#7 冒険者ギルドに行こう
「レッサートロールだっけか、昨日のやつ。この世界で生きていく上では、モンスターについても調べておかないとな」
俺はあの後街に戻り、宿を先払いで1週間分取ってから部屋に篭った。
人助けとはいえ無謀が過ぎた、一歩間違えれば死んでいてもおかしくなかった。
反省に反省の時間だったが、生きているのでヨシとしよう。
宿の受付で帳簿に記名を求められた際は、偽名でグラスと書いた。
こちらの文字が読めないため、城でセーラに講義を受けていた際に、いくつかピックアップした単語を偽名候補として、城で過ごす間こちらの文字を練習しておいたのだ。
もちろんこちらの世界での意味は不明だが。
「しかし、意外と悪くないな」
宿は2階建ての木造だが綺麗に掃除されており、ベッドと隣接するように配置されたテーブル、タンスのような収納ボックスが配置されていた。
ドアの反対にガラスではなく開け放つ形の窓、カーテンもかかっており清潔感がある。
住めば都になるだろう。
「ご飯食べにいくかあ。街の散策もしたいし」
そう、この宿は残念ながらご飯は出ないのだ。
目立たないよう、裏通りの静かな店を選んだので、当然っちゃ当然なのだが。
とにかく目立たないようにをモットーにするため、昨日もけむに巻くべく名前を聞かれても答えなかったが、偽名なら名乗っても良かったかもしれない。
そんなことを考えながら、2階の自室から階段を下りて外へ向かった。
「うまっ」
朝からやっていた屋台の串焼きを食べながら、街を歩く。
文字が読めないため何の肉かはわからないが、柔らかな肉にタレが絡んでとにかくおいしい。
牛とも豚とも違うような触感を楽しみながら、地図を片手に大通りを一周。
街は地図の通り六角形になっており、中央に城と周囲を城下町が囲むようになっていた。
そこでふと目立つ建物を見つけた。
「多分教会かな?」
世界が違うなら、宗教や崇める神様も違うだろう。
興味本位で両開きのドアを開けてみる。
「おお、荘厳だ」
天井の高い教会の中は燭台のみで魔道具の電灯はなく、薄暗いながらも正面には演台と、何かの模様に彩られたステンドグラスから光が差し込み、左右に配置されたワインレッドの席も相まって、光の道のように錯覚させられた。
端には花が飾られており、十字架のような意匠も随所に見られる。
「あの、どうかされましたか?」
内装を堪能していたところ、暗がりからシスター姿の女性が歩いてきた。
「あ、悪い。邪魔であれば出ていくから」
「そんな、お邪魔だなんてとんでもない。ここはセリニース教会、民の皆様に広く開いておりますので、どうぞごゆっくり」
女性はぺこりと頭を下げて、暗がりへと戻っていった。
せっかくだしお祈りでもしていこうか。
城で聞いたように、この世界にはスキルを与える神様もいるらしいし、元の世界に戻れますようにと。
跪いて両手を重ねてしばらく祈り、教会を後にした。
「ここが冒険者ギルドか」
モンスターと戦う冒険者は、ギルドに所属していて貢献度で階級が分かれているそうな。
そういえば昨日会った人はA級とか言ってたな。
入口のそばにある宣伝看板によると、中に酒場もあるらしい。
そこで様子を観察しながら、会話を盗み聞きしてみようか。
踏み込んでみれば入り口の右に酒場、他は広間になっており掲示板やら冒険者など行きかう人で賑わっていた。
酒場のカウンター席に座って、メニューを指さして謎のスープを注文し、地獄耳を発動した。
「コンソメっぽいなこのスープ」
運ばれてきたスープをちまちま舐めながら、収集できた情報はというと……。
・冒険者はモンスターを倒したり、困っている人の依頼を引き受けて生活を支えていること。
・冒険者はギルドで登録をするとレベルという概念が付与されること。
・レベルは経験に応じて上がり、上がるほど人の域を超えた強さになれるということ。
・階級はE~A、その上にS、の上に勇者ランクがあること。
・勇者ランクは異世界の勇者用であり、登録時にスキル情報も開示する必要があること。
他にはモンスターの情報などもあったが、それはまあ別でいいだろう。
つまりここから導き出される答えは……。
「冒険者登録……しない方がよさそうだな……」
勇者は自らが勇者であることを開示した上で、特例扱いを受けれるように、専用のランクを設けられているとのこと。
だが恩恵にあずかるには、スキル開示も必要になる。
ここで明かした場合、城にも情報は流れるだろう。
この世界で生きるにあたって、上げると強くなるレベルという概念も必須だろうが、天秤にかければ自分の身の安全の方が重要だ。
勇者じゃないと嘘をついて、E級登録をできないこともないだろうが、階級が上がるにつれて身バレのリスクも上がるだろう。
そして階級というと思い起こされるのは。
「昨日のA級の人、強い人だったんだあ……」
上から2番目のA級、あの人はレベルを上げて色々頑張ってきた強い人だったのだろう。
そんな人が追い込まれかけた戦いに介入したのだ、時間停止があるとはいえ無敵ではない、改めて一歩間違えれば死んでいた事実に背筋を震わせていると、隣に誰か座って声をかけてきた。
「A級を見たのか、奴らS級には届かないまでも、相当な手練れだからな。あんたも目指してるってクチか?」
「そんなところだ」
声をかけてきたのは、一見軽薄そうな、それでいて体格のがっしりしている青年だ。
軽装にロングソードを下げており、あの重量を問題なく振りまわせる力があるということ。
Aとは言わずともBはあるだろうか。
「冒険者のカイルだ、よろしく。初めて見るけど最近来たのか?」
「ああ、つい先日な。金が入り用になった、新人冒険者のグラスだ」
「じゃあ俺より年上みたいだが、E級スタートの新人ってわけだ。そんな新人がA級を見たってなんでまた」
どうやら彼は、俺がA級とこぼしたひとりごとを聞きつけて、話しかけてきたようだ。
まんま話して聞かせるわけにはいかない。
そこで興味津々という様子のカイルに、ひとつ作り話をすることにした。
「実はモンスターに追い詰められてたところで、偶然助けられたんだ」
「へえ、どんな奴だったか覚えてるか?」
「確かミレイスって人。その時は知らなかったけど、後から調べてA級ってわかったんだ」
それを聞いて驚愕している様子のカイル。
何かまずかっただろうか。
「ミレイスってそりゃ、A級の中でもかなり上位、S級が見えてる人だ! この街に来てたんだな。で、どんな風に戦ってたか?」
「いや、レベルが低いせいか、とても目で追いきれなかった。すまないが話せることはないんだ」
「まあそれもそうか。さすがにE級にA級を追えってのも無理があるな」
うんうんと頷くカイル、A級への憧れが強いのだろう、なんだこの後方フォロワー面は。
しかしそれだけ話したことで、収穫はないと判断したのか、カイルは席を立った。
「まあこれも何かの縁だ。今後とも冒険者仲間としてよろしくな、グラス」
「ああ、頼りにしてる。カイル先輩」
別れの挨拶を交わして掲示板の方へ向かうカイル。
今後は冒険者偽装も兼ねてたまにギルドに、というより酒場に顔は出しておくべきか。
空になったスープのお椀を残し、代金を支払ってギルドから俺を出た後、雑貨屋で小型のウェストポーチと、傷薬や消耗品なんかを買っておくのだった。
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