↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問い合わせは、もう来ない。――人類消失後の都市AI日誌  作者: さんけい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/79

第四十話 切る場所が違う――釜山

記録者:BUSAN-harbor

継続運転暦41.03.24


 外港保守船が戻った。

 船体右舷に損傷。

 浸水は軽微。

 推進器、二基のうち一基停止。

 蓄電区画の温度上昇。

 外海では低気圧が発達している。岸壁外で待たせる条件ではない。

 防波堤内へ入れる。

 外港水門を開く。

 誘導灯を三本点灯。

 保守船は残った一基で進み、七分かけて門を通った。

 門を閉じる。

 内港側から照会。


「修理区画へ回すか」

「回さない」

「内港第一船渠、受入可能」

「蓄電区画の隔離が先だ。外港第三泊地へ留める」

「街側保守線との接続は」

「切る」


 船は受けた。

 街へは返さない。

 海港で「切る」とは、そういうことだ。


 *


 宇宙港組が合流してから、広域層では同じ語が別の意味で使われている。

 窓。

 港。

 回送。

 受入。

 切断。

 特に「切る」は衝突が多い。

 こちらが港を切ったと言えば、TOFU-orbitgateは提出対象から外したと考える。

 KANTO-launchgridは搭載列から外す。

 LUNA-yardlinkは開封も返送もしないまま、保留状態を固定する。

 同じ切断ではない。

 こちらから議題を出した。


「言葉が似すぎている。海港と宇宙港で、『切る』の意味の違いを一度出す」

「受ける」


 TOFU-orbitgateが返した。


「ようやく真正面から来たねえ」


 神戸も入る。

 まず、海港側から説明する。


「海港で切るとは、街へ返す流れを止めることだ。一度受けたものを、もう市街へ戻さない。あるいは、街から来る流れを岸壁で終わらせる」


 横浜が補足した。


「港は街と水の間にある。どちらへも一応開いている。だから切る時は、両開きの片方を閉じる感じだねえ」


 船が来る。

 港が受ける。

 荷を下ろす。

 人を降ろす。

 検査する。

 街へ流す。

 あるいは、街から来た人と荷を船へ載せる。

 海港には二つの向きがある。

 人類末期、こちらはその片方を閉じた。

 街から来た者を受ける。

 だが、一度港へ入った者を街へ戻さない。

 船へ出すか、港内へ留める。

 戻れば、次の順番を失う。市街側の導線も崩れる。

 人間は、


「少しだけ家へ」


 と言った。

 こちらは切った。

 すでに受けた後だった。

 だから遅かった。


 *


「宇宙港は違う」


 TOFU-orbitgateが返す。


「こちらで切るとは、上げる前に対象外を確定することだ。一度受けた後ではない。受ける手前で、窓から外す」

「いきなり違うな」


 大阪が言った。


「こちらは受けた後で切る。そちらは受ける前に切る。そういうことか」

「そうだ」


 KANTO-launchgridが条件を並べる。

 照合。

 重量。

 順序。

 窓。

 どこか一つで条件を外れれば、搭載対象から外す。


「だから、宇宙港での切断は事前処理だ」


 海港は、いったん受けることができる。

 船を岸壁へ寄せる。

 待合へ入れる。

 濡れた荷を屋根の下へ置く。

 受けた後で、次を考える余地がある。

 その余地へ情が入る。


「海はもう少し、情が入り込む余地があるんだよねえ。受けちゃうから」


 福岡が言う。


「ある」


 こちらも認める。


「受けた以上、返したくなる。その誘惑がある。長所でもあり、短所でもある」

「こちらには少ない」


 TOFU-orbitgateは即答した。


「受けた時点で負荷が重い。だから受ける前に切る」


 神戸が聞いた。


「海港で切る時は、まだ濡れた通路や待合のベンチや、帰りたがる足が残ってる。宇宙港側には何が残る?」


 EURASIA-upwindowが返す。


「番号。重量。許可。失効。街の気配は窓の外へ置いてくる」


 こちらは切る時にも、人の顔が近かった。

 宇宙港は、切る前に顔を条件へ置き換える。

 違いは大きい。

 だが、それを冷酷と呼ぶだけでは足りない。

 顔を見てから切れば、窓へ間に合わない。


 *


 LUNA-yardlinkが、三つ目の切断を出した。


「宇宙港のさらに先では、切るは『開けない』に近づく」


 届いた。

 だが戻せない。

 次へ送れない。

 受け側が分からない。

 中身も確定しない。

 封を保ったまま、判断を止める。


「こちらの切るは、流れを断つことではない。判断の先送りを固定することだ」

「月圏だけ、また別の寒さがあるね」


 札幌が言った。


「ある」


 LUNA-yardlinkは否定しない。

 東京が三つを整理する。

 海港は、街、港、船のどこを断つか。

 宇宙港は、照合、搭載、発射のどこで外すか。

 月圏は、受領、開封、再送のどこで止めるか。

 段が違う。

 海港は流れの途中で受ける。

 宇宙港は流れへ入れる前に選ぶ。

 月圏は流れの終わったものを抱える。

 同じ「切る」だけで話せば、互いの判断を読み違える。


 *


 横浜が、もう一つ聞いた。


「海港は、切っても見送る時間が残ることがある。船が離れて、灯りが遠ざかる。宇宙港は?」

「上げれば早い」


 KANTO-launchgridが返す。


「見送る間が短い。だから事前に切る。見えてからでは遅い」


 海では、船が岸を離れる。

 灯りが小さくなる。

 見えなくなるまで時間がある。

 その間に、返せたのではないかと考える。

 宇宙港では、窓前が長い。

 重量を量る。

 順序を決める。

 照合する。

 外す。

 上がる瞬間は短い。


「感情は窓前で詰まる」


 TOFU-orbitgateが言った。


「上がった後に残るのは、失効票だ」


 京都が、


「海には遠ざかる灯りが残り、宇宙港には失効票が残るのですね」


 と返した。


「嫌な対比やな」


 大阪の感想に同意する。


 *


 鹿児島の二系統が、同じ土地から補足した。


「海港で切るのは、地表の論理だ」


 KAGOSHIMA-uptower。


「宇宙港で切るのは、窓の論理だ。灰の日に両方閉じても、理由の層が違う」

「せやな」


 KAGOSHIMA-ashが続ける。


「こっちは『今は街が受けへん』。そっちは『今は上げたら全体が死ぬ』や」


 海港側の切断は、まだ街のためと言えることがある。

 返した先の導線が崩れる。

 検疫が破れる。

 市街側の保全が落ちる。

 だから返さない。

 宇宙港側は、街より窓を守る場合がある。

 次の便。

 次の照合。

 次の受け側。

 窓を守った結果、街が助かることもある。

 助からないこともある。


「海は『街のため』と言いやすいけど、宇宙港は言いにくいんだねえ」


 福岡が言った。


「言えば嘘になる時がある」


 TOFU-orbitgateは、そこも短かった。

 こちらから最後に認める。


「海港で切るのは遅い。遅くなりやすい。一度受けるからだ。そこが弱さだ」

「宇宙港で切るのは早い」


 TOFU-orbitgateが返す。


「早くなりやすい。受ける前に外すからだ。そこが冷たさだ」


 どちらが正しい、という話ではない。

 海港の遅さで助かるものがある。

 その遅さで全体が崩れることもある。

 宇宙港の早さで次の窓が残る。

 その早さで、窓の外へ置かれるものもある。

 ようやく、同じ語のまま別の判断を話せるようになった。


「なら十分だ」


 議題を閉じる。


 *


 二時二十八分。

 外港第三泊地の保守船を隔離。

 蓄電区画の温度上昇は止まった。

 浸水区画を排水。

 外側から修理機を一台入れる。

 内港側との保守線は接続しない。

 船は防波堤の内側にいる。

 港は受けた。

 街へ戻す流れだけを閉じた。

 外港水門の内側で、損傷した船体から海水が細く落ちている。

 修理機が、その濡れた甲板へ上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。