#10 協力者には名乗る者(偽名)
オーガの討伐って言ったって、こんなに多かったなんて……。
「C級向けじゃないのは確かね」
洞窟の中、ダンジョンと化す手前の状態でオーガが出没しているため、片づけてほしいという依頼を受けてきたが、さすがに多い。
C級推奨って書いたのはギルドの誰かしらね、帰ったらとっちめてやらないと気が済まない。
オーガを狩りながら洞窟を進んでいたら、気づけば増えていたオーガに囲まれていた。
しかし小部屋ならこちらに地の利はある。
足に魔力を集中させて、地面を蹴って飛び上がり、天井を蹴り、勢いのままに壁を蹴り、加速しながら剣でオーガを素早く切りつけていく。
力はあるが小回りの利かない、オーガ対策に編み出した戦法だ。
狙うは首だが、外れても手数で押し切れるものとして、小部屋を跳ねまわるように絶え間なくオーガを切り裂き、問題ないと判断して止まったころには、部屋中オーガの血で汚れていた。
「ふう、広間だったらさすがに危なかったかも。さすがに引き返して、別の冒険者もつれてくるべきかな」
剣の血を拭って鞘に戻し、部屋を出たところに冒険者と思しき人物が立っていた。
全身を覆うローブにフードを被っており、外見から得られる情報はないが、この洞窟に来ているということは、ギルドで私の前に依頼を見ていたりしたのだろう。
せっかくだ、ここに一人で来るほど腕に自信があるのなら、協力してもらってもいいかもしれない。
こちらからフランクに声をかけてみる。
「ねえ、あなたもオーガ退治? それならせっかくだし一緒に行かない?」
「いや、俺は君との交渉に来たんだ」
「私と交渉?」
その人物から返ってきたのは、思いもよらぬ返答。
はて、知り合いの冒険者にこんな珍妙な格好、聞きなれない声の人物はいないが。
胡散臭いが、まあ聞くだけ聞いて見るとしよう。
「交渉って、私の持ち物で何か欲しいものがあるとか?」
「いいや違う。話はいたって簡単だ、俺は訳あって素性を晒せないが金が必要だ。俺の代わりにモンスターの素材を売ってきてほしいんだ。もちろんタダとは言わない。売れた金額の2割は、お礼として君にあげよう」
「……なぜ私に? 頼むなら別の冒険者でもいいはず。こんな場所で交渉する必要もないし」
「ギルドで君の噂を聞いたよ。最年少にしてC級にまで上がる、今人気で話題沸騰中の女冒険者アリア。他のE級冒険者なんかだと、持ち込む素材が実力に見合ってなかったら不自然に思われるだろうし、実力のある人に依頼したくてね」
なるほど、私の実力を買ってのことらしい。
ではなぜここにいるのか。
「それならギルドで待っててもよくない?」
「わかってないな。さっき言ったように、君は結構人気なんだ。かわいくて強いとか、たくさん噂が聞こえてきたよ。そんな子に他の冒険者が見てる前で、堂々と声をかけるほど馬鹿じゃあない。素性を晒せない身とあっては、尚更ね」
「ふうん」
「だから君がここに行くって聞いて、後を追ってきたってわけ」
注目されるのは本意ではないと。
怪しいが事情は把握した。
これを利用するのもありかもしれない。
「ならこっちからも、ひとつお願いを聞いてもらってもいいかな。そちらの依頼を受けるなら、私のも受けてもらってこそ対等だし」
「可能な範囲であればね」
「このオーガの洞窟の掃討、一緒にやってほしいんだけど」
「うん、そう言われると思ったから、先にやっておいたよ。一緒に確認しに行こうか」
何を馬鹿なことをと思ったが、頷いて先を歩き出す謎のローブ男。
心でも読んでいたのか。
それが本当かを確認するべく、私もその後に続く。
そして先の言葉通り、歩けど歩けど私の視界に入ってくるのは、倒れて動かなくなったオーガだけ。
「うわ、本当だ。最奥まで倒し尽くしてる……」
「これでお願いは聞けたかな」
見てきたものは、全て心臓部を一突きか首を切られた致命傷で、一撃で終わっていた。
そもそもこちらの気配を敏感に察知してくるため、不意打ちは難しい。その上オーガ級になってくると、オーガの攻撃が強力なため回避や防御を強いられ、弱点を正確に狙うのは難しくなる。
しかし何十匹ものオーガに、これを全てやってのけていた。
魔法を使ったような痕跡もない。
なんだこの得体のしれない男は。
ローブの中にA級……あるいは、S級冒険者が入っていてもおかしくない。
この時点で少なくとも私よりも強い、対立は避けるべきだと第六感が警鐘を鳴らしていた。
「これ以上ない成果。ありがとう」
「じゃあこれ今回の分。回収した素材が入ってるから、これ売ってきてね」
渡された袋には、オーガのもの含め、雑多な素材が入っていた。
「わかった。お金の受け渡しはどこにする?」
「街から出て三本目の木の下で待ってるよ。もし逃げたら追いかけるから、そのつもりで」
「で、出てすぐね……。わかった」
もちろん逃げるなんてことは、今となっては微塵も考えられなかった。
少なくともこの人なら、私を殺そうと思えばいつでも殺せたのだろうが、手を出してきていないということは、言う通り交渉だけが目的だったのだろう。
「あ、それと俺のことはあんまり喋らないように」
「ええ、それはもう」
そんなこんなで街へと戻り、報告や耳を売り払って、フードの男にお金を渡すのだった。
「素性を隠してるなら無理には聞かないけど、これからあなたのこと、何て呼べばいいかな」
「あー……。グラスでいい。アリア、必要なときは俺から接触するから、その時その時でよろしく頼む」
「わかったわ」
それがグラスと名乗る謎の人物との邂逅だった。
評価やリアクションなどいただけると励みになります




