#4 門出
「もう出立されるのですか。スキルが判明するまで滞在されても問題ないのですよ」
「いや、この1週間ほどスキルについて探ってみたが、一向にもうひとつは掴めないままだった。恐らく実践経験の中で見つかるものだと思うんだ。ひとまずは、この国の主要都市を巡ってみようと思う」
俺はあれから1週間ほど、セーラとのスキルの練習、地獄耳による城内の会話からの情報収集、時間停止中の地道なトレーニングをしながら、次の行動を決めた。
それは最低限の準備が整い次第、城を出てしまおうということ。
ちなみに嘘を流しただけで主要都市を巡るつもりはない。
まず、勇者の召喚には限られた資源を使うとかで、期待は高いらしい。
そして、魔王にぶつけるべく召喚している。
ついでに今まで呼び寄せられた異世界の勇者は、例外なく魔王と戦う力があったとか。
つまり魔王と戦えない俺は、悪い意味でのイレギュラー。
これがバレたらというより、魔王と戦えない勇者の処遇など誰一人考えてはいない。
それゆえに恐ろしいのだ。
スキル詐称バレを防ぐため、これからは徹底的に城の王家やその関係者からは雲隠れするつもりだ。
「では、こちらのバッグをお持ちください。中には支度金と城周辺の地図、一食分の食糧に勇者であることを示す書類が入っています。それと、勇者様が召喚された際の衣服も」
「目立たないようにって、服までもらって悪いね。短い間だったけど、世話してくれてありがとう。いってくるよ」
「いってらっしゃいませ。勇者様の旅路に幸あらんことを」
もらった服は簡素なシャツとパンツに、胸当て、肘と膝を覆うプロテクターと頑丈な靴だが、この姿であれば異世界人と疑われることもなさそうだ。
渡されたバッグを背負い、城門を出て城下町へ歩く俺に、頭を下げて送り出すセーラ。
諸々嘘をついてることに罪悪感はあるが、命には代えられない。
そうして暖かな日差しの中、俺の異世界生活が始まった。
「まずは武器、だよな」
城下町に着いて、地図を頼りに真っ先に目指したのは武器屋だ。
時間停止で逃げられるにしても、モンスターがいるなら持っておくべきだ。
地図は読めるのかって? ご親切に剣などのマークが描かれていたため、それは問題なかった。
やはり看板の文字は読めないが、扉を潜るとその店は、頭にバンダナを巻いたガタイの良い中年男性が店員をしていた。
「ん? お前さん見ねえ顔だな。まあうちの店は誰でも歓迎だがな」
「ここって武器屋で合ってるよな?」
「おう、好きなだけ見ていきな」
確認をとってから店を見渡すと、ショートソードからロングソード、メイス、モーニングスターなど、多くの種類を取り扱っていた。
物は試しにショートソードを握ってみた。
「うわ、おもっ」
小さめのものを選んだものの、剣は想像していたよりも重く、1週間トレーニングしただけの肉体では、まともに武器として扱うことはできなかった。
これを見ていた店員の男からひと言。
「にいちゃん。それで重いってんなら悪いことは言わねえ。こっちにあるショートナイフにしときな」
重さで無理だと確信した俺は、大人しくその言葉に頷き、ショートソードを置いて、彼の指さすカウンター付近のナイフを手に持ってみる。
それは包丁と同程度のサイズ、重さは少し重い程度で、問題なく振ることができた。
「おお、さっきのより軽い」
「そうだろうな。ウチの店じゃ一番軽い獲物だ」
「それじゃこれを予備も合わせて3本……。鞘はどこに?」
「ウチじゃ足に巻くベルトしかないのさ。これでいいならセットでまけとくぜ」
重量の問題で、まともに扱えるものはこれだけだろう。
どこからか出てきたベルトと3本のナイフと引き換えに代金を支払い、腿に巻いたベルトにナイフをセットする。
刃が覆われてないあたり少し怖いが、鞘を売ってない以上今は我慢するしかない。
ベルトからの抜き差しを動作確認してから、店主の男に礼を告げて店を後にする。
「次は服だな」
勇者であることは、恐らく面倒事の種になる。
城の関係者から目をくらますためにも、少しでも外見を隠せるよう、コートのような上着が欲しいところだ。
そこで向かったのは地図に示された服屋、の隣にある古着屋だった。
節約も兼ねて、目立たなそうなものを扱っている方を選んだ。
オレンジの灯りに照らされた狭い店内には、様々な服が雑多にかけられており、奥には気だるげな店主と思しき女性の姿があった。
さすがに一人で探すと時間がかかりそうだったので、カウンターまで進んで声をかける。
「ちょっといいか、全身を覆えるコートとかを探してるんだけど」
「コートか、いや全身を覆えるって方が目的か。ちょっと待ってな」
女性が立ち上がり、売り場からいくつか見繕って戻ってきた。
「ほれ、フード付きの長モノだ。状態が良くて高い方から白、緑、茶、黒だ」
カウンターに並べられたそれらは、言われた通り質が違った。
古着とはいえ白は金の刺繍があり、肌触りからして高級なものであることが察せられる。
緑色は隣の服屋でも売ってそうな、新品を合わなかったから売ったような、一般的なもの。
茶色は少し使い古されているものの、実用には問題ないだろう。
黒は所々穴が開いており、謎の液体が染みた跡も見受けられる。
一通り吟味した後、その中から俺は茶色のものを選んだ。
「じゃあこれで」
「まいど。私はてっきり緑にすると思ったがね」
「なぜだ?」
「あんた、いかにも新人冒険者って風体だからね。隣で見られるようなやつを、安く求めてこっちに来たんだろうと思ってさ」
「ああ、なるほど」
違和感の少ない服を城で用意してもらった甲斐はあったか。
改めて異世界人、勇者と見破られていない事実に安堵しつつ、上から茶色のローブを被って店を出る。
次は周辺の会話を聞きつつ宿を探そうと、地獄耳を発動して通りを歩きだしたところで、様々な会話の中に、切迫した声が聞こえてきた。
『ミザリーの安売りはしばらく先か。もっと買っておくべきだったよ』
『レッサートロールって、複数いたら狂暴になるから一気に殺さないとらしいけど、数百とかいたらどうなんだろね』
『メルヴィアの逸話、いつ聞いても信じられないよな』
『うわああああ! ま、まて! 来るな!!』
『今日も神に感謝いたします……』
評価やリアクションなどいただけると励みになります




