#28 先達の遺したもの
最悪だ、これこそ最も危惧していた状況だ。
ナイフが通らない、手持ちの魔石も一切通用しない敵、魔人が立ちはだかる。
こっそりカイル先輩をはじめとした三人の冒険者が戦う様子を窺う中で、朱の秘宝はドブさらいの時に見つけた石ではないかと考え、時間停止で役場まで取りに行ったはいいものの、どうやらこの宝石と一緒に他の部位もあったらしい。
見つけたときは既にこの宝石単体になっていたから、その前に壊れるか宝石だけ外れるかしたのだろうが、他の部位は行方が知れない以上どうしようもない。
どうしようもないなら、魔人にお帰り願うか倒すほかないが、その手も持ち合わせてないときた。
「だからと言って逃げるのは簡単だけど、あの街は無事じゃすまないだろうし……」
先に時間停止をして魔人の鎧、そして鎧の隙間から肌に直接攻撃もしてみたが、ナイフの方が折れたのだ。
時間停止スキルは、闇を生み出す魔道具で自らを覆って魔法のように演出しながら使い、魔人の剣を余裕をもって避けるが、これだけではダメだ。
「フィフドレス・アイス!!」
氷の魔石をいくつか魔人に使用するが、やはり全く効いていない。
こちらの世界の魔法なんて碌に知らない以上、魔法名はアドリブで魔石を適当に使用し、ヘイトを稼ぎながら、怒り狂いこちらを狙う魔人を観察する。
大きさはおおよそ3メートル以上、剣の風圧はあるが攻撃は大振りで、余裕をもって避けられるところは救いか。
カイル先輩の武器でも全然ダメージにならないあたり、鎧にも肉体にも生半可な武器ではダメージを与えられない。
弱点だとしても顔や頭は高すぎて攻撃が届かない、なんなら頭にはヘルムを被っている。
恐らくこの場で最も強いであろう、ミレイスの炎魔法も無理だったあたり……。
「無理ゲー極まってるなあ……。アリア! いるなら少しの間囮になっててほしい!」
恐らくこの場に来ているのであろうアリアに向けて叫び、強烈な光を発する魔石、カメラのフラッシュのような魔石を魔人とは別の方向に投げれば、どこからかこれを走ってきてキャッチし、ちゃんと魔人に使用してくれた。
魔人の目線のある地上4メートルあたりで強烈な光が走り、ヘイトがアリアへと向いた。
その隙に一旦魔人の側から離脱し、距離を取ってアリアを狙う巨人を改めて眺める。
「何度考えても、手詰まりも手詰まりだ。この手は使いたくなかったけど、街の店とか徹底的に物色してくるしかないか」
「お困りでしょうか」
「ああ、お困りだね。攻撃が通らないあれはお手上げだ」
「であれば、こちらから好きなものをお選びください」
呟いたひとりごとに背後から返してきたのは、教会にいたシスター。なにやら武器を持ってきていた。
なぜ魔人と戦うこの場にいるのかは不明だが、力になってくれるらしい。
ごとごとと地面に並べられる武器達は、どれも素人目に見ても一級品であることが窺えたが、そこにも問題はあった。
いくつかある中で試しにメイスを握ってみるが、重すぎて持ち上がらないし、軽そうなレイピアや短槍でさえ持ち上げるのが精いっぱいで、まともに扱えない。
駆け付けたシスターにばれないよう、フードと仮面の下でこっそり絶望する中、目に入ってきたのは、剣が収まった小さな傷のついた鞘だった。
傷は文字のように見えて、これまた重いが剣の鞘と柄を持って、近くで見てみた。
「これは日本語……か? ええと『この文字を日本語と認識して唱えた場合のみ、力を貸し与える。起動キーは起動』」
そこまで言うとごとんと鞘が外れて、刀身の短い剣が露わになり、青白く光る長い刀身が剣を覆った。
「今まで誰も抜けなかった剣が……」
シスターは何か言いたげにしてるし、衝撃の事実として俺より前にも、日本人がこの世界に来ていたことについては確定的になった。が、それはこの場を切り抜けた後に考えることだ。
鞘が落ちれば、その裏にも何か刻まれていた。
「なになに『剣は魔力充填式で叶えうる限りの想像を振るうことなく具現化する、使い終わったら鞘に戻すように』か」
つまるところこれは鞘が充電器で、想像したとおりに動く魔法の剣らしい。
正直短い刀身でも結構重いから、振るわなくてもいいのはとても助かる。
こう、聖剣って感じもする。日本人への配慮だろうか。
「シスターさん、ちょっと行ってくるね」
「はい、お気をつけて」
シスターに一声かけてから、闇の魔道具と時間停止でアリアを追い回す魔人の下へと戻る。
「アリア! 助かった! もう離れていいぞ!」
「わかりました!」
「魔人はこっちだ! エレメントバースト!」
魔法の剣がどういう挙動をするのかわからない以上、巻き込んではいけないので、アリアを先に離脱させて、残りの魔石を属性関係なく全て放ち、巨人のヘイトをこちらに戻す。
そして巨人が行動を次の起こす前に、魔法の剣を両手で高く掲げて適当に技の名を唱える。
「マキシマムインパクト!」
次の瞬間、極大の光の奔流が天から降り注ぎ、魔人を焼いていく。
これ自体は想像通りの光景の具現化だったが、眩しいしめちゃくちゃ余波の熱風が熱い。
想像をはるかに超えていて、なんならこっちが先にやられそうですらあったが、じきに降り注ぐ光は細くなり、途絶えていった。
光が降り注いだ後のその場所は、地中深くまでえぐれており、魔人は跡形もなくなっていた。




