#3 異世界を学ぼう
「さて、これからどうするか」
俺はあてがわれた部屋を眺める。
ベッドからテーブルから椅子から、どれも豪華だ。
隣の部屋にはトイレとバスルーム完備、可能な範囲で城の中を観察した限りコード類は一切なく、電気を使っているようには見えなかった。魔法によるものだろうか。
ともかく、一旦椅子に座って、改めて状況を整理しよう。
「冗談みたいな話だが、俺は現代日本からゲームのような異世界に召喚され、戻ることは恐らく難しい。しかし同時に、地獄耳と時間停止のスキルを得た」
だが俺を召喚した少女には訂正せず、未判明とテレポートスキルと勘違いしてもらっている。
「時間停止とテレポートじゃ厄介度合が違いすぎるからな。長距離移動なんかはテレポートに軍配が上がるが、時間停止は応用が効きすぎる。それこそ盗み放題犯罪し放題ってレベルだ」
しかし魔法がある世界なら、犯罪の捜査も魔法が使われることは容易に想像できる、他に手がなくなるまではその手は封印しておくべきだ。
切り札は明かさないに限る。
「そしてこの2つのスキルでは到底魔王どころか、その配下にすらダメージを与えられない」
この世界に呼ばれたのが魔王への対抗策だというのなら、そして地獄耳で聞いた話が本当であれば、勇者のスキルを除いて、魔王に通るダメージは見つかってないということ。
「つまり俺は早くも戦力外ってことだ……はぁ……」
この状態、ため息ひとつくらい漏らしてもいいだろう。
せっかく強力なスキルがもらえるなら、火力が出るもので戦いたいのが男心というもので。
しかし現実は非情なり。
「銃なんてないだろうし……。爆薬、はあってもおかしくないか」
それでも魔王とは戦えない。
時間停止で近づいて、いいとこ少し強めのモンスターを爆殺というところだ。
「いつまでバレずにいられるかなあ」
俺を召喚した少女に地獄耳を未判明と嘘をついたのは、時間停止という切り札を隠すのと同時に、使い物にならないと判明した場合、どうなるのかわからないからだ。
スキルを1つでも伏せておくことで、それが強力無比である可能性が残る。
庇護を受けるにはこれを維持することになるが、あまり長くはもたないと思った方がいい。
逃げるべく城から出るにしても、情報が少なすぎる。この世界についていろいろと情報を仕入れてから、どうするかを決めよう。
「仕方ない、鍛えるか」
時間停止スキルがあるとはいえ、ここは地球とは違い、魔王でなくともモンスターとかいそうな世界。
鍛えておいて損はないというか、そうするべきだろう。
幸い時間停止で鍛える時間はいくらでも用意できる。
性能チェックも兼ねて時間停止スキルを使用して、腕立てと腹筋とスクワットをしばらく行い、風呂に入った。
スキルを使用している間、日が傾くことはなかった。
「しっかし、運動不足の社会人にはきついなこりゃ。フィジカルギフテッドみたいなスキルでもよかったのに」
汗を流して、ベッドの上でため息をひとつ。
暗くなるまで地獄耳を使って、城の方々から聞こえた情報をテーブルの上にあった紙に書きこんでいる内に、夜になっており、メイドの運んできた食事を摂ってから、その日は早めに眠った。
そして翌日、起きて部屋を出たらそこに昨日の少女が待っていた。
謎に目がキラキラしている。
「おはようございます、勇者様」
「あ、おはよう。えっと……」
「はっ、昨日はバタバタしていて申し遅れました。私召喚の御子のセーラと申します」
「うん、セーラね。どうしてここに?」
「召喚された勇者様に対しては、基本私が対応していまして。食事などはメイドが担当しておりますが。早速スキルの練習などされますか?」
なるほど、城では基本的に彼女が付いて回ると。
勝手がわからない以上、助かるのと同時に邪魔だ。
嘘がバレる可能性のある、スキルの練習を推してくるのもいただけない。
「いや、魔王と戦うにしても、そこまで行くのにこの世界の常識や知識なんかが必要だし、図書館みたいな場所はないかな」
「それもそうですね。であれば私がご説明いたします。こちらへ」
少し離れた部屋で、謎の教材のようなものが手渡され、いろいろとセーラに教え込まれた。
曰くここはザルドレ王国であり、ザルドレ王が治めていると。
曰く治安は悪くないそうだが、日本と比べればお察しだろう。
曰く周辺国と争いは今のところはないとのこと。
なるほど場合によっては、勇者が戦争に駆り出される可能性もなくはないらしい。
曰く魔王が巨悪であり、配下にモンスターがいると。
曰く市井には剣や魔法でモンスターを倒すものがおり、それは冒険者と呼ばれていると。
曰く冒険者ギルドに登録して云々やっていると。
なるほど魔王には手が出せないが、モンスターは勇者でなくとも倒せると。
曰く移動手段に電車や車はなく、馬車あるいは魔法であると。
曰くやはり魔法はあって素養と体内のマナが必要であると。
曰く勇者はスキルを保持している関係で魔法は使えないと。
なるほど勇者は魔法で誤魔化しができず、スキル一本で戦う必要があると。
ひと月が28日固定の8ヵ月で1年という暦は変わっているが、四季があって1週間は7日かつ1日24時間という点は地球と変わらない。
そして生活水準は、機械社会からは文明レベルで落ちている反面、魔法が補っている部分もあり、魔法が使えない人向けの魔道具なるものもあるそうな。
俺も魔法が使えない以上、魔道具は必須になるか。
そのほかにこの世界の常識や、通貨の価値など旅をする上で必要そうな知識は、粗方学ぶことができた。
食事を挟みつつ、1日かけて説明されたため外は暗くなり、魔道具のランプが灯りをともしていた。
ちなみに最初に手渡された教材は、日本語でなかったため読めず、図柄だけ適当に追っていた。
言葉は通じているのが、これまたわからないところだ。
「ひとまずはこんなところです。私のおすすめは冒険者ギルドに登録して、路銀を稼ぎながら魔王の下へ向かう方法でしょうか」
「ありがとう、いろいろ参考になったよ」
多くを学んだ俺は少女にお礼を告げて自室に戻り、時間停止して筋トレをするのだった。
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