#9 当面の目標は
スライムに襲われていた姉妹を助けてから数日、俺は足しげくギルドに通い、酒場の最初に座ったカウンター席でコンソメっぽいスープを舐めながら、盗み聞きでモンスターの情報を中心に収集していた。
「字が読めないんじゃあ、本とか資料があっても読めないし。図書館っぽいとこはあったけど、まともに使えないんだよな」
小さくひとりごちながら、雑貨屋で買った紙とペンで、聞こえた情報を書き留めていく。
前に酒場でスライムについて聞いたのは、知能が低い、最も弱い、炎魔法に弱い、コアを破壊すれば即座に自壊するということ。
レッサートロールとスライムを相手にしてみた感じ、恐らく弱いモンスターに限っては、時間停止での不意打ちで必ず倒せる。
弱点を知らなくとも、めった刺しにすれば解決するだろう。
逆に言えば弱点を知らずに、ナイフの通らない硬いモンスターは倒せない。
ギルドでは冒険者同士で、昨日どんな依頼でモンスターを倒しただの、どういう計画を練って依頼をこなそうかだの、注意して聞けばモンスターに関する情報がそこそこ転がっている。
「やはり情報は命だ。知らずに突っ込んで、返り討ちなんてことになったら笑えないからな」
スープを飲み干し、紙を畳んでウェストポーチにしまい、代金を払って席を立つ。
ギルドの外はやはりここが王都だからか、活気に満ちている。
宿の延長と姉妹に使った分の薬の買い足し、資金調達についてもそろそろ考える必要がありそうだ。
このまま消費の一方では、支度金が尽きる。
「冒険者登録さえできればなあ」
冒険者なら依頼で報酬をもらうことができるし、モンスターの素材を売ることで、それもまた金になる。
冒険者ならね。
あるいは素材調達なら弱いモンスターなら問題ないし、誰かに頼んで売ってきてもらおうか。
今のところはそれしか思いつかないが。
「字が読めないってのが致命的だよな。どこ行ってもまともな仕事はできないだろうし」
そう、字が読めない問題を解消するまでは、できることが限られている。
しかしこれを明かせば異世界人、勇者であることにも繋がる。
この世界の他の国の人という言い訳も、会話はできるというチグハグさから通用しなそうだ。
賑わう大通りを進み、どうしたらいいのかと歩いていれば、いつの間にか教会の建物を見上げていた。
「神様、ね」
本当にいるなら助けてほしいもんだ。
せめてスキルが、他の人も同時に時間停止できたなら、高火力勇者と組んで表舞台にも上がれただろう。
魔王を倒すために勇者にスキルを与えているなら、倒した勇者しか元の世界に戻れない可能性もあるが、それに挑むことすらできない俺はどうすればいいのか。
不思議な力を得て異世界にいる、物語のような話だが、その実ままならないものだ。
教会の扉を潜り、シスターが隅で花を飾り付けている中、膝をついて祈った。
文句しか浮かばなくとも、結局今のところ神にすがる以外に道はなかった。
「この世界から戻れますように」
善行を積んでれば、いずれ神様も応えてくれるかもしれない。
強力で残忍なモンスター退治とかそういうのは無理だが、出来る範囲で人助けをしていこう。
それとなんとか文字を読めるようにして、元の世界に戻る方法を探すのを当面の目標としよう。
スキルが魔王と戦えるものでない以上、俺がこの世界にいる意味も薄いはずだ。
召喚した人らには悪いが、戻る方法が見つかり次第、この世界からはとんずらさせもらおう。
祈りを終えた後、シスターがこちらを向いて、にこりと微笑んでいた。
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