13・2
一瞬――いや状況が吞み込めるまでしばらくは、これは担任の勘違いではないかと疑いざるをえなかった。なぜならそこは――
(広い……!)
目の前に映るその室内は、まったく少人数でやる部活の活動場所とは思えないほどに広々としていた。電気が付いていたわけではなかったから、外からの淡い太陽の光だけが部屋の明るさを保っている。
しかし広さの割には、その部屋は殺風景に思える。
周りに何も置かれていなければ、飾り気もないのだ。
そこが今まで使われてこなかった部屋なのだと、一目でわかるほどに。
「まぁ、少し埃っぽいのは申し訳ないけどな」と、担任。
確かに、部屋を開けた瞬間少々埃臭いと感じた。部屋のあちこちを注意深く見てみると、床の板盤の上に目に見えるくらいの大きな埃が散乱しているのが見受けられる。どうやらこのまますぐに使える、というわけではないらしい。
しかし不思議なものだ。こんなに広くて実用性のありそうな部屋なんて、いくらでも需要がありそうなのに。
「あの、いいんですか」ハクは言った。「ぼくたちの部活、そんな規模が大きいわけじゃないですけど」
「ああ、別に気にするな。もとはと言えば、ここは器楽部の部室として使われていたそうだからな。それに、ほとんど使われないんだ。むしろ、おまえたちが今後ここをきれいに使ってくれるっていうのなら、おれたち教師にとってはありがたいくらいなんだ」
「……そうなんですね」
そういう部屋もあるのだろうと半ば強引に割り切る。
「あぁ悪い。もうすぐ会議が始まるから、先生もう行くな。また、何かあったら言ってくれて構わないから」
「あ……」
正直尋ねたいことで山々だった。しかし担任は、みるみる後ろ姿が遠ざかっていく。聞く余地もなく、すぐさま担任の姿が見えなくなってしまった。
「どうしよう……」
メールのことが頭をよぎる。
こういう、どう足掻こうてもいずれ向きあわなければならないことは、本当に嫌いだ。
人間関係というのは、特に面倒くさい。
(ずっと避けてたんだけどなぁ。こういう悩み事するの)
「ああー! やっぱり面倒くさーい!!」
誰もいない場所で、大きな独り言を呟く。
当然誰もいないから、人に変な目で見られることはない。初めて校内で大きく叫んでみたが、思いのほかすっきりした。やはり自分は人と関わり合うことが大の不得意なのだと、改めて実感する。
しかしそれにしても、だ。
部屋の入り口から見る室内は、本当に汚かった。
とにかく、これをどうにかしないといけない。
援軍を呼ぶか。
いや、それは駄目。そういう気分じゃない。
じゃあ、これを一人で?
絶対に時間がかかる。それに相当きついだろう。
でも、自分の今の立場を考えれば、このくらい一人でやらないときっと認めてもらえない。
一人でやるんだ。きつくたって。
「掃除道具、持ってこないと」
誰もいない廊下を歩き回る。
少し行った先、階段に密接した場所に掃除道具入れがあったから、ハクは大き目のほうきとちり取りを手にして室内に戻り、さっそく掃除を始めた。
掃除中、それはもうたくさんのアクシデントに見舞われた。
「ゴホッゴホッゴホッ――」
ほうきで埃をはわく度に、その埃は鼻に向かって吸い込まれては、
「待って待って待って待って待って!!」
突然、姿を現したGの始末には三度も付き合わされ、
「何これ!!」
これで難関は突破、そう思った矢先に今度はクモの巣に自ら頭を突っ込んでしまい、生息していた巨大クモをほうきで退治した。
「あぁぁぁ疲れたぁー。……こんなの一人でやってらんないよ」
いったい何時間経過しただろうか。
とにかく掃除をし続けた。
その疲れが今になって、どっと体全身に浸透していく。
重りか何かがが乗っかっていると錯覚してしまうほどに肩が重い。
それに室内を動き回ったせいか足も痛いし、ほうきを握りしめ続けていた手やら腕もしびれるように痛む。
もうこれ以上動くのは御免というもの。
壁に背中を預け、何分とその場に座ったままただただぼおっとする。
外を見れば、さっきまで光を照らしていた夕陽も沈んで、部屋中すでに真っ暗。
作業中、ずっと耳に届いていた野球部の掛け声も、今ではもう聞こえてこない。
(今、何時だ……?)
と、体は動かしたくないから目だけで時計を探す。その途中で、最初の方で電気を付けておくべきだったと反省した。
「おい!」突然、左から男の声が聞こえてきた。明らかに大人だとわかる声だったために、急に体中に冷や汗が湧きだす。「何してる?」




