二十五話 非日常
すみれは帰宅している生徒のがやがやに混じって、下校していた。
理由もなく部活を休んだのだ。もちろん演奏部のグループメールには、用があるから行けないという旨のメッセージを一応のこと残しておいた。
いつしか、グループメールの人数が、『四人』から『三人』に変わっていて、〈ああ、本当にハクはいなくなったんだな〉と、受け入れたくない現実を否応もなく突きつけられた気がした。
「何してるんだろう、私」
そんな独り言は周囲の生徒たちの騒音に呑まれ、やがてなきものとなる。
行きたくないから部活を休んだというのは本当のこと。
我ながら子どもじみていると思いながらも、自分は部活において今の今まで休むということをほとんどしてこなかったものだから――いや、今まで一度もなかったのではないか――それを免罪符に、たまにはいいだろうと思い切って休むことにした。
そういう訳で、自分は今帰宅している。
かと言ってそのまま家に帰る――そういうわけにもいかなかった。
家に帰ったら、母がいるかもしれないから。
すみれは家のすぐそばの公園に立ち寄って、屋根付きの休憩所の隅っこに腰を据えた。
相変わらず誰もいない。少し寂しくもあったが、まぁ今は人がいない方がうれしいけど――とすぐに考えを改める。
〈なんであの時、謝罪してきたんだろう……。
私が謝られることなんて全然ないのに。
でも、ハクは少なくとも私に何かしらの罪悪感を抱いてるってこと?
もし私が『いいよ、大丈夫』なんて声をかけたらこの問題は解決……
いや、それは違う気がする。そんな単純な問題じゃないんだ、きっと。
でも……だったら何?
私はどうしたらいい?
何をしたら、もう一度ハクは振り向いてくれる?
まったく思いつけそうにない。
いっそこのまま時間が解決してくれればいいのに……〉
「そうだ……こういうときは時間が解決してくれる」
それがすみれが最終的に出した答えだった。
それは必死に導き出した答えでもあり、また問題から目を背けるための逃げでもあった。
――時間が解決してくれる。
小学生でも辿り着けられるような、陳腐な解決策にも見えなくもない。
しかしすみれにとっては、まったくもって真剣な解決策であった。
問題に対する、最も効果的でシンプルな対処法。
それは待つこと。
ただひたすら待てば、ある時今まで地獄としか思えなかったことが急変していたりする。
子どものころからなんとなく感じていたそれは、意識すればするほど目先の問題を解決していった。
意外と馬鹿にならないのだ。
しかしこの場合、それはマイナスにもプラスにもなり得るということは、まだこの時のすみれには知る由もない。




