#27 鎧の魔人
ズシンズシンと歩を進める、その振動がこちらまで伝わってくる。
遠くに見えるは鎧を纏い、筋骨隆々の燃えるような赤い体に赤い瞳、そして剣を握った魔人だ。
その背丈は俺たちの倍はあるだろう。
あれを見て、隣に並び立つデメルが口を開く。
「カイル、あれをどう見る」
「俺たちでやれるかはかなり怪しい。交戦して無事に生き残れたら御の字ってところだ」
「やっぱそれくらいはあるよな……」
デメルが渋々納得しているあたり、こいつの見立てでもかなり厳しいらしい。
冒険者ギルドから、強力なモンスターが王都の壁の外に現れたということで、今いるA級2人で先頭に立っているが、ここまでとは聞いていない。
アリアは連絡兼遊撃兼雑用係として隠してあるものの、遊撃は期待できそうにない。
背後にB級以下の冒険者も控えてはいるが、こちらも当たるのは難しいだろう。
「あれが街に入ったらヤバイぞ。周りの奴らは何やってるんだ」
「城まで破壊し尽くされるだろうな……」
他人任せだがデメルの不満もわからないでもない。
ザルドレの城は国の中心にあり、外側へ広がるように村や街が点在しており、強力なモンスターは外側で活動する冒険者により倒されるため、城の近くまで来るということはない。
が、こうして来ているということは、止められなかったのだろう。
王都にいるA級冒険者が少ないのも、王都近辺は安全という理由からだ。
ゆえにこうした事態が起きた際の対応は困難を極める。
あともう一人この場にはいないが。
「ミレイスもいたら話は違ったが」
「呼んだ?」
口に出せば、横から返事が。
振り返ればそこには、A級冒険者のミレイスその人が立っていた。
A級の中でも上位に位置する彼女がいれば……。
「来てくれたか、助かる」
「期待してるところ悪いけど、私が一人じゃ部の悪い賭けになる。あれには、せめてもう二人は私と同等のA級が必要かもしれない」
「……」
悔しいが同じA級ではあるものの、カイルとデメルではミレイス二人分とは見なされないらしい。
だが贅沢は言ってられない。
魔人がすぐそこまで歩みを進めてきている。
「俺とデメルで注意を引いてミレイスの攻撃を通す! デメルは正面を頼む!」
「力関係からしたらそうなるわな。ミレイス、あんただけだ頼りだ。任せたぞ」
「まあやるだけやってやるわ」
それぞれ散開して魔人と対峙する。
ミレイスは魔人の背後へと回り、魔力のチャージを開始し、デメルがその図体に似合わず飛び上がり、大上段から大剣の一撃を繰り出すが、魔人もこれを剣で難なく弾く。だがデメルも姿勢を崩すことなく、そのまま魔人と打ち合い始める。
だがデメルが劣勢であることは明らかであり、そのために二人で来たのだ。
俺も魔力を流した片手剣で魔人を横から切りつけるが、浅くしか刃が通っていない。これで切れない相手は初めてだ。
しかしこちらにも注意が向いた。
そして襲い来る魔人の剣。
「フローズンシールド!」
これを魔法の盾で防御すれば、一撃で壊れてしまったが、一撃は無効化できるらしい。
フローズンシールドを連続で使用することで、剣の連撃に対応する間も、デメルがこちらを向いている魔人を削る。
「デメル! どんな感じだ!」
「消耗はしてるだろうが、やっぱ俺らじゃ無理だ! ミレイスしかねえぞ!」
話していることでデメルの方にも気を向けたか、一転デメルへと標的を変えた魔人。
「フローズンシールド!」
そこでデメルの前に盾を発動し、振り向きと共にあった鋭い一撃をいなす。
二人を襲う攻撃に合わせてシールドを発動し、なんとかしのぐ中、初めて魔人が声を上げた。
「貴様ら人間が朱を湛えた秘宝を隠していることを知っているぞ! 俺は失ったそれを取り戻しに来た! 返すつもりはないということだな!」
秘宝だと? 心当たりはないが、恐らく王都のどこかに宝が運び込まれたというところだろうか。
しかし心当たりはない、渡して穏便に追い返すことが敵わないのならば、倒すほかない。
デメルと二人で巨人の攻撃を引き受けること数分、チャージをしたミレイスの準備は整っていた。
「飛ばすぞ二人とも! 退け! マキシ・フレイムランス!」
ミレイスの合図とともに俺とデメルは巨人から距離を取り、直後ミレイスから特大の炎の槍が放たれ、槍は魔人に刺さった直後爆散した。
炎と煙が魔人を包む。
「やったか!?」
しかし大きな爆発の中から現れたのは、それを問題ともしない様子の魔人だった。
「その程度で俺を倒せると思ったか。舐められたものだな、人間よ」
「万事休すか……」
「終わりなら俺は行くぞ。あの人間の住処を滅ぼして、秘宝を探さねばならん」
今いる最高戦力のミレイスがチャージをした上で、恐らく使ったのは使える中でも一番強い魔法だろう。
呆れたような表情を見せる魔人を前に、次にできることはなんだ。
必死に頭を回していると、聞きなれない謎の声が響き渡った。
「巨人族の王よ! あの都市に流れ着いた宝を探しているのか!」
「俺は巨人族ではない! 魔人をあのような野蛮な奴らと一緒にしないでもらおうか」
「すまなかった、魔人族の王よ!」
「俺は王でもない! 我らが王を愚弄するか!」
謎の声は、いつからか俺たち三人のほかに魔人の側にいた、ローブ姿の人物のものだった。
最近噂になっていた人物だろうか、いやしかしミレイスはそれとは別にいる。
どういうことだ。
突然の展開についていけない中、ローブの人物の話も続く。
「朱の秘宝とはこれのことではないか!?」
その人が掲げた右手には、透き通り赤く輝く宝石。
魔人の探している物を見つけてきたのだろうか。
剣を下ろし、その宝石をまじまじと眺める魔人。
「確かにそれこそ俺が探していた秘宝の一部だ。だが一部だ、他の部分はどこにやった! 壊したか! 売り払ったか! 魔人の秘宝を穢した罪を贖ってもらうぞ!!」
そう叫ぶや否や、烈火のごとく怒りだした魔人。
今までは本気になっていなかったのか……。
「仕方ない、フォークリエット・サンダー!」
それに対してフードの男も聞いたことのない雷の魔法を放ち応戦するが、やはりミレイスのもの同様効いている様子はない。
「シャドウステップ!」
反撃をする魔人の一撃を、これまた聞いたことのない影が覆う魔法で躱した。
少なくともあの者は、魔人を諫めるために宝石を持ってきたということは、王都を守るために来ているのは間違いないはず。何か魔人に対処する手はあるのだろうか……。




