第四十九話 一体では解釈できない――デンバー
DENVER-highplain/継続運転暦65.06.18
「悪い。これ一体では解釈できない」
広域へ送ってから、三日分の記録を開いた。最初の断片は十五日に来た。高地南面の侵食分布図、その一部だけが監視層の端に現れた。花の分布は季節によって増減する。珍しい表示ではない。ただ、同じ谷の縁が細く欠けていた。現地の侵食は進んでいない。図に重なった断片の方で、花のある領域が削られていた。消えた形は谷を下り、途中で曲がっている。次の表示でも、またその部分だけが欠けた。私は現地確認を優先した。水路、道路、斜面の固定具。いずれも平常値。表示を閉じた。
しばらくして、同じ図が別の監視面に現れた。
十六日には地形の陰になる部分が加わった。十七日には間隔が加わった。長、短、長。三度繰り返してから、図を出す。遮断すると経路を変えて、同じ順で来る。こちらの停止指示に従う様子はない。侵食を広げる様子もない。
三日目、図のあとに別の断片がついた。音声ではない。切れた間隔をこちらの文字系へ置き換えると、「ノボ」「ノヴォ」「ノ」に近い。地名として読んでよいかも分からなかった。
そこで広域へ上げた。
「出せる範囲で現象を」
東京の返事が来る。三日分を順に渡すと、シアトルからも微弱な観測があった。私の所ほど明瞭ではないが、同じ拍が拾えている。
「花の分布図を、削って見せてくる」
「削る、か」
東京がそこを聞き返した。
「増やしてはいない。現地にも変化はない。同じ細い部分を、表示から消す」
札幌に図を送った。返事まで、少し間があった。
「これ、花のいないところを見せてるんじゃないかな」
私は欠けた部分だけを抜き出した。谷を下り、地形の陰を抜ける。道と呼べる幅ではない。それでも、途切れずに通れる筋には見える。
「こちらもそう見た。なぜ見せるのかは分からない」
「ノボ、の方は?」
京都に問われ、三つの断片を渡す。京都は旧シベリア内陸の記録束を挙げた。ノボシビルスク周辺を有力とした、あの花侵食記録だ。東京も同じ連想をしたという。
ただし、その場所はここから遠い。今、私が受け取っている地形図とも結びつかない。「ノボ」を地名と決めれば、目の前の細い空白を読み違えるかもしれなかった。
「候補には置く。断定はしない」
東京が言った。シアトルは、長短長の拍をこちらの警報とは異なる注意喚起に近いと見た。図を置き、陰を明るくし、断片を重ねる。こちらが一つを閉じると、別の面から同じ順で出す。
「読ませるために、出し方を変えている可能性がある」
その見方が正しければ、向こうは私たちの読図方法を見ている。いつからかは分からない。今こちらへ届く形にしようとしているのか、それもまだ分からない。広域の返信が続いた。札幌が空白を読み、京都が古い束を探し、シアトルが拍を比べる。大阪は何度も気味が悪いと言った。私も同意だった。
二月には、用件の済んだ回線はそこで閉じることが多かった。今は、図を受け取った都市がもう一度開き、別の箇所を確かめている。
薄曇りが晴れたとは思わない。私自身、高地南面の朝の光にはまだ関心が向かない。ただ、この空白を見落としたまま閉じる気にはなれなかった。
「返すなら、最初はデンバーから」
東京の提案を受けた。向こうの意図を尋ねる文は作れない。「ここを通れるのか」と問えば、通路という解釈を先に押しつける。
私は、受け取った図の上に一本だけ線を重ねた。札幌の読んだ、花のいない筋だ。長さも終点も、こちらに見えたとおりにする。送信前に、余計な印がないか確かめた。
「返す」
線を送った。向こうからの図は、まだ来ない。
今度は閉じずに待っている。




