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#6 レッサートロールに追われる者②

「なんなのよアイツは!」


 走りながら愚痴をこぼしても仕方ないだろう。

 レッサートロール5匹の討伐、新人の様子見でパーティに混じったまでは良かったが、変異種だなんて聞いてなかった。

 恐らく報告漏れだろうけど、1匹だけベテランでも手こずりそうなレベルが混じっている。

 なんとかそれは、生き残ったもう一人と分かれるようにして、こっちに誘導はできた。

 だがその後のことを考えていなかったため、こうして追ってくる変異種から逃げているのだ。


「強そうな頭、胴、四肢は無理として、弱そうなのは関節の内側と首。狙うならそのあたりか。逃げててもキリないしね」


 新人の二人を殺した攻撃の威力からして、私とて食らえばタダではすまない。

 攻撃をいなしつつ、喉は守られるだろうから、関節を削っていこう。

 足を止め、振り向きと同時に腰に下げたショートソードを抜き放つ。

 が、初撃は素早い身のこなしで、難なく後退して避けられる。


「知能もある程度高いと。持久戦も覚悟しなきゃかなこりゃ」


「グルルルル」


 威嚇するように、唸りを上げる変異種。

 こちらを雑魚という認識を改めたか。


 じりじりとお互いの様子を窺う一瞬を経て、変異種が動き出した。


「あぶなっ!」


 一度の踏み込みで一気に距離を詰め、私が避けた空間を変異種の剛腕が通り過ぎる。

 避けた勢いのまま1回転して背後から攻撃するも、変異種はこれをしゃがんで回避。

 しゃがんだバネを利用してアッパーに繋げてきたが、これをバックステップで避ける。


 変異種ということを差し引いても、およそレッサートロールには難しいであろう連撃。


「これトロールかも怪しいじゃん……」


 見かけはそれだが中身は別物といって差し支えない。

 再び開いた距離を詰られる前に、魔法を唱える。


「ウィンドブロウ!」


 圧縮した風邪で殴るように、変異種へ周囲からいくつもぶつけるが、両腕を構えて防御しており、効いている様子はない。

 動きを止めている間にこちらから接近して切りつけるも、肥大化した筋肉に阻まれ、浅くしか刃が通っていない。

 ならば手を変えるほかない。


「ファイアサイクロン!」


 基本的に雑魚は燃えカスと化すし、強敵相手にもある程度効果が見込める魔法だ。

 しかし、変異種の足元からごうごうと渦巻く炎の竜巻を発生させるも、悲鳴を上げることも暴れることもなく、ダメージにはなっていなそうだ。

 これで無理なら、やはり急所を狙うほかないか。


 ソードを鞘に戻し、上着の内ポケットから小回りの利くダガーを両手に握り、ファイアサイクロンの効果時間終了を待った。

 数歩下がることで勢いをつけて、一気に仕留める。



 そして炎が霧散した直後、変異種の首から刃が生えてきて、血を噴きながら変異種は絶命した。

 その背後にはいつからいたのかもわからない、怪しげなローブの人物。

 フードで顔は見えず、いかにもだ。

 その人はナイフの血を拭ってベルトに戻し、両手を上げて語り掛けてきた。


「白熱してたみたいだけど、邪魔しちゃったかな」


「いいや、それとは膠着状態だった。感謝する」


「なら手を出してよかったかな」


 声からして男だということはわかる、敵意はなさそうだ。

 こちらもダガーを収める。

 あの変異種の背後を簡単に取れるとは、何者だろうか。


「君の仲間っぽい男の子に頼まれてね。君を助けてほしいって」


「そうだ、彼は無事……なのだな。頼まれたということは」


「この近くにある滝の下で遭遇したよ。今はもう移動してるかもしれないけど」


「そうか、彼も助けてくれたのだな。ありがとう」


 ローブの男に頭を下げる。

 廃屋で二人の仲間がやられた時は、もうあの少年も駄目だと思っていたが、命を繋いだようだ。

 彼には天が味方してくれたか。

 いや、私もあのまま戦い続けていたらどうなっていたことか。

 私もツイていたらしい。


「私はA級冒険者のミレイスだ。何か礼をさせてくれないか」


「いいや、礼には及ばない。君の仲間の彼とは約束を取り付けたしな」


「そうではない。私を助けてくれたことへの礼だ。君の名前を教えてほしい」


「名前か、ふむ」


 フードから僅かに見える口元に手を当てて思案する男。

 そして顔を上げて一言。


「名乗るほどの者ではないよ。それと5秒ほど目を閉じていてほしい」


「わ、わかった」


 名前は聞けなかったが、一旦彼の言う通り目を閉じて5秒。


「目を閉じてほしいとはいった……い」


 目を開けて見れば、そこに男はいなかった。

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