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四十話

「智也」すみれは言った。「その、ちょっとだけ聞いてほしいことがあるんだけど……」

「文化祭のことならあいつに聞いたぜ」


 智也は一瞬、ハクを見た。


 すみれも、驚いたように目を見張りながらハクを見る。

 相変わらず過保護だと、毎回思う。


「いいぜ。おれもおまえたちの案に賛成だ。ハクの作った曲を今月の内に完成させてそれを文化祭の出し物でやる、それでいいんだよな?」


 確認するように智也はすみれと、扉のすぐそばに片手にコンビニのビニール袋を持った陸に目配せしながら言った。


「うん」


 陸も、あんな親切な一面を持っていたことには少し意外だった。行き帰りの際、二人は痛い何を話していたのやら気になってやまない。


 陸に小声でコンビニで何を買ったのか尋ねると、彼は何も言わないまま袋をかざしてきた。


 入っていたのは、四人分のジュースやお茶などの飲料水、それにおにぎり。よくは見えなかったがおそらくお菓子と思える物まで入っていた。それを見て智也は、


「おまえら買い過ぎだろさすがに……」

「あとでお金ちゃんと徴収するからな」


 唐突に陸が口を開く。


「まぁさすがに毎日こんなに買ってちゃお金もすぐなくなっちゃうよね。次からは家から夜ご飯とか各自で持ってくるようにしないと」


 すみれのその案には自分は賛成だった。すぐに「そうだな」と同意を示しておく。

 



「文化祭の件、思ったんだけどな。おれさすがに一曲だけじゃなんか味気ない感じがするんだよ。そりゃあハクが作った曲はいい曲だと思ってるし、本番まで時間もそう長くないこともわかってるけどな。なんかなぁ……やるからにはもっといいものにしたいっていうか……」


コンビニのサンドイッチを口にしながらそう述べる智也。彼はそれを飲み込んだ後、床に置いていたパック式のコーヒー牛乳を手に取った。


 この時間は、いわば文化祭に向けたこれからの意向を決めるための会議。


 自分たちが買ってきた食べ物や飲み物を真ん中へと置き、自分たちはそれを囲むように座り込んでいる。


「どうだろ。私も一曲より二曲の方がいいとは思うけど……時間的に合うと思う?」


 最初に反応したのはすみれだった。


「そりゃあ、やってみないとわかんねぇだろ? 曲を仕上げてるうちに、またハクが新しい曲作れるかもしれねぇからな」


 話は智也とすみれが主体となって進でいく。

 どうやら智也は、ハクの作ったオリジナルの曲を二曲やりたいらしい。


 質と時間。質を追い求めるなら時間を要し、また時間の効率化を図るのなら質を下げなければならない。


 二、三か月くらい前からこの文化祭に向けて練習をしていたならまだしも、事実文化祭本番まで残り三週間ほどしかない。そんな状況では正直、質の高さを求めるのはさすがに無理があると考えるのが普通だろう。


 もっと、ほかのいい案はないだろうか。

 そもそも、これは会議しているとはいっても実質二人しか会話していない。


 陸は積極的に口を出すタイプでもないし、ハクは後輩が故に自分から意見を言いずらいのだろうか、最初から黙ったまま静観を貫いている。


「あの」


 どうしよもない――そんな不穏な空気の中、突然ハクが声を上げる。皆の注目がハクに集まった。


「前に智也さんが歌ってた曲じゃだめですか?」


 ハクが口にしたこと――それはすなわち、


「カバー……」智也は言った。「いや、それじゃあおまえが――」

「智也さんが歌うんです」


 その発言に、智也は思わず意表を突かれたように目を丸くする。


 ハクは続けて口を開いた。


「ぼく智也さんが歌ってる姿、本当に好きなんです。だから文化祭でも智也さんが歌うのを見てみたくて。……それにカバーだったら、オリジナルより時間もかからないんじゃないですか?」


 熱弁するように語ったハクの提案に一番最初に反応したのはすみれだった。


「いいと思う。カバーなら、本番までに何とか間に合うと思うし」

「おれもそれでいいと思う」


 それに続くように、陸も賛同した。


「じゃあおまえはどうするんだよ。おれが歌ってるとき」

「去ります、ステージから」あっさりとハクは答えた。

「まぁ、それしかねぇか……」


 再び静粛が訪れる。

 時計の鳴る音が聞こえてきたからか、すみれははっと気づくように口を開いた。


「それより時間大丈夫?」すみれは時計を見やった。「ほら、もう最終下校まで一時間ぐらいしかないよ。早く練習しないと」

「ほんとだな。思ったよりだらだらしすぎたな、おれたち」と、智也。

「土日も、やるんですか? 部活」


 食べたものを片づけていたその最中、ハクは突然皆に問いかけた。


「そうだな」智也は言った。「二人が大丈夫ならだけどな」

「私は大丈夫だよ、土日も」と、すみれ。

「おれも大丈夫」


 続いて、陸もそう返事を返した。


「忙しくなるなぁー、これから」


 智也の呟きに対し、ハクは「そうですね」と共感するように返す。


「あれ……智也さんたち三年生ですよね? 大丈夫なんですか、時間?」

「大丈夫だ。そもそも本当に大丈夫じゃなかったら、こんなこと秒で断ってる」

「……そうなんですね」

「ほら、おまえの作った曲もう一度聴かせろよ」


 智也はやさしくハクに声をかける。


「……はい」


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