#2 2つのスキル
異世界にて
目を覚ますとそこは壁に松明が用意された、薄暗い石造りの部屋だった。
頭もすこしぼんやりしている。
「ここはどこだ? 確か家で寝てたはず……」
正面には白装束の爺さんと、目を瞑った銀色の錫杖を握る少女。周囲を見渡せば他にも神官のような人が並んでいた。
立ち上がってみれば、足元には魔法陣のような紋様。
俺自身は部屋着のままだが、少なくとも自宅でないことは確かだ。
そして目を開けた少女が俺に気づいたのか、駆け寄ってくる。
「勇者様、お加減はいかがですか?」
「いや、特に問題はないが。勇者って?」
「今、この世界は危機に陥っています。どうか私たちをお救いください」
少し長かった少女の話を要約すると、世界を恐ろしい魔法を操る魔王やモンスターが荒らしまわっているため、強力なスキルが付与される異世界の人間を城に召喚して、戦ってもらっているそうだ。
冗談みたいな話だが、縋れるものに縋った結果なのだとか。
そうして冴えない現代人の、須澤良助が召喚されたのだと。
つまりここは日本など存在しない、異世界らしい。
「なるほど、状況は理解した。魔王を倒すために俺を呼んだと」
「はい。あれが世界に与える影響は計り知れず……。もちろん、そのための支援は惜しみません」
そんな縋るように話す少女に、大事なことを聞いておく。
「じゃあ魔王を倒したら、俺は元の世界に帰れる?」
「えと、それは……その……」
聞く限りでは、ここはゲームによくあるような剣と魔法の世界であり、現代にあったような便利な電化製品や食べ物は期待できない。
しかし言葉に詰まっているあたり、帰ることは厳しいらしい。
召喚されてしまった以上、駄々をこねてもどうにもならないだろうし、どうしたものかと顎をさする。
仕方ない、まずは自分のことから片していこう。
「とりあえず、与えられたスキルを確認したい。城の中のものを壊すわけにもいかないし、外で試したいんだけど」
「わかりました。こちらです」
俺の言葉に爺さんが頷くのを見て、それに少女が慌てたように案内のため、出口へ歩き出すのに続く。
部屋を出た先の通路を歩きながら見回せば松明は姿を消し、シャンデリアや煌びやかな装飾が目に入ってくる。現代とあまり遜色ないが、文明レベルはどんなものだろうか。
「ところでスキルって、何が与えられたのか、君の力でわかる?」
「そこまではわかりません。私は勇者様をお呼びする役割で、スキルは転移時に神様が与えられるものです。しかし、勇者様が意識することでなんとなく理解できる、と聞いています。例えば全てを溶かす炎を出せる者は、燃え上がるような熱を感じたり、氷を自在に扱える者は芯に寒気を覚えたり」
「なるほど」
「さあ、こちらが屋外の練兵場です。人払いはしてありますので、存分にお試しになってください」
少女が説明を終えて到着したのは、石壁に囲まれた空間に的や俵なんかがあり、天井はない中庭のような場所だった。
勇者を呼ぶにあたって、事前に人払いをしていたのだろう、俺と少女のほかには誰もいなかった。
これなら心置きなく試せる。
さてと、スキルスキル。
身一つで放り出された中、唯一頼れる力だ。しっかり確認しておきたい。
意識が重要だったか、心の奥やイメージが大事だろう。
目を閉じて胸に手を当て、深呼吸をする。
内側を探ってみるが……。なんだこれは?
「なあ、ちょっと聞いていいか? なんか2つくらい、スキルっぽいのがあるのを感じるんだけど」
「一説によると、神様が与えられるスキルは1つの勇者様もいれば、5つの勇者様もいらっしゃるとか。もちろんどれも強力ではあります」
なるほど、少女曰く俺のスキルはハイブリッドではあるが、多くもないらしい。
ひとつは輪郭が掴めない、波のようなものだが、これを中心から引っ張り上げるようにすればいけるか?
波とともに意識を浮上するように目を開けてみるが、特に風が吹いたり水が出たりするような変化はなかった。
が、その直後ノイズのようなものが聞こえた。
『……勇者召喚は成功したらしいが、これ以上呼ぶ必要なんてあるのかね。すでに優勢も優勢なんだろ』
『馬鹿言うな、相手は魔王だぞ、戦力は多いに越したことはない』
そして耳に流れ込んでくる、誰の物とも知らぬ声。
驚いて周囲を見回してみるが、やはりそこには俺と、俺を見て首をかしげる少女しかいない。
『事実、俺らスキル無しじゃ攻撃が通らねえ。どこまでいっても異世界人の、強大な攻撃スキルに頼るほかないのさ』
『まあそうか。追い詰めて倒せなかったらとか考えれば、多く呼んでおくに越したことはないな』
姿も見えぬ誰かの会話は続くが、スイッチを切るように自分の中の波を押し込めると、その会話も聞こえなくなった。
少女に手を向けて少し離れる。
「少し待っていてほしい」
「はい、いつまでも待っております」
そうして波のスイッチを入れると、再び先ほどの二人の会話が聞こえてきた。
ついでに練兵場の石壁の一部から、空間を揺らす波が見えるので、恐らくあの壁の向こうに会話をする二人がいるのだろう。
ここにいない者の会話が聞こえるならば、これは聴力強化といったところか。
しかし、波のスキルをつけたまま足を踏み鳴らしたり、手を叩いてもうるさく感じることはない。
つまり単純な聴力強化ではないということ。
恐らく遠隔で会話や声を拾えるというスキル。現時点で名付けるなら、地獄耳といったところか。
「これだと厳しいか……」
先ほど偶然聞こえてきた話も考えると、魔王に対抗するにはスキルによる超威力の攻撃が必要ということ。
もちろん地獄耳も悪いスキルではないが、攻撃系の当たりスキルを引けなければ、戦う土俵にすら上がれないということ。
となると頼みの綱は、二つ目のスキルだが……。
「なんだ、この薄い円形は……」
感じるものは、三本の棒の付いたフリスビーのような、謎の円盤。
波よりは引き上げやすく、意識を浮上させると、これまた何も起きていなかった。
体内にビームでも出せるような、エネルギーも感じない。
試しにその場を歩き回ったり、拳を空に振るったりしてみるが、やはり何も起こらない。
しかし落胆するには早い、地獄耳の方も会話が聞こえなければわからなかったのだ。条件が整っていなかっただけで、今後過ごす上で判明するだろう。
息をついて、少女の元まで戻ってスキルを切る。
すると少女が驚いて固まっていた。
「えっ」
「残念ながら2つスキルのうち、1つしか今はわからなかった」
「ゆ、勇者様……! テレポートスキルですか!?」
「テレポート?」
「今、一瞬で私の近くまで戻られましたよね!?」
目を丸くして少女が驚いている。
前言撤回、今の発言を聞いてわかった。
少女から見たら俺は瞬間移動したかのように見えたが、俺自身は歩いて移動したのなら、もう片方は時間停止スキルだ。
あの薄い円盤も、今にして思えば時計だったのだろう。三本の棒は時間を指し示す針だ。
試しに時間停止をもう一度使ってみれば、あわあわしている少女が固まった。
先ほどは俺と少女のほかには誰もおらず、少女のことも気にしていなかったせいで、動かないのに気付かなかっただけだ。
そこで俺は、1つ芝居を打つことにした。もう一度少し歩いてから、スキルを解除する。
一瞬で離れた俺を見て、興奮したように確信する少女。
「やはり1つはテレポートスキルです! これでもう1つが強い攻撃スキルだったら、魔王に十分対抗できます!」
「テレポートなのかな。移動する感覚がすこし慣れなくて、あんまわからなくてさ」
「無理もありません。歩いての移動ではなく、瞬時に別の地点への移動なのですから。これから感覚を上手く掴めるように練習と、もう1つのスキルも探っていくということで。今日のところはこのくらいにしておきましょう」
そうして上機嫌の少女に城の豪華な個室まで案内された。
城とか初めて来たけど客室でもすごいな。
「それでは、しばらくしたら夕食をお持ちしますので、それまでお寛ぎください」
そう言い残して少女は歩き去っていった。
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