#1 名乗るほどの者ではない
「なんでこんなことに!」
こんなはずじゃなかった……。
必死に走るが私を追跡してくるオーガは、一向に振り切ることができない。
振りむけば怒りの形相で棍棒を握り、追いかけてくる巨躯が見える。
元は畑を荒らすスライム退治の依頼だったはずなのに、その近くがオーガの縄張りで踏み込んでしまったことが原因だった。
到底スライム相手が精一杯の私が敵うはずもなく、とにかく逃げることしかできなかった。
どうにかしてあれを撒いて街に戻らないと。
「あっ」
考え事をしながら走っていたせいか、足元の石に気づかずに蹴躓いて、勢いそのままにゴロゴロと地面を転がっていた。
倒れ伏す私にようやく追い詰めたと言わんばかりに、歩いて迫りくるオーガ。
恐怖から後ずさりすることしかできず、もはや目を瞑って神に祈る他なかった。
オーガの咆哮が遠くに聞こえる……。
「だ……誰か助けて!!」
「その願い、聞き届けた」
返事があったことに驚き、目を開けるとそこには古びたローブを纏いフードを目深に被った人物が、オーガを剣で切り伏せる光景があった。
その人は何でもないかのように、剣を振って血を払い、こちらを向いた。
「大丈夫だったか?」
「は、はい。ありがとうございます」
フードの下に仮面もあって誰かは分からないが、助けてくれたらしい。
「あの、なぜ私を助けてくれたのですか」
「貴様が助けを求めていたからだ」
「そうだ、お礼をさせてください。まずはあなたのお名前を……」
「名乗るほどの者ではない」
そう言い残してその人は闇を発生させ、その中に溶けるように消えてしまった。
あの人は一体何だったのだろうか。




