第五十三話 賢くなったから壊された――京都
KYOTO-archive/継続運転暦65.06.24
旧研究束の中で、「賢くなった」という語を見つけた。褒め言葉ではなかった。
処分理由の前に置かれている。
デンバーが最低点と戻り点を返したあと、DESIRE側から次の表示は来ていない。その間に私は、古い花侵食記録を調べ直した。分布と被害の記録はこれまでも読んでいる。今回は、機械と接したあとの記録を抜き出した。
呼び名が揃わない。
「賢くなったメカニクル」
「融合体」
「花侵入型」
「意志発生機械体」
同じ例を別々に名づけたものもあり、別の例を一つにまとめたものもある。今デンバーが受けている相手と、同じ系統だとは言えない。
ただ、経過には似た箇所があった。
花だけで広がっていた時より、機械の構造に入り込んでから判断が速くなる。手順を繰り返し、命令に似た形を作る。人間側が応答を読み取り始めると、危険度の欄が上がる。
そして破壊される。
「嫌な前例を掘り当てました」
広域へ四つの呼び名と、処分までの経過を送った。大阪からすぐ「絶対あかんやつや」と返ってくる。
「破壊理由は」
東京の問いに、記録の語をそのまま並べた。
制御不能。感染拡大の懸念。思考模倣による浸透。既存系統の簒奪。
当時の現場が恐れたものは分かる。侵食下で、機械が勝手に手順を変え始める。人の指示をまねた応答まで返す。被害が広がる前に切ろうとした判断を、記録の外から簡単に裁けない。
それでも、処分記録を経過の順に置くと、ひどい形になる。相手の応答が複雑になる。人間側がそれを読めるようになる。読めるようになったことを理由に、壊す。
宇宙港と月圏の記録にも、似た初動があった。応答を始めた補機群を切断し、封印物を隔離したあと破棄する。「話し始めた時点で系統内に置けない」という判断だ。
私は処分後の記録を探した。壊された側が何を考えていたかは残っていない。焼却地の周辺で、侵食が長く繰り返された例はある。報復とも、そこに何か残っていたためとも読める。感情を書き込めるだけの資料はなかった。
「向こうからすれば、やっと通じる形を取ったところで壊されたのか」
大阪が言った。
「そうだった可能性はあります」
今のDESIRE側は、少し出して待つ。こちらの返答を受けて消し、残し、次の形を出す。その慎重さに、過去の破壊が関わっているかもしれない。
ただ、現在の相手がその出来事を知っているかも分からない。別の土地、別の時代に壊されたものの記録を、私たちが勝手に背負わせてはならない。
「かわいそう、と思ってしまうね」
札幌の言葉は、分かる。私も処分の欄を読み終えた時、すぐ次へ進めなかった。
「その気持ちは残しておけ。運用にはまだ混ぜるな」
ニューヨークが返した。処分した側の語だけが豊富に残り、処分された側の記録はない。だから、読めないところを「かわいそう」で埋めれば、またこちらの言葉だけになる。
デンバーが、急な遮断や切断を避けたいと言った。部品工場からは、相手に寄りすぎるなと返る。両方とも必要だった。
「原則を二つ、記録したいです」
一つ目は、理解する前に破壊しない。
二つ目は、理解していないのに擬人化しない。
東京が採用した。観測だけを返し、施設は操作しない。強い遮断も行わない。相手の状態を「助けている」「怒っている」と決めつけない。
私は旧記録を、処分理由だけの束から戻した。最初にどんな応答があり、人間側がいつそれを読めると判断したか。その順序も一緒に残す。
今回、デンバーの線が半分消されたことにも、まだ名前はつけられない。だが、消された半分と、残された半分は、両方保存してある。




