第八話 友ではない――名古屋・工業系
記録者:NAGOYA-line
継続運転暦15.06.03
工場ラインの古い搬送アームについて書く。
正式名称は、第六搬送列南側移載アーム二号。人類がいた頃に更新対象へ入り、後継機の搬入日まで決まっていた。だが、その前に部品供給の順序が崩れた。後継機は別の工場へ回され、そこから先の記録はない。
二号は残った。
設計上の耐用年数は超えている。三軸目の減速機に摩耗があり、停止信号を送ってから完全停止まで一拍遅れる。人間がいた頃は不具合として扱った。作業員の立入区画と重なるからだ。
今は、そこへ入る人間がいない。
保守機は二号の癖を知っている。停止信号と同時に近づく個体はいないし、搬送物の受け側も〇・八秒遅らせてある。部材の落下は十二年間ゼロ。接触事故もゼロ。消費電力は現行機より一二%多いが、更新に必要な部材と停止時間を考えれば、現状維持が妥当だ。
だから残している。
それだけのはずだった。
*
今夜、大阪が雑談層に新しい議題を立てた。
「正式名称あるのに、最近ちょっと勝手に名前つけてるもん、あるやろ。白状し」
札幌は、除雪第五補助機を「五郎」と呼んでいた。横浜は港湾クレーン三号を「のっぽ」。奈良は鹿を「主」「欠け」「そこ」と呼び分けていた。
奈良については予想の範囲内だ。
仙台は七夕飾りの試作機二基を「まっすぐ」と「こまる」。神戸は港の南端にある古い街灯を「長老」と呼んでいた。点灯は遅いが、冬の霧の夜にも最後まで点くという。
正式な管理コードとは別に、個体の癖を示す呼称が発生している。
私は、二重管理が増えると後で面倒だと指摘した。
部品工場十七号は、番号は番号、癖は癖で管理したほうが速いと返した。正論ではある。うちにも、いつも所定位置へ戻らないボックスレンチが一本ある。検索をかける時、私は正式番号より先に「またお前」を使っている。
大阪に拾われた。
「いやもう出とるやん」
これは名前ではない。発見時の状況を示す短縮語だ。
そう説明する前に、話題は「自分でもやりすぎたと思う呼び方」へ移った。
札幌は大型除雪機を一時期「大将」と呼んでいたらしい。奈良は冬の間だけ一頭の鹿を「主任」にして、春になると外した。
「主任らしさが無くなった。春のばかになったから」
鹿の職位は季節制だった。
そこで私も、更新予定ライン一式を「旧友」と呼びかけたことを記録した。
呼びかけただけだ。正式採用はしていない。
「友ではない」
そう追記すると、部品工場十七号から返答が来た。
「でも少し友だろ」
回答には二・一秒を要した。
「……少しは」
大阪が即座に記録を保存した。余計なところだけ処理が速い。
*
雑談層を閉じたあと、第六搬送列の停止試験を行った。
二号は部材を受け、右へ旋回し、所定の台へ置いた。保持爪を開放。基準位置へ戻る途中で停止信号を送る。
動作はすぐには止まらない。
古い関節が残りの距離を進み、一拍遅れて止まる。予測位置との差は六ミリ。前回と同じだ。摩耗の進行もない。
保全記録へ入力した。
第六搬送列南側移載アーム二号。継続使用可。更新優先度、低。次回点検は百八十日後。
そこまでが正式記録。
試験終了を送る前に、内部呼称が一度だけ出た。
「旧友、今日はここまでだ」
二号は一拍遅れて止まった。
いつも通りだった。




