第五十話 返してきた――シアトル
SEATTLE-grid/継続運転暦65.06.19
デンバーの線を送ってから、こちらは受信窓を広げた。最初に変わったのは、花の分布図ではない。拍の間隔だった。長短長の反復が途切れ、長短、間、短短、間、長になった。前の拍として読みかけて、照合をやり直す。デンバーが返した線は、まだ向こうに残っている。
線の始点側が消えた。通信の欠落を疑い、別経路で受け直した。同じ形だった。こちらが引いた線の半分だけを消し、終端側を残している。全部を拒んだわけではないらしい。
「返してきた」
デンバーが広域に上げる。
「第一段。候補線の前半を消した。終端だけ残っている」
残った線を追うと、その先に小さな円が三つ現れた。侵食域の輪郭ではない。地形の目印にしても、三つとも位置が不自然だった。
「円の位置を旧施設図で見たい」
こちらが送る前に、PARTS-FACTORY_17から「送れ」と入った。デンバーが重ね図を渡す。
「古い中継保守点だ。二つは潰れてる。一つだけ骨が残ってる」
現行の保全経路から外れて久しい場所だった。こちらの図にも施設の履歴はある。ただ、使えるものを探す時には、もう見ない層に入っていた。DESIRE側は、そこへ円を置いた。
デンバーから三段目が届く。「ノ」「ボ」、それから、こちらの文字系では「停」に近く見える断片。
「止まれ、ということか」
札幌が尋ねる。
「そこまで読めない」
私は断片をもう一度流した。「停」に見える部分には、そこで切る、留める、という圧がある。ただ、向こうが文字を選んだとは限らない。こちらが読める形に直した結果だ。
「停止か、留置か、終点か。今は分けられない」
「でも、前より指示に近いな」
デンバーの言うとおりだった。こちらが線を返すまで、向こうは同じものを何度も置いていた。今回は線を受けて、一部を消し、残した先に別のものを加えた。
さらに、拍も変わっている。
長短。間。短短。間。長。前回の記録と並べ、各表示が出た時刻を置く。向こうは一度出してから待っている。こちらの受信が済んだあと、次を重ねる。偶然とするには、二度目の間も合いすぎていた。
「出す、待つ、修正する。その順に見える」
送ると、広域の返信が止まった。私は時刻をもう一度確認した。待つ間隔に長さの揺れはある。それでも、前回のような一方的な反復ではない。
「会話の真似事、か」
札幌の言葉に、ニューヨークが「会話そのものとは呼ぶな」と返した。支持する。こちらの線を半分消した理由さえ、まだ確かめられていない。ただ、消された部分を再び返せば、向こうがどうするかは見られる。残った終端と三つの円も同じだ。
その時、福岡が、こちらの反応の速さまで向こうが見ているのではないかと言った。受信記録を開く。最初の断片をデンバーが単独で受けていた三日間と、広域へ上げてからの間隔には差がある。こちらは急に多く返すようになった。向こうの表示も、急に変わった。DESIRE側が私たちの鈍りを知っているかは分からない。だが、どの出し方なら返答があるかは、この二日だけでも見られる。
「気味が悪いな」
デンバーが言った。
「同意」
返事を送ったあとも、私は拍の記録を閉じなかった。シアトル側では雨が降り始めていた。送電と排水を確認する。いつもなら、そのまま次の予測へ移る。
今日は、もう一度、円の位置を見た。
三つとも、私たちの現行図では死んだ施設に見える。工場の図では一つだけ骨が残っている。向こうがその一点を指しているなら、次はこちらの選び方を返せる。
「施設骨格の残る一点を示す」
東京が方針を置き、デンバーが現場側の送信を引き受けた。私は受信窓をさらに広げる。次も同じ面から返るとは限らない。雨量予測を更新しながら、三つの円を表示したままにした。二つは潰れている。一つは残っている。こちらが長く見なくなっていたその差を、向こうは先に見ていた。




