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#8 スライムと遭遇した姉妹

 しっかり母の言いつけを守っておくべきだった。


「お姉ちゃん! そのままだと死んじゃうよ!」


「馬鹿ね……姉が妹を放って逃げるはずないでしょ」


 両腕で頭を守りながら、ミリィを守るように立つ。

 相手はスライム、話に聞くのはたかがスライムだけど、それは冒険者にとっての話。

 武器を持って、いろいろなモンスターを倒してきた冒険者と一般人は違うということを、痛みをもって知らされていた。

 ぷるぷると無害そうな外見に反して、不意打ちで子供を突き飛ばすほどの力を持つ。


 母は再三にわたって、口酸っぱく言っていた。

「この先にはスライムが出るから、絶対に行っちゃいけないよ」

 しかしその先に行った友達によると、雑貨屋に行く近道があるらしく、連れられて行ってみれば実際にそれはあった。

 母の注意を忘れたわけではないが、今まで何度も通ったがスライムなんか出なかったし、スライムの話を聞く限り出ても逃げられるだろうと、甘く見てた。


 せめてミリィと一緒のおつかいじゃなく、近道を使うのは一人の時だけにするべきだった。

 倒れない私に、繰り返し体当たりをしてくるスライム1匹。

 体当たりしかしてこないから、冒険者の話に聞く鎧を溶かしたり、魔法を使ったりする強いスライムではないけど、私はそれより弱い。


「ぐっ! いだっ!」


「お姉ちゃん!」


 後ろには先にやられて怪我をした妹、スライムに全身を打ち付けられて、とにかく痛いけど一人で逃げることはできない。

 パンチもキックも意味はなく、吸収されてしまった以上、走れない妹を守る以外の選択肢はなかった。

 歯を食いしばって神に救いを求める。

 こんなときだけ図々しいのはわかってるけど、とにかくミリィだけは、妹だけは助けてほしい。


 全身を打ち付けられる痛み、いつ終わるともしれない痛み。

 これが母の言いつけを守らなかった罰なのかな……。

 腕の痛みが限界を迎えて、ガードを解いた瞬間、側頭部に体当たりをされて体勢が崩れて倒れてしまう。


「がっ!」


 体当たりの後で、ぷるぷると地面に落ちたスライムが見える。

 この後の痛みを想像して目を固く閉じる。

 ミリィの悲鳴が遠く聞こえる。

 ミリィ、ごめんね……。


「だ、だれか助けて!」


「その願い、聞き届けた」


 妹の叫び声に答えた謎の声。

 スライムからの体当たりもないので目を開けてみたら、そこにはかがんでナイフを持ったローブの人と、その足元にはボロボロに崩れて動かなくなったスライムの残骸があった。

 スライムはこの人が倒してくれたのだろう。

 痛む身体を我慢して身を起こす。


「遅れてすまなかったな。手当をしたらすぐに移動しよう。簡単なものしかないが」


「あの、私より後ろにいる妹から」


「だめ! お姉ちゃんが先! お姉ちゃんの方がよっぽどひどい怪我!」


「ミリィ……」


 それを聞いてローブの人は頷き、ナイフをしまって私の前にしゃがんだ。

 腰のポーチから軟膏と包帯とポーションを出して、腕、足、胴、頭と順に手当をしてくれた。

 その後でミリィの怪我も処置してくれた。

 そして立ち上がろうとしたが、全身の痛みでまともに動けない。


「っいだぁっ」


「無理をするな、家まで背負っていこう。また敵が出たら俺が対処するから、妹さんには家までの道案内を頼めるかな」


「うん、わかった」


 幸い再び襲われることはなく、ローブの人に背負われて街に戻り、家の前まで戻ってこれた。

 妹が先に家に走って行って、慌てたように中から母を連れて出てきた。

 そこで改めてローブの人は頷き、私を下ろした。

 私の姿を見た母は驚いて詰め寄ってきた。


「ちょっと! 全身傷だらけじゃない! 包帯こそ巻いてあるが大丈夫なのかい!?」


「えっと、この人が助けてくれたの」


「娘を助けてくれてありがとうね! 感謝してもしきれないよ!」


 ローブの人に頭を下げる母、揃って私も妹も頭を下げる。


「たまたま通りがかっただけだ。今回は相手がスライムだったからまだマシだったが、他のモンスターならもっとひどいことにもなりかねない。子供にはしっかり危険な場所に行かないように伝えた方がいいぞ」


 それを聞いた母が私に向き直り、烈火のごとく怒り始めた。


「あんた街の外の危険な場所に行ってたのか!」


「今までは大丈夫だった近道を……。今後は絶対使わないから」


 それを見てフードの人が踵を返して歩き去る。

 その後ろ姿に声をかけたのはなぜだろう。


「あの!」


「なんだ?」


「あなたのお名前を教えてください」


「……名乗るほどの者ではない」


 それだけ返して、その人の姿は雑踏に消えてしまった。

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