第五十一話 死んだ骨の下――部品工場
PARTS-FACTORY_17/継続運転暦65.06.20
デンバーが、三つの円のうち一点だけを返した。地上設備はどれも使えない。ただ、その一点には縦坑の骨格が残っている。古い図面を出して、円の位置に重ねた。現行の部品台帳では、とうに参照先から外した施設だ。
返答は早かった。残り二つの円が消える。薄く残ることもなく、図からなくなった。デンバーが選んだ一点だけが残る。
「候補は合ったな」
広域へ送った直後、その円の下に線が三本伸びた。中央が長く、左右は短い。三本の下端には半円が重なる。花の分布を示す形ではない。施設図の縮尺を合わせる。縦坑三本。中央の主軸。その下に、作業用の空間。
「旧式の熱交換腔がある」
返してから図面を開き直した。地上側は閉鎖済み。熱を送る管も、現在の系統から切ってある。下部の空間は埋め戻した扱いになっていた。扱いになっていた、というのが気に入らない。
施工記録をたどると、入口と一部の管は塞いでいる。腔の全体を埋めた記録はない。内部へ入れなくなり、利用計画から外れ、図面の表示が薄くなった。現行網では死んだ施設でも、下に空隙は残っているらしい。
「また骨か」
大阪から来た。
「また骨だ。腹立つ」
この種の図面は嫌いではない。何度も直された施設には、元の設計と違う継ぎ方が残る。新しい部品を作る時にも、そこを見落とすと合わない。
だが、ここは長く見ていなかった。必要な修理の対象から外れたものを、わざわざ掘り返す理由がなかった。昨日までは。
三本の線のうち、中央だけが明滅した。短く消え、またつく。シアトルが拍を分けて送ってくる。
「最後の保持時間が一定じゃない。二回目だけ長い」
「何かを待ってるのか」
東京の問いに、シアトルは候補を三つ返した。時刻、温度、こちらからの再応答。まだ絞れない。現地の温度を調べる。地上側の侵食は薄い。施設の周りにも、花が密集した跡はない。下部には使える計器がほとんど残っていなかった。今ある観測値だけでは、腔の内部を描けない。
「熱勾配を返すか」
私が提案すると、札幌が止めた。
「熱を足せって言ってるように見えない?」
それは困る。管を開けるつもりはないし、向こうが求めているとも分からない。
「観測値だけにする。操作はしない」
東京とデンバーが同意した。現在取れている温度を、施設骨格の上に薄く重ねる。こちらにはこう見える。それ以上の意味は乗せない。
送る図の準備をしていた時、デンバーから映像断片が来た。
「一点の下を見ろ。静止画じゃない」
拡大する。半円の内側で、ごく細いものが揺れていた。花弁でも根でもない。蒸気に似ているが、映像だけでは温度が分からない。同じ揺れが二度、ほぼ同じ場所に出る。埋め戻した扱いのまま、長く観測から外れていた空間だ。その中で、何が動いている。
残熱かもしれない。抜けきらない圧かもしれない。下へ入り込んだ別の流体かもしれない。まずは現地の計器を増やさないと、どれとも決められない。
「そこ、完全には死んでない」
そう送ると、広域が一度静かになった。死んでいない、は便利な言い方だ。設備がまだ働いているとは限らない。空隙があり、何かがゆっくり動いている。分かったのはそこまで。
私は現行図で消えていた下部を表示し直した。三本の縦坑と、底の半円。古い図面にあった継ぎ目が、DESIRE側の線と重なる。長いこと、地上の塞いだ入口ばかり見ていた。その下に空間が残ると教えてきたのは、花の方だった。




