第26話:白日の下の断罪、公衆の面前での完全失脚
第25話では、シオンとフィオナの魂が重なり合い、初の合体秘奥『聖風斬』が炸裂!
生ける殺戮兵器オーガ・バーサーカーを苦痛なく成仏浄化し、逃走を図った商人ゴルドを『天光の縛鎖』で逃げ場なく捕縛いたしました。
そして迎える第26話――宿場町ベルン編における最大級のカタルシス【白日の下の痛快大ざまぁ】がついに幕を開けます!
どうぞお楽しみください。
カン、カン、カン、カン――ッ!
宿場町ベルンの中央見張り塔から、非常を告げる鐘の音が激しく打ち鳴らされていた。
朝の澄んだ秋空の下、石畳の中央広場には、何が起きたのかと家を飛び出してきた数百人もの町民たちが押し寄せていた。
人々の視線の先――自警団詰め所の裏手、地下迷宮へと通じる石造りの大階段から、ゆっくりと地上の光の中へと歩み出てくる一団があった。
先頭を歩くのは、泥と煤にまみれながらも、凛とした佇まいで白銀の太刀を佩いた少年――シオン。
その隣には、黒壇の魔導杖を毅然と構えた天才少女フィオナ。
そしてシオンの左手から伸びる、眩い純白の神聖光を放つ『天光の縛鎖』に、ミノムシのように全身をぐるぐる巻きにされ、石畳の上を無様に引きずられているのは――最高級の毛皮マントを泥に汚し、脂汗を垂れ流して痙攣する悪徳商人、ゴルドその人だった。
「な……なんだありゃあ!?」「ゴルド商会の会頭が……縛り上げられてる!?」「おい見ろ! 後ろから出てきたのは……まさか、行方不明になってたパン屋の親父さんじゃないか!?」「うちの子……! うちの子がいるわ! 生きてた……生きて戻ってきたのねぇぇっ!!」
二人の背後から、手枷を外され、シオンの上着や布を羽織った数十名の町民や孤児たちが、眩しそうに朝の光に目を細めながら現れた。
広場のあちこちから、悲鳴にも似た歓声と嗚咽が堰を切ったように噴き出す。
自警団の詰め所から血相を変えて飛び出してきた団長カルロスが、目を丸くしてシオンたちへと駆け寄ってきた。
「シオン! フィオナのお嬢ちゃん! 無事だったのか……! それに、この連中は……!?」
「カルロスさん。約束通り、町の食糧のありかを突き止め、囚われていた人たちを全員連れ戻しました」
シオンが穏やかに、しかし芯の通った声で告げる。
「な、何だと……!? じゃあ、本当にゴルドの奴が……!」
カルロスが息を呑んだ、まさにその時だった。
「――そこまでだァッ! 全員、動くなァッ!!」
広場の群衆を荒々しく押し分け、銀色の装飾甲冑を纏った二十名以上の私兵を引き連れて現れたのは、豪奢な絹の法衣に身を包んだ肥満体の男――宿場町ベルンの最高行政責任者、代官バルガスだった。
その顔は青ざめ、額にはびっしりと冷や汗が浮かんでいる。
「自警団員カルロス! 貴様、町の功労者であるゴルド商会会頭に対し、何たる無礼な真似を許しているのだ! 直ちにその光の縄を解き、ゴルド殿を解放せよ! 逆らう者は公務執行妨害および反逆罪として、即刻その場で首を刎ねるぞッ!」
代官の私兵たちが一斉に抜き身の剣を構え、町民たちを威嚇する。
縛り上げられていたゴルドが、代官の姿を見るや否や、泥水に顔を擦り付けながら甲高い声を張り上げた。
「だ、代官様ァァッ! 助けてくだされぇっ! この不届き者どもが、迷宮の調査をしていたワシを突然襲い、商会の資産を強奪しようとしたのです! 早くそのガキどもを八つ裂きにして、ワシを助けて下されぇぇッ!」
あまりにも白々しい嘘。
広場に集まった町民たちがざわめき、兵士たちの剣の切っ先に怯えて後退しようとする。
だが――シオンは、一歩も退かなかった。
肩の上に乗った純白の子狐イリスが、代官へ向けて「ふしゃーっ!」と鋭く牙を剥く。
「代官様。あなたが守ろうとしているこの男が、地下で何をしていたか……町民の皆さんの前で、お話ししてもよろしいですか?」
シオンは静かに、しかし広場の隅々にまで染み渡る澄んだ声で問いかけた。
「黙れ、名もなき浮浪児が! 貴様のような身元不明のガキの戯言など、誰が信じるものか! 衛兵、その生意気な口を――」
「戯言かどうか、この【動かぬ証拠】を見ても同じことが言えますか?」
シオンは背負い袋から、地下の魔導金庫から押収した分厚い書類の束を引き抜いた。
そして、全町民の視線が集まる中、一枚目の帳簿を高く掲げた。
「これは、ゴルド商会の地下闇倉庫から押収した『真の裏帳簿』です。……街道が不作だと嘘をつき、街道を通るすべての穀物、小麦、塩漬け肉を買い占め、地下迷宮の隠し倉庫に死蔵していた全記録が、日付と数量付きで記されています。その総量、実に数千トン。ベルンの町民全員が、一年以上贅沢に暮らせるだけの食糧です」
「な……っ!?」「数千トンの穀物だと……!?」「俺たちがあんなに飢えて、子どもに泥水を飲ませていたのに……全部あいつが隠してたってのか!?」
群衆の間に、地鳴りのような怒りのざわめきが広がる。
「で、出鱈目だ! そんなものは捏造――」
代官が唾を飛ばして叫ぶが、シオンは間髪を容れずに二枚目の書類を広げた。
「そしてこちらは、その食糧買い占めと不当な価格吊り上げを黙認させるため、毎月ゴルド商会から代官バルガス様へと支払われていた金貨の『賄賂受領書』です。……代官様。ここにある朱色の私印と、あなたの直筆のサインは、見間違いでしょうか?」
「ヒッ……!? な、何故それを貴様が……!?」
代官バルガスの顔から、完全に血の気が引いた。
己が隠し持っていたはずの、破滅の引き金。それが今、白日の下に晒されているのだ。
だが――シオンの手は、まだ止まらなかった。
三枚目。
血生臭い瘴気を放つ、禍々しい紫黒の羊皮紙を取り出した瞬間、広場の気温が数度下がったかのような戦慄が走った。
中央に刻まれているのは、人間界の者なら誰もが本能で恐怖する、絶対悪の紋章――。
「そしてこれが、最後の証拠です」
シオンの声が、怒りではなく、哀悼と絶対の覚悟を帯びて低く響いた。
「魔族軍大幹部・十二使徒『十二禍』の血印が捺された――『魔族闇ギルドへの人身売買密約書』!」
「――な、何だとォッ!?」
カルロスが叫び、全町民が息を呑んで硬直した。
「跳ね上がった食糧代を支払えなくなった町民や、身寄りのない孤児たち計四十二名を、明日の夜半、魔界の生贄奴隷として金貨五百枚で売り渡す契約です。……ゴルドさん。あなたの血判が、ここにしっかりと押されていますね?」
「あ……あぁ……っ……!」
ゴルドは喉を鳴らし、泡を吹いて白目を剥きかけた。
「じゅ、十二禍……!?」「魔族に……生贄として、俺たちを売り飛ばそうとしていたのか……!?」「あの悪魔どもめ! 人間を、同じ人間を化け物の餌に売ろうとしていたのかぁぁぁッ!!」
真実を知った町民たちの怒りが、爆発した。
それはもはや、恐怖を完全に超越した猛烈な義憤の嵐だった。
農具を握りしめた男たち、涙を拭った女たち、そして自警団員たちが、怒号を上げながら代官と兵士たちを取り囲むように前進する。
兵士たちも、自分たちが守らされていた男のあまりの外道っぷりに戦慄し、剣を取り落として後退していった。
「う、撃て! 斬れ! 反逆者を皆殺しにしろォッ!」
狂乱した代官バルガスが私兵に叫ぶ。
だが、その狂声を切り裂くようにして――一人の少女が、凛とした足取りで前に進み出た。
フィオナ・シルヴァンス。
少女は泥にまみれた魔導ローブを翻し、首元から世界に四つしかない至宝――シルヴァンス家の家紋が刻まれた【白銀のペンダント】と、王家直筆の特権プレートを頭上高くへと掲げた。
キィィィィンッ……!と清冽な光が爆発し、純白と金糸の王立魔法陣が、広場の上空へと巨大に展開される。
「全員、静まりなさい!!」
その少女の放った声は、幼さなど微塵も感じさせない、天をも統べる王族の如き圧倒的な威厳に満ち満ちていた。
「我が名はフィオナ・シルヴァンス! 大陸最前線にて魔神皇軍と対峙する勇者ラインハルト、および大魔導士ミレイアが実娘であり、王立魔導学院首席特待生にして、王家特務監察の全権代行者である!」
「シ、シルヴァンス……!?」「あの大英雄の……娘様だと……!?」
広場全体が、静寂に包まれた。
フィオナは氷よりも冷徹な瞳で、地面にへたり込む代官とゴルドを冷酷に見下ろした。
「ゴルド商会会頭ゴルド、ならびに代官バルガス! 貴方たちが犯した『物資不当独占による国家反逆罪』、そして魔族軍大幹部・十二使徒『十二禍』と内通した『最高外患誘致罪』の全証拠は――今この瞬間、私の魔導通信術式により、王都中央監察局および王国軍最高司令部の公文書アーカイブへと完全転送・受理されました!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっっ!!」
代官バルガスが悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。
王都へ直接飛んだ。その事実が意味するのは、地方の権力など塵芥に等しい、国家最高法廷による絶対の処刑宣告だった。
「王立特務権限に基づき、ここに即刻宣告します!」
フィオナが黒壇の杖を、地面へと叩きつける。
「ゴルド商会、ならびに代官バルガスの全公職を永久剥奪! 私有財産、商会資産、保有不動産および隠し資産の【全財産没収】! 両名を国家反逆・外患誘致の特級大逆罪人として、王都最高監獄への永久終身投獄に処す!!」
カツゥゥゥンッ!と、判決の音が広場に響き渡った。
「待ってくれ……! 頼む、許してくれぇぇっ! 金なら……金なら隠し財産が王都の銀行にある! 全部やる! 何万枚でも金貨をやるから、命だけは助けてくれぇぇぇッ!」
ゴルドが鎖を引きずりながら、フィオナの足元へ這い寄り、泥水を啜りながら号泣する。
「わ、私ではない! すべてゴルドに脅されて従わされただけなのだ! 私は被害者だ、無実だぁぁぁッ!」
代官バルガスも己の罪を擦り付け合い、見苦しく叫び散らす。
長年、富と権力を傘に着て、飢えた民衆の命をもてあそんできた二人の巨悪。
その成れの果ては、泥に塗れて見苦しく命乞いをする、ただの哀れで醜悪な豚でしかなかった。
「……見苦しいわよ」
フィオナは唾棄すべきものを見る目で、二人を一瞥した。
「貴方たちに奪われた人々の涙と命の重さを、冷たい鉄格子の暗闇の中で、死ぬまで噛み締め続けることね」
「カルロスさん」
シオンが鎖の端を、自警団長カルロスへと手渡した。
「二人を、町の地下牢へ。王都から国軍の護送隊が到着するまで、厳重に拘束してください」
「……あぁ。任せろ、シオン!」
カルロスの分厚い手が、怒りと決意に震えながら鎖を掴んだ。
「おい野郎ども! この外道どもを豚箱へ叩き込めぇッ!!」
「オオオォォォッ!!」
自警団員たちが怒涛の勢いで押し寄せ、喚き散らすゴルドと代官の首根っこを掴んで引きずっていく。
町民たちから投げつけられる腐った野菜と泥水、そして罵声の嵐を浴びながら、悪党二人は完全に失脚し、地獄の底へと連行されていった。
長年ベルンを覆っていた暗雲が、完全に消滅した瞬間だった。
ワァァァァァァァァァァァァッッッ!!
直後、広場を揺るがしたのは、耳を劈くほどの地鳴りのような大歓声だった。
町民たちが抱き合い、涙を流し、空へと両手を突き上げて歓喜の声を上げる。
「うわぁぁぁん、お父ちゃん!」「生きてた……本当によかった……!」「ありがとう……ありがとう、神様……!」
地下から救出された人々が、広場にいた家族のもとへと駆け寄り、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら抱きしめ合う。
その温かな光景を、シオンは穏やかな笑顔で見つめていた。
胸ポケットから顔を出したイリスが、嬉しそうに『きゅいっ♪』と喉を鳴らし、シオンの頬に柔らかい鼻先を寄せる。
「シオン! フィオナのお嬢ちゃん!」
カルロスが涙をボロボロとこぼしながら歩み寄り、二人の手を両手で力いっぱいに握りしめた。
「ありがとう……! 本当に、何と礼を言ったらいいか分からねぇ……! あんたたちは、この町の……俺たちの命の恩人だ……本物の英雄だッ!!」
「いいえ、カルロスさん」
シオンは首を横に振った。
「町民の皆さんが、諦めずに立ち上がってくれたからです。……それと、地下の倉庫には、数千トンの穀物と食糧が手つかずで残っています。まずはカルロスさんたち自警団の手で、町民の皆さん全員へ平等に返還してください」
「あぁ……! あぁ、もちろんだとも! すぐに全自警団を動員して荷車で運び出す!」
カルロスが力強く頷く。
「……シオン。あんた、あんな大怪我したのに、もう平気なの?」
フィオナが心配そうに、シオンの顔を覗き込んできた。その琥珀色の瞳は、少し赤く潤んでいる。
「はい。フィオナさんが手当てしてくれたおかげです。それに……」
シオンは広場に広がる、何百もの笑顔を見渡した。
「約束しましたから。……この町のみんなと、笑って温かいご飯を食べるって」
シオンは腕まくりをして、カルロスと町民たちへと振り返り、満面の笑顔で高らかに告げた。
「皆さん! 奪われた食べ物は、すべて戻ってきます! ……今夜は、宿場町ベルンで一番の、最高の大宴会にしましょう!!」
広場に、再び割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
悪夢は終わり、希望に満ちた祝宴の朝が、ベルンの町を黄金色に照らし出していた。
第26話を最後までお読みいただきありがとうございました!
第27話では、倉庫にいた巨大魔猪の肉を、シオンが熾天使ミカエルの白銀聖炎で豪快にキャラメリゼ調理!
ジュージューと音を立てる肉汁と香ばしい煙が町中を満たす、飯テロ全開の最高に幸せな祝宴をどうぞお楽しみに!




