三十三話 きっと戻れる
次の日、すみれとハクは朝の比較的早い時間帯に公園で落ち合った。まだ軽く「おはよう」と挨拶を交わし合った程度で、これといった会話をしていない。
それもそのはず。二人は『昨日の話の続き』をしにここへ集まったのだから。最初に何を話すかなんて大体察しがつくこと。
時間もあるのだろうが、公園には相変わらず誰も人がいない。
二人はとりあえず、日陰のある屋根付きの椅子の方へと向かった。
もう季節は秋だというのになぜか今、セミの鳴き声が聞こえてきている。今は少し日が差していて温かかった。
「歌詞、つけてたんだ」すみれは言った。
横に並んで座っているハクは、少しだけ顔を赤に染めた。
自ら歌詞をつけたので歌うのと、鼻歌で歌うのとではまったく聴こえ方違う。
故に、その恥ずかしさが今になって波のように押し寄せてきていた。
「別に……適当につけてみただけだったんですけど」
「すごいよ! ちゃんと歌になってた! 歌詞だって……これ本当にハクがつけたんでしょ?」
「そうですけど……」
「やっぱりすごいよハクは……。どうしたらこんな歌詞が生まれてくるの?」
それはとある夢を見たからで……。
そのことは言わないでおこう。説明が長くなりそうな上に、話が複雑というか不思議過ぎて自分でも何が何だかわからないから。
(何だったんだろ? あの変な夢)
「これなら智也たちも納得だね」
「え?」
すみれは携帯を手にしていた。
最初はそれが何を意味するかよくわからなかった。
だが、今のこの状況。そもそも自分がなぜ、歌を歌ったのか。その理由を考えたら、俄然正体がわかった。その携帯には――。
「もしかして……」すみれの解答を聞くのを、恐怖するようにハクは言った。
「うん。したよ、録音」すみれは、少し得意げにそう告げてきたのである。
「ダメですダメです! 今すぐ消してください!」
ハクは必死に止めに入った。
他方、すみれは残念そうに眉を下げた。
「録音なんかして何するつもりだったんですか……!?」ハクは言った。
「それは……あれだよ。智也たちに見せるため――」
「………」
すみれはさらに顔をしかめた。
ハクが見せたその横顔は、あまりに蒼白だった。
少しやり過ぎたと、反省するように口を開く。
「……ごめん。やっぱり消すね。少しいじわるが過ぎちゃった」
すみれは取った録音を消そうと、右手を携帯に近づけた。
「それで」ハクは言った。すみれの動きが止まる。「それで、智也さんたち本当に納得すると思いますか? そんな下手な歌で、ぼくをもう一回あそこへ戻らせてもいいって思わないと思いますけど」
「下手じゃない」すみれは囁くような声で言った。「ハクの歌は上手かった、絶対。少なくとも私はそう思ったよ? いや……そもそも『上手い』とか、そういう言い方もなんか違う気がする。あの歌は………。そう! ハクの声にすごく合ってた。ハクにしかあの歌は歌えないって、そう感じたんだよ私。それだったんだ、私がずっと前から思ってたこと……!」
「思ってた……?」
不思議そうにハクは首を傾げたが、
「うん。だから大丈夫、ハク。きっと戻れるよ。もう一度あの場所に……! 音楽、したいんでしょ?」
「………!」
パズルの残りひとピースが埋まっていく。
その時、今自分のこころの中にあるものが、いったい何なのかやっとわかった気がした。
〈そうだ。
おれは最初から、音楽がしたかった。
たったそれだけ。
もう一度、あの場所に戻りたい……)
△△
「なんでおまえが……ここにいんだよ……?」
智也、そして陸はハクを前に思わず驚愕した。




