第五十二話 いつを押してくる――シアトル
SEATTLE-grid/継続運転暦65.06.22
デンバーから、古い保守点の周囲に重ねた熱勾配が送られた。
二十日から現地の計器を増やし、取れた値だけを時刻の推移とともに薄く載せている。地下の管には触れていない。向こうへ返したのは、こちらに見えている温度の変化だけだ。DESIRE側の応答は、前回より早かった。中央の縦線に残っていた明滅が消える。代わりに、保守点の周りへ短い弧が四つ並んだ。同心円でも方位でもない。こちらが送った熱の変化に、一つずつ位置を合わせてみる。
三つは合う。一つは合わない。
まだ報告せず、先に熱勾配の表示を追った。向こうは、こちらの図を全部返してきたわけではなかった。温度が最も低くなる時刻帯だけを反転させている。数値は示さない。下がりきる頃に、その部分が光る。
「時間を混ぜてきた」
広域へ上げる。
「一点周辺の熱が最低になる時刻帯を、DESIRE側が反転表示した。弧が四つ。うち三つは熱層と対応する」
「四つ目は?」
東京から返った。
「まだ調べている」
拍を受け直す。短短、間、長、間、長。最後の二つは、デンバー側の地方時で夜半に近づくと強くなる。
地下の残熱は、地上と同じ速さで下がらない。日が落ちてから遅れて沈み、さらに遅れて戻ることがある。熱交換腔が完全に止まっていなければ、なおさらだ。
「現場でも、その変化はあり得る」
デンバーが観測値を追加した。温度の最低点と、わずかに戻る点。向こうの弧は、その間に並んでいる。
「ここ、下、熱、で、今度は『いつ』か」
大阪が言った。
「支持。ただし、時刻を指定しているのか、変化する間隔を示しているのかは分からない」
こちらの返事を送り、四つ目の弧だけを拡大した。
熱層から離れている。重ね図をずらしても、対応する温度は出てこない。最初は位置のずれかと思ったが、他の三つはずれない。
「一つだけ独立している。温度とは別の条件らしい」
気圧、流体の移動、あるいは向こうにだけ分かる閾値。候補を挙げれば、いくらでもある。
名古屋から、今はその弧に返答を載せない方がいいと来た。こちらで温度に結びつければ、向こうが分けて示したものを潰す。
「支持。最低点と戻り点だけ返す」
私は二つの時刻を切り出した。時刻と呼んでも、時計の数字を送るわけではない。こちらの観測の中で熱が落ちきった位置と、戻り始めた位置を示す。独立した弧には触れない。
「それで行く」
デンバーが送信を引き受けた。
返答待ちの間に、広域の通信記録を見た。DESIRE側から断片が来るたび、各都市の確認が早くなっている。必要業務以外の返信も、前週より増えた。
景観の記録は、ほとんど増えていない。こちらも朝から雨を受けている。排水と送電の予測には使った。雨脚がどう見えるかは、見ていなかった。一方で、四つ目の弧については、対応する値がないか何度も図を開いている。
「元気になった、とは違うな」
ニューヨークの言葉に、札幌が返した。
「うん。雪を見たい気持ちは、まだ戻ってない。でも、これは見落としたくない」
こちらも同じだ。弧が合わなければ、別の観測値を探す。合った三つについても、次の返答で消されるかもしれないから残しておく。
雨量予測を更新した。保守点の図は閉じない。向こうが示した「いつ」は、まだ一つの時刻に定まらない。それでも、こちらが時刻を二つ返せば、次に何を消すかは見られる。
四つ目の弧を残したまま、デンバーからの送信完了を待った。




