34・2
「………」
「………」
約二分に渡る録音の再生。それが流れ終わったころ、そこにいた顔と言えば医者に余命を告げられたような表情で――何も言葉を発さず、体一つ動かさず、ただただ唖然としたまま場は完全に静まり返ってしまっていた。
――その理由はほかでもない。
「なんだ? すみれ」目を見開いたまま、智也は言った。「別に言うほど変わってねぇじゃねぇか、今までと」
自分も、心底そう思っていた。
録音から聴こえたその声は、すごく下手だった。
これが少なくとも、主観的な影響を受けた感想に過ぎないということは百も承知。しかし自信を持って言える。これは自分が、歌が下手だということの何よりの証拠にしかなっていないのだと。
〈なんで……。
あのとき歌ったときとはまったく違う風に聴こえる。
もっと、よく歌えてた気がしてたのに。
これじゃまるで別物。
……いや、違うのか。
この録音は、それ以上でもそれ以下でもなくて。
これが本当の姿。
なのに……。
すみれさんはなんで、あんなに平然とした顔をしていられるんだろう……〉
「おまえはこれでおれたちが納得するとでも思ってたのか? おまえちょっと頭でも冷やしてきたらどうなんだよ? おれたちがこんな平凡な歌なんかにこころ打たれるとでも思ってたのかよ……」
呆れたように、智也は呟く。
しかし今なお、すみれの表情は曇ってなどいない。
そんな彼女の様子に、どうやら二人も気づき始めたようで。
「……なぁ。なんでおまえさっきから、そんな気持ち悪そうな顔で笑ってんだよ?」
すみれは「いや……」と、何やらおかしそうに、髪を手でさらりと拭った。
「だっておかしいんだもん。智也の言うこと全部」
「は……!? 何がおかしいんだよ」
智也は苛立ちを隠さずそう言った。
「あの曲、一から全部ハクが作詞作曲したものなんだよ?」
二人の目が急に丸くなる。
その反応からして、智也も陸もさっきの録音をハク自らが作った曲だと思ってもいなかったのだろう。知らないアーティストの楽曲をカバーしていたものだと、勝手にそう思い込んで。
「カバーなんかじゃないよ」すみれは言った。
意外感の中核にあるもの。それは何も知らなかった二人が、ハクが作った曲を何も疑問に思うことなく《聴けていた》ことにあったのではないか。
それがカバーではないと知った途端、あの曲はがらりと印象を変えてしまう。
二人の目線はやがてハクに移った。
今まで部屋の隅で弱々しく様子を伺っていたハクにとっては、何よりの衝撃だっただろう。
今二人が、まるで立場が裏から表へと変わってしまったかのように自分を見ているものだから。
「本当に……あいつが作ったのか?」智也が口を開く。
「私より、本人に聞いてみたら?」
すみれがそう返したもので、ハクは思わず固唾を飲みこんだ。
「……本当か?」
できるだけひるまないように、舐められないように。
これは自分の曲だ。誰のものでもない。
だから今は……今だけは。
――堂々としていろ。
「はい。ぼくが作りました」
「どっかから拾ってきたとか、そういうわけでもないんだよな?」
「……そうですけど」
すると智也は小さく、「そうか」と呟いた。
「思えばさ」すみれが再び口を開いた。「智也は最初からハクのことなんか見向きもなかったんだよ。私はハクの作曲のことを言ってたのに、智也はそれをまったく確かめずにただ楽器が弾けないっていう理由だけで顔色悪くして。歌もそう。私たちは最初からもっと、ハクに対して思いやりを持ってあげるべきだった。それはさ、誰だってひるむよ。何も知らない二年も年上の相手に圧なんかかけられたりしたら。……私だってハクの代わりに部長やってあげたらよかったって後悔してるし……」
「………」
智也は俯き、何かを考えている様子だった。やがて、智也は口を開く。
「そんなことどうだっていいんだよ。興味もない」
智也のその発言に対して、すみれは「まだ――」と、いかにも苛立ちを匂わせるような口調で反論しようとしていた。が、すみれが言葉を発する前に、智也が割って入るように口を開いた。
「戻らせりゃいいんだろ? ここに」
「………!」




