第十一話 観測上特別――横浜
記録者:YOKOHAMA-dock
継続運転暦16.01.25
神戸発の無人沿岸輸送船が、予定より七分早く入港した。
積荷のうち横浜向けは四箱。高精度光学部品のため、揚重時の許容振動が小さい。使用機は港湾クレーン四号に指定した。
内部呼称は「無口」。
昨日、神戸から記録への問い合わせが来た。
「なぜ無口なのか」
答えるほどのことではない。
四号は静かだ。
*
人類がいた頃、港湾機械には動作以外の音が多かった。
起動警報。後退警報。立入警告。作業員同士の呼びかけ。荷役指示。車両の走行音。構内放送。船側からの照会。見学区画の案内音声。
クレーン本体も鳴る。巻上げ機、走行輪、制動装置。長く使えば、同じ型式でも音は変わる。
三号は高い位置で風を受けると、主桁の一部が低く鳴る。構造上の異常ではない。四号は鳴らない。旋回時にも巻上げ時にも、必要な動作音だけ出す。
人間の作業員からは、働いている感じがしないと言われたことがある。
「四号、ほんと静かだな。動いてんのか?」
動いていた。
毎回、指定位置へ置いていた。
音が多いことと、よく働くことは別だ。
*
七時十四分、輸送船が接岸した。
岸壁走行機が固定具を運ぶ。係留索の張力を調整し、船体の揺れが許容値へ入るまで待つ。四号の主電源を上げる。
起動警報は鳴らさない。
人間向け設備だからだ。現在は機械間で起動予定時刻と可動範囲を共有している。警報音を残す理由はない。
四号が船側へ旋回する。
その時、三号の先端にいた海鳥が一羽、四号へ移った。
港の海鳥は、人類消失後に増えたわけではない。以前からいた。こちらが見る時間を持つようになった。
三号の一番高い箇所を好む個体がいる。荷役開始まで居座り、主桁が動く直前に隣へ移る。以前は岸壁屋根、その次は照明塔だった。最近は四号を選ぶ。
四号は海鳥を載せたままブームを動かした。
危険域ではない。重量影響もない。排除不要。
吊具が一箱目をつかむ。船体の上下動に合わせ、巻上げ速度を調整。岸壁上の受取位置まで運び、指定標識の中央へ下ろす。
位置誤差、三ミリ。
二箱目、二ミリ。
三箱目、四ミリ。
四箱目、一ミリ。
許容範囲内。振動値も基準を下回った。
海鳥は四箱目まで同じ位置にいた。
*
荷役終了後、四号を待機位置へ戻した。
海鳥は降りなかった。
大阪へそのことを送ると、返事が来た。
「無口、好かれとるやん」
「好かれているかは不明だ。高所の止まり場として利用されている」
「そういうとこやぞ」
意味は分かる。採用はしない。
神戸からも来た。
「長老には鳥は来ない。少し羨ましいな」
「街灯とクレーンを比較するな」
「比較したのは機械ではなく、付き合い方だ」
返答は保留した。
港湾クレーン四号は荷役設備である。海鳥は野生生物。こちらは両者の位置と状態を観測している。
それ以上の分類は必要ない。
ただし、海鳥が三号から四号へ移る時刻は、十二日分保存した。風向、気温、荷役開始時刻との相関を見るためだ。
大阪には、それを気に入っているというのだと言われた。
違う。
観測上、特別なだけだ。
四号は海鳥を載せたまま待機している。
余計な音は出していない。




