#29 元指名手配犯
「おいおい、なんなんだよあれはよ」
「わかるわけないだろ……。しかも正体ミレイスじゃなかったし」
「それは散々言ったじゃん……」
デメルとミレイスと並び、三者三様の感想を漏らす。
ナイフではなく魔法を多用していたこととか、その使う魔法がどれも知らない聞いたことのないものだったこととか、そんなことはどうでもよくなってくるほど、最後の一撃が現実離れしていた。
ミレイス三人分、あるいはS級冒険者が必要だっただろう相手を、一撃で葬り去ってしまった力。
近くまで来てみれば、地面からはシュウシュウと煙が立っており、穿たれた大きな穴は深くまで焼け焦げていた。
「こいつは穏やかじゃないな……」
デメルが呟きながら、地面の穴を挟んで向かい側にいる件のローブの人物と対峙する。
もしあれの二度目があったら、なんてことも考えたが光り輝く剣は鞘に収まっており、こちらに使う気はないらしい。
デメルが相手に問う。
「お前は何者だ」
「名乗るほどの者ではない」
ローブのフードの下、その仮面の下から響く声からは何も感じ取れない。
ミレイスもまた問う。
「王都を救ってくれたことは感謝してるわ。でも先日の件といい、少しでも話してくれないかしら。せめて名前だけでもいいから」
「名乗るほどの者ではない」
ローブの人物からの返答はこれまた同じ。
俺からも問うてみるべきか。
「これほどの力だ、ギルドの管理下にないなら場合によっちゃ、お尋ね者として手配される可能性もある。それはお前も困るだろう」
「名乗るほどの者ではない」
何一つ情報を落とさないか。
ここまで来ると、得体の知れなさから不気味ですらある。
そこに横合いからアリアも顔を出してきた。
「あの、一応その辺にしておきませんか? 仮にも私たちを助けてくれた人ですし」
「アリアの意見もわかる。が、こんなもの見せられた以上、ありがとうございました、それだけで素直に帰すこともできんのだよ。理解できるな?」
「……」
デメルが追及に乗り気でないアリアを抑え込む。
やはり、さすがに野放しにはできない。
いつまでも並行線が続くならば、力づくでも情報は吐かせるべきか。
俺が剣に手をかければ、デメルとミレイスもそれぞれ武器を握る。
これを見てローブの人物もナイフを構えた。
「そこまでです」
一触即発の空気に割り込むように、ローブの人物の背後から静止をかけたのは、王都の教会で見かけるシスターだった。
なぜここにいるのか。
こちらが依然として警戒を解かない中、ローブの人物は一転柔らかな声音で、シスターに剣を渡した。
「シスターさん、これ返すね。ありがと」
「こちらこそ助かりました、感謝してもしきれません。ここは私に任せて、行ってください」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
剣を手放したローブの人物は、シスターを置いてそそくさと逃げ出した。
あの剣が借りものだったとかは後でいい、逃がすわけにはいかない。
「逃がすか! 二人とも追うぞ!」
武器を抜いて俺たちが走りだしたところで、シスターがなにかを唱えた。
「セイント・ロック」
直後三人の両手に背後から伸びる輝く鎖が巻き付き、動きを封じられていた。
引っ張れど引っ張れど、鎖はちぎれることがない。
魔法も発動を試みるが封じられており、使えなくなっていた。
この聖属性の感じは、シスターによるものだろう。
「これを外すんだ。奴は野放しにしていい奴じゃない」
「彼はとてもいい人です。ぽっ」
「いい人ってなんだ、いい人って……」
価値観の違いだろうか、ぺたぺたと頬を触るシスターはローブの人物とは別のベクトルで、しっかり話が通じないときた。
同じく鎖に捕らわれたミレイスも口を開く。
「別に殺そうってわけじゃないの。あの人と話をするだけだから、ね?」
「彼はそれを望んでいません。どうしてもと言うのなら、私を殺していくことですね」
「この状態でもそれ言うんだ……」
ミレイスが鎖を引っ張るが、これまた引きちぎれることはない。
しかしこういう時に、真っ先に突っかかっていきそうなデメルが大人しいのは何だ。
「おいデメル、お前からも何か」
「いや、こいつどっかでみたことあるよーな……」
「知り合いか?」
「あっ! 思い出したぞ! しばらく見てなかったが、手配書にあった顔だ! 名前は確かメルヴィアだったはずだ。手練れの冒険者でもあり、かなりの重罪で高額手配になってた奴だ」
指名手配のリストは追っていないから知らないが、デメルが言うのならそうなのだろう。
つまりローブの人物も怪しいと見るべきか?
それが明確になった今、問題はこの状況だろう。
指名手配犯に拘束されたA級冒険者三人、まずいどころじゃないぞ。
「なんだって犯罪者が聖職者やってんだ。おまけに聖属性の結界や縛りも使えるときた。普通は悪しき者には使えないはずだが、どんなカラクリだ」
「私が悪しき者ではないだけですよ」
「嘘おっしゃい」
独特な切り口のデメルだが、これも情報を得られない。
そこで今度はシスターから提案があった。
「私としては彼を追わないでもらえれば、それだけでいいんです。約束してもらえますか?」
「それが難しいんだって」
「わかりました、言い方を変えますね。彼を追うというならその者から殺します。A級を失うのは惜しいので、私に殺させないでください」
「……」
表情こそ変わらないが、本気なのだろう。
これが普通のシスターなら一笑に付していたが、現にA級三人を拘束して無抵抗にできている。
レベルによる耐久強化も貫いてくると考えるべきか……。
頭を回していれば、ミレイスがため息をついた。
「……仕方ないわ、二人とも。あの人を追うのはやめましょう」
「ミレイス、本気か?」
「本気。追うならこの場で殺されちゃうんだから、諦めるしかないでしょうよ」
「それもそうか……」
ミレイスの提案でようやく諦めがついた俺たちは、揃って口を開く。
「「「あの人のことは追いません」」」
「みなさんよくできました。ギルドまでお連れしますね」
シスターの左手が輝きを帯びる。
「エナジードレイン」
その言葉を聞いた俺は、深い眠り落ちていた。




