。
歴史上屈指のメロディメーカーである彼が創る音楽は、何十億という人々のこころを一気に虜にし、やがて彼は世界のトップに立った。
――彼の音楽を聴かずにはいられない。
――聴かない人生なんてありえない。
彼の音楽を愛する者が世界中に溢れかえった。
彼の音楽が色褪せることなど絶対にありえない。
これからも人々のこころに生き続け、伝承し、そして新たな時代を形づくる。
それが直接的であれ間接的であれ、彼に影響を受けていない音楽家など決していない。まさに伝説的存在なのだ。
もう六十年以上経った今でも、彼の音楽を耳にし、感化され、この人のようになりたいと思う若者がきっとこの世界のどこかにいる。
自分はその一人だった。
ある日偶然、彼――チャドが、変幻自在にピアノを操りながら歌を歌っている姿を目にしたその瞬間、体全身に衝撃が走った。
――なんてかっこいいんだ……。
自由自在に楽器を操る――そんな彼の姿があまりにも衝撃的で、今までの人生で一度も味わったことがない感動だった。
感動はすぐに羨望へと変わった。《この人みたいになりたい》と憧憬の念を抱いては、それが自分の本当の願いだと悟った。
自分はそれを、一生追い求めるつもりだった――。
なのにいつから……。
いつからこんなに、生きづらさを覚えるようになったんだろうか。




