二十八話 いつか
『明日放課後空いてる? 部活休みになったから遊びに行きたいなって思って』
『あー』
『?』
『すいません、その日補習で』
『ああー。この前の中間テスト?』
『そうです。めちゃめちゃきついです』
『週末だもんね、明日。土日は?』
『空いてますよ』
『じゃあ土曜に遊ばない?』
『いいですよ』
『でも遊ぶって、何するんですか?』
『まだ決めてないけど、絶対何かする』
『わかりました。じゃあ土曜、空けときますね』
『最近曲作りしてる?』
『ときどきしてます』
『歌詞とかつけたりするの?』
『たまにですけど』
『え!? すごい!』
『別に誰も見せたりしてないし、そんな大したものじゃありません』
『聴きたい! ハクが作った曲私に聴かせてよ!』
『いいですけど、ほんとに大したものじゃありませんよ』
『うん。楽しみにしてるから作ったら言ってね!』
騒がしい教室。『はい』とだけメールを送った後、そのまま携帯の電源を切る。
中間試験が終わり、早一週間。ハクはこうしてすみれとメールを交わすことが格段に増えた。それも今までより、ずっと親密に。
それはあの日、夕方の公園で互いの本音をぶつけ合ったから。
今まで躊躇して言わないでおいたいろんな言葉が、次会った際に話をするときにはすらすらと、口から本音を吐き出せるようになっていた。
それは緊張感とはまったくかけ離れた居心地。人と会話をして『楽しい』と自覚できたのはこれで初めてかもしれない。
何もかもが新境地。
状況は何一つとして変わっていない。相変わらず楽器は弾けない役立たずな人間で、部活に戻るどころかむしろ遠のいたとすら言える。
けれど、今までとは何かが違う。そんなことどうでもいいって思えるくらいにこころに余裕が生まれていた。
机の上にぞろっと上半身をかぶせる。今も、この言語化できない多幸感のせいで大声を出してはしゃぎたい気分だ。
もちろん、そんなことをしたら自分は明日から学校に来られなくなるので、顔を両腕の中に潜らせて興奮をぐっとこらえる。暗闇の中では満面の笑みをしようが誰も気づくわけもない。
「席替えするぞー」
顔を上げると、担任がいた。張り上げた担任の声は教室中に響き渡った。
ホームルーム中、ハクは机に肘をつきながら外の景色を見ていた。
何十台も止められそうな広々とした、その学校の駐車場には、車は一、二車程度しか止められていない。つまりガラガラだ。
その横に生い茂っている――おそらくは、人工的に植え付けられたであろう木々をハサミで切っている大人たちの姿が目に映る。あれがあの人たちの仕事なのだろうかと、ハクは担任の話をよそに考えていた。
「十一月の頭は文化祭だったな、たしかええっと………」
担任は首を傾げた。「すまん……詳細は忘れた。とにかくあと一か月くらいで『文化祭』だ。だから三週間くらい前になると、クラスや部活の出し物の準備とかするようになるんだけど………まだおまえたちは今年この学校に入ってきたばかりだもんな。一応文化祭の説明しとくか? 中学のとき文化祭あったって人?」
担任は首を左右に振りながら、周囲を伺う。挙手をした者は一人もいなかった。
「なんだ? おまえたち中学んとき、文化祭なかったのか!?」
担任がそう言うと、一部の女子生徒が「文化祭はあったんですけど準備みたいなのとかしてませんでしたよ」と、少し笑いを込めながら反応した。
「はぁ……。今じゃ中学でも文化祭とかあんましやってないんだな」
担任は驚きつつそんな感想を漏らしていた。
「要はクラスごとに出し物を用意するんだ。パフェやたこ焼みたいな食べ物でも、お化け屋敷でも別になんだっていい。……まあ、予算は決まってるから少しは限られてくるけどな。だからその時期は忙しくなるぞってことだ。今はまだそれさえわかっておけばいい。出し物を何にするかはまた別のときにする予定だ」
担任はそう説明すると、時計を確認してすぐさまホームルームを畳みかけた。
(文化祭か……)
担任や生徒たちのがやがやをよそに、自分はあたかも他人事のように文化祭なるものについて考えを巡らせていた。
テストも終わったというのに、また何だか面倒くさそうな行事が始まりそうだ――そう悲観的に物事を捉えているうちには、もうすでに鬱憤な気持ちになっていた。




