21・2
ブックマークなど、してもらえれば幸いです。
最初は、緊張、恐怖、そしてもう一つほかの感情(これが何なのかはわからなかった)――どれも同じくらいあった。
けれど途中、歌い始めに感じていたそのある感情が、どんどんと風船のように膨らんでいくのを感じた。歌うに連れて、自分の注意はますますそっちの方へと向いていく。
――何なのだろう、これは。今までに感じたことがない感情だ。まるで色や形がちゃんとあるように、それにはどっしりとした重みと、それを信頼していいという絶対的な自信があるような気がして――。
――ああ、そうか。これが後悔……。
最後、その風船は弾け飛ぶように爆発した。
緊張も、恐怖も――この爆発のせいでどこかへ飛んでいってしまった。
それを境に、自分の中の力はしぼんでしまった花のつぼみのように抜けていく。
今までどこか諦められずにいた微塵の勇気も。
自分は特別なのだという誇りすらも。
自分の行動を支えていたその全部が、今消滅した。
△△ △
今日はこれで終わりにしよう――そう口にしたのは智也だった。現在はまだ、五時を少し過ぎたくらい。最終下校までまだ一時間半ほど時間があった。
皆は、それぞれが持つ楽器の片づけを始めていた。
やけに、耳に障るような騒音が鳴り続ける。
急いでキーボードを片づけ終えたすみれは、部屋の隅に立つハクの元へ寄ろうとした。
しかしそれよりも先に、智也の方がハクの元へと近寄っていった。すみれは思わず足を止める。
「ハク、この後いいか」智也は言った。
ハクは特に迷うような素振りもなく、「はい」と首を縦に振った。
「先に帰ってていいですよ、すみれさん」
ハクは、すみれを見ながら明かるげにそう告げた。
すみれは少しの間、目を見張った。
やがてすぐに落ち着いた表情に戻り、すみれは口を開いた。
「……うん。またね、ハク」
ハクは軽く頭を下げて、すみれが部室を出ていく姿を見送った。
それに続くように、陸がリュックを背に部室を去っていく。
――ガチャンッ。
引き戸が軽く閉まる音が鳴り響いたとほぼ同時に、ハクは振り返った。
驚かずとも、そこには智也がいる。
もう帰宅の準備を済ませたのか、ギターケースは部室の端の方に置かれてあり、部室の鍵を指先にぶら下げている。おそらく、これが終わったら施錠もやるということなのだろう。
「……なぁ、ハク」智也は言った。
異常なまでに、深刻な口調だった。
「おまえの歌、聴かせてもらった。上手くなってたと思う。……でもあれじゃ――」
「――辞めます、ぼく」ハクは智也を遮るように、そう告げた。
智也は、特に驚かなかった。
しかし表情が違った。まるでいじめを受けている子どもを何も言わず見過ごすような、憐れみを含んだような目で、自分を捉えていたのである。
自分は決してそれを見逃さなかった。それをこころの奥深くへと刻み、もうこんな風に後悔するようなことは絶対にしないと、そうこころに決めた。




