30・2
「なんかお買い物しに来たみたいになったね」
レンタルショップから出た後、二人はそのまま帰路に就いていた。
日没も間もないこの時間、夕陽の光はもうほとんど頼りない。代わりに、ホタルの光より少し眩しい電灯の光が、この人通りの少ない小道を照らしてくれている。
「買い物じゃなくて、レンタルですけどね」
ハクは若干微笑みながら、そう言った。
二人の両手には、びっしりと中にある物が敷き詰められた黒い袋が握られてある。
たしかに遠くから見れば、どこかのショッピングモールに買い物をしに行った買い物客に見られても何らおかしくはないだろう。
あの後二人、はさらに店内に居続けた。
新たな発見の連続に、ハクは我を忘れてしまうほどの興奮っぷりだった。すみれは普段見られないような、彼の意外な一面を面白そうに見守りながら、CD選びに長々とつき合ってあげたいた。
あの店では、レンタルできるCDの本数がおひとり様十枚までと決められている。
その十枚をしぶしぶ選び抜いていたのが、こんなにも遅くなった原因だったのである。
挙句の果て、すみれに「私の分、使ったら」と提案され、ハクは結局すみれの言葉に甘えた。ハクは十五枚、すみれはあの後自分の分を追加で四枚選び五枚。計二十枚も借り
る始末になったのである。
お金もかかったが(もちろん、ハクは自分の分のお金はちゃんと支払った)、この魔獣のような物欲には敵うはずもなかった。
「あー、なんか聴くの楽しみになってきた」すみれは言った。
「ぼくもです。……そういえばすみれさん、家にそれ用の機材とかあるんですか? 今どき、家にスピーカーとか置いてる家も珍しいと思いますけど」
自分の家は特殊だと思っている。
携帯で音楽を聴くことが当たり前となったこの時代、わざわざCDで音楽を聴くのはかなり珍しい。
ハクが言及しているのは、スピーカーやそれ用のアンプなどの機材についてだった。自分のように、親が昔趣味で所持していたならば話は別であるが。
彼女はいったいどうなんだろうか……。
「それなら多分大丈夫だと思う。うちの親、私が小さいときよくクラシックとか流してたし」
その返答に少し意外だと思ったが、冷静に考えてみれば当たり前かもしれない。
彼女は今まで吹奏楽で音楽をやってきたピアニスト。そんな人間が、『親がクラシックを聴いていた』と言っても何らおかしい話ではなかった。
ハクは「そうなんですね」と返す。
「楽しかった? 今日」
唐突に、すみれはそんなことを尋ねてくる。
「はい、とっても楽しかったです。また行きたいです」
それは正真正銘、自分が思っているままのことだった。なんだか、今さら友達と遊ぶのってこんな感覚なんだと身に染みて実感した気がする。
「じゃあまた次も行こ」
「そうですね」
ハクは微笑みながら、そう返した。




