二十九話 おでかけ
ブックマークや評価、よかったらお願いします。
(なんか変だな……この感じ)
少しだけ眩しくて、思わず目を背けたくなる夕陽の光を眺めながら、ハクは思った。
視線を下げると、自分と違う制服を着た学生たちや夫婦共々、さらには小学生くらいの子どもたちの姿も視界に映ってくる。
(やば、太陽……)
視界は一面真っ白な光に包まれる。ほんの数秒前まで夕陽を直視していたせいだ。
同時に、目をつぶりたくなるような痛みが目の奥にまで走る。
反射的に、自分は右手を目に被せていた。
「どうしたの?」
左耳から、すみれの声が聞こえた。
ハクはすぐさま覆っていたその手をどかして、すみれの方に視線を向ける。
「すいません。ちょっとに日光にやられて」
そう言ったら、今度はすみれが「大丈夫?」と、やや心配そうに声をかけてきた。
ハクはそぐさま「大丈夫です」と返事を返した。
こういうのは時間が経てば、じきに治るものだと経験的に知っている。
「あの、すみれさん……」ハクは言った。
「何?」
「今日何かする予定なんですか? この大通りで」
今自分たちが歩いているこの大通りの両端には、たくさんの店が並んでいる。
商店街のような個人がやっている店はあまりなく、そのほとんどがCMで見かけるような飲食店や量販店などがずらりと奥の方方まで続いていた。
まあ、だからこんなに人盛りがあるのかもしれないが、彼女はここで何かしたいことでもあったのだろうか。
「うんん。別に決めてないよ。その場のノリで決めようって思ってて」
「えーと、じゃあつまり……ほんとに遊ぶため……」
「そうだよ。そんなに驚くこと? こないだだって一緒に遊んだじゃん」
「そうですけど」
日光の痕は次第に治ってきているというのに、この感じにはまったく慣れそうにもない。
それは多分、自分自身こうやって街中を二人きりで歩き回るということ自体、これが初めての経験だからなのだろう。
ハクたちは、午後のそんなに遅くもない時間帯に公園にて集合した。
何となく、その公園の休憩スペースでしゃべり耽っていたら、気づけば午後三時を回っていて、このままでは日が暮れてしまうと、ハクはすみれの言うがままに着いてきたのである。
「……すいません。おれ、こういうこと慣れてなくて」
「こういうこと?」
「……こう、他人と街まで遊びに行くみたいな? その、公園のときとはまた違っくて――」
自分でもあまり整理しきれていないことを説明するものだから、言っていることがめちゃめちゃだなぁと思ってしまう。
ハクは再び人盛りがある方に視線を向けた。
「ん?」
唐突に目にしていた光景に違和感を覚え、目を凝らした。そして、眉を細める。
隣ですみれが「……どうかした?」と、不思議そうに聞いてきた。
「今日、土曜なのになんでこんなに制服の人いるんですか?」
人盛りがあるこの大通りで度々見かける、制服姿の人たち。
背の高さ的にあれは高校生ではないかと、ハクはそう推測した。複数の制服が見かけられるから、その分学校の数もあるということだ。
(まぁ、一応この辺りじゃ町の中心だし)
当然、店が多くあるところに人は集まってくる。
「ああ。うちの学校はやってないけど、土曜にも授業受けに学校に行かないといけない高校もあるらしいよ。土曜だから少し早く終わってるんじゃない?」
「土曜も、学校……!?」
思わず目を見開いた。そんなの、聞いたこともない。
「でも今じゃそういう学校も珍しいよね」
「すみれさん、詳しいですね。ぼくそんなこと、今まで全然知りませんでした」
そう言うと、すみれは胸元で小さく片手を振りながら「いや、全然全然」と、それを否定した。
「ただ親から聞いただけ。私が物知りなわけじゃない」
ハクは「へえ」と口にする。すみれの親はどんな人なんだろうと少し気になったが、雰囲気的にそれは聞かないことにした。
「あ、ハク」すみれは言った。
彼女は右手をとある方向に差している。
何だろうと思ってその方向を見てみると――
「カラオケ、行ってみる?」
(カラオケ……)
こころなし顔をしかめた。
カラオケ――その言葉を聞いて瞬時に思いされるあのときの記憶。
だが、すみれはそのことを知らない。当然、自分の今の心中など知る由もなくて……。
どうしたものか……。
行きたくないと言ったら、今日この一日が全部真っ暗になりそうな気がして、そんなこと言える気がしない。
それに理由を尋ねられるのも個人的にあまり好ましくないシチュエーションだ。
「あ、隣の店の方が気になるかも」すみれは唐突に、そんなことを言い始めた。
「………」
「あれってCD売ってるところだよね?」
「多分、あれレンタル屋さんじゃないですか?」
「へぇ、ちょっと気になるかも。あの店、行ってもいい?」
(レンタル屋さん行ったことないんだ)
それを少し意外に思いながら、ハクは「いいですよ」と返事をした。




